
執筆者:辻 勝
会長税理士
整形外科開業の要点|リハビリ施設基準を整理|税理士が解説

リード文
整形外科の開業でリハビリを併設する場合、核心は「リハビリを“やる”」ではなく、保険診療として算定できる施設基準に合う形で人員・部屋・運用を設計することです。とくに運動器リハは、スタッフ採用と機能訓練室の面積がボトルネックになりやすく、物件選定や内装計画の段階で詰めておかないと、開院後に算定区分を下げざるを得ない事態になりがちです。これから整形外科で独立する院長に向けて、リハビリ施設の設置基準と、開業実務に落とし込むポイントを整理します。
リハビリ施設基準とは|運動器リハの算定区分と要件
整形外科クリニックのリハビリは、診療報酬上は運動器リハビリテーション料(Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ)を想定することが一般的です。算定するには、厚労省が示す施設基準に適合し、地方厚生(支)局への届出を行っている必要があります。
施設基準の「差」が経営に与える影響
区分が上がるほど、必要な専従スタッフ数が増えます。つまり「採用コストは上がるが、提供体制は厚くできる」構造です。開業初期は患者数の立ち上がりが読みにくいため、次の2点を同時に検討します。
- 需要予測(外傷・術後・慢性疾患の比率、近隣の競合)
- 採用難易度(PT/OTの確保、常勤・専従の運用可否)
運動器リハ(Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ)の主要要件(診療所向け要約)
下表は、診療所で特に影響が大きい「医師要件」「スタッフ要件」「部屋要件」「備品」を整理したものです(詳細は必ず原典と厚生局の運用を確認してください)。
| 区分 | 医師の要件(抜粋) | PT/OT等の要件(抜粋) | 機能訓練室(診療所) | 主な備品(例) |
|---|---|---|---|---|
| Ⅰ | 運動器リハ経験を有する専任・常勤医師1名以上 | 専従・常勤PT/OTが合計4名以上 | 45㎡以上の専用の機能訓練室 | 角度計・握力計等、血圧計、平行棒、姿勢鏡、車椅子、歩行補助具等 |
| Ⅱ | Ⅰと同様(経験医師の要件あり) | 専従・常勤PT2名以上、またはOT2名以上、または合計2名以上(経過措置の規定あり) | 45㎡以上 | 上に同じ |
| Ⅲ | 専任・常勤医師1名以上 | 専従・常勤PTまたはOTが1名以上 | (原典に従う。一般に機能訓練室の設置・図面添付が求められる) | 運用上は測定器具・歩行訓練関連等を整備 |
施設基準を満たすための設計・人員計画
施設基準は「書類で届出すれば終わり」ではなく、監査・個別指導でも見られる“実態”が重要です。開業準備では、次の順序で要件を実装していくと手戻りが減ります。
人員(専従・常勤)の設計:採用市場から逆算する
- Ⅰは「専従・常勤が合計4名以上」になり、採用難易度が一気に上がります。採用の確度が低い場合、Ⅱ→Ⅰへの段階的移行(増員後に区分変更届出)を設計に織り込むのが現実的です。
- 「専従」は、同時間帯に他業務へ回す運用が難しくなります。受付補助や物療対応を兼務させる前提で採用すると、基準未達となり得ます。
機能訓練室のレイアウト:45㎡を「使える形」にする
45㎡は“広さ”だけでなく、“動線”が診療品質と回転に直結します。代表的には以下をゾーニングします。
- 評価・測定ゾーン(バイタル、関節可動域、筋力)
- 歩行訓練ゾーン(平行棒、段差、歩行補助具)
- マット・ベッドゾーン(治療台、訓練マット、重錘等)
- 物理療法ゾーン(導入する場合は安全管理・電源計画)
備品・記録・カンファレンス:見落としやすい「運用要件」
施設基準には、器具の整備だけでなく、リハ記録の一元管理や多職種カンファレンスの実施が含まれます。電子カルテ導入の有無にかかわらず、次は開院前に運用を固めます。
- 医師指示、実施時間、訓練内容、担当者が患者ごとに追える記録様式
- 定期カンファレンスの開催頻度、参加職種、議事記録の残し方
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開業までの実務ステップ|届出・資金・スケジュール
