
執筆者:辻 勝
会長税理士
小児科予防接種の収益と在庫管理|2026年版 税理士が解説

結論:小児科の予防接種は「粗利」より「在庫リスク」を設計する
小児科の予防接種収益は、単純な「接種単価-仕入」で判断するとブレます。理由は、キャンセルや供給逼迫で発生する期限切れ・移管不可・温度逸脱など、在庫由来の損失が利益を押し下げやすいからです。
したがって経営上の核心は、接種単価の議論よりも、需要予測・発注ルール・保管記録・棚卸処理を一体で整備し、月次で損益の“原因”が見える数値管理に落とし込むことです。税理士法人 辻総合会計の現場でも、黒字化が早い院ほど「予防接種を売上ではなくオペレーションとして管理」しています。
小児科の予防接種収益構造とは:売上の分類を間違えると採算が読めない
小児科の予防接種は、院内では同じ「接種」でも、お金の流れが複数あります。ここを混同すると、利益率や採算ラインが歪みます。
定期接種(公費・委託)と任意接種(自費)の違い
- 定期接種(公費・委託)
- 自治体委託に基づく請求・入金(入金サイトが長いこともある)
- 価格は委託料(単価)で概ね固定、交渉余地が小さい
- 供給不足・対象者の季節偏在があると在庫リスクが出やすい
- 任意接種(自費)
- 料金設計の自由度はあるが、競合比較が起きやすい
- 当日キャンセルや同時接種変更の影響を受けやすい
- 価格を上げても「在庫廃棄・温度逸脱」が減らなければ利益は残らない
以下は、経営管理上の比較観点です(各地域・契約条件で異なります)。
| 項目 | 定期接種(公費・委託) | 任意接種(自費) |
|---|---|---|
| 売上計上の根拠 | 委託契約・実績報告・請求 | 患者請求(窓口/オンライン) |
| 入金リスク | 入金サイトが長い/返戻 | 未収は少ないがキャンセル影響 |
| 粗利の作り方 | 単価固定のため廃棄削減が最重要 | 料金設計+廃棄削減の両輪 |
| 在庫リスク | 供給調整・対象月齢の偏り | 季節波動(例:インフル等) |
| KGIの置き方 | 返戻率・廃棄率・請求精度 | 単価×本数・キャンセル率 |
利益率の考え方:ワクチンは「貢献利益」で見ると判断が速い
予防接種の意思決定(枠を増やす/予約制にする/セットを作る等)は、粗利率だけだと誤ります。実務では、1接種あたりの「貢献利益(限界利益)」で見た