ここからは、リハビリ施設基準を「開業タスク」に変換します。税理士法人 辻総合会計でも、開業支援ではこの工程管理(物件・内装・採用・届出・資金繰りの同期)を最重視します。
Step 1: 開業コンセプトと患者導線を確定する
- 外傷中心か、慢性疼痛・骨粗鬆症を厚くするかで、リハ需要と必要スタッフが変わります。
- 「診察→画像→処置→リハ」の導線が滞留しない間取りを優先します。
Step 2: 施設基準から逆算して物件と内装を確定する
- 目標区分(Ⅲ/Ⅱ/Ⅰ)を決め、必要な機能訓練室の面積と配置を設計図面に落とします。
- 厚生局に提出する「配置図・平面図」を“提出できる精度”で作ります。
Step 3: 採用計画を「届出要件」に合わせて確定する
- 常勤・専従の要件を満たす雇用条件(勤務時間、兼務範囲)を、就業規則・雇用契約に反映します。
- 立ち上がり期は患者数が読みにくいため、固定費(人件費)と収入のズレを資金繰りに織り込みます。
Step 4: 厚生局の届出書類を整備し、算定開始を設計する
- 届出書(様式)に加え、従事者一覧、勤務の態様、図面の添付が求められます。
- 「開院日=算定開始日」にならないケースもあるため、届出提出のタイミングを逆算して準備します。
開業資金の考え方(リハ併設は設備・内装が重くなりやすい)
リハ併設の整形外科は、内装・導入設備(リハ室、物療機器、導線に配慮した造作)が厚くなり、初期投資が膨らみやすい傾向があります。資金計画は、最低でも次の3レイヤーで分けて考えると管理しやすくなります。
- 初期投資:内装・設備・医療機器・備品・開業関連費用
- 運転資金:人件費、家賃、リース料等(最低3〜6か月分を目安に確保)
- 追加投資枠:増員や区分アップ(Ⅱ→Ⅰなど)に備える予備枠
よくある質問
Q: リハ室は「45㎡」を少しでも下回ると届出できませんか?
A:
原則として基準の明示要件は満たす必要があります。実測面積の取り方(有効面積・壁芯等)を設計者と整理し、基準を満たす形で図面・配置を固めることが実務上重要です。最終的には所管の厚生(支)局の運用も確認してください。Q: まずⅢで開業して、後からⅡやⅠへ上げるのは可能ですか?
A:
可能です。採用・運用が安定してから区分変更の届出を行う設計は、開業初期の固定費リスクを抑える方法として現実的です。ただし、区分ごとに人員要件や運用要件が異なるため、移行のタイミングは資金繰りとセットで検討してください。Q: PT/OTが採用できない場合、リハ併設は諦めるべきですか?
A:
一概には言えません。採用市況や地域特性によっては、開始区分を抑えて段階的に整備する、または提供メニューを見直す選択肢もあります。ただし、算定要件と提供内容の整合が取れないと返戻や指導のリスクがあります。開業前に「算定できる形の運用」を設計することが前提です。まとめ
- 整形外科開業でリハ併設するなら、最初に施設基準から物件・採用・導線を逆算する
- 運動器リハ(Ⅰ)(Ⅱ)は診療所で「機能訓練室45㎡以上」が明示され、物件選定の最重要条件になる
- 区分(Ⅰ/Ⅱ/Ⅲ)は人員要件が大きく異なり、採用難易度と固定費に直結する
- 備品整備だけでなく、リハ記録の一元管理とカンファレンスなど運用要件も開院前に固める
- 届出書類(従事者一覧・勤務形態・図面)まで含めて、開院スケジュールを逆算して準備する
参照ソース
- 厚生労働省「特掲診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて(保医発第305003号)」: https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb5910&dataType=1&pageNo=3
- 地方厚生(支)局「特掲診療料の届出一覧(令和6年度診療報酬改定)」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/shinsei/shido_kansa/shitei_kijun/tokukei_shinryo_r06.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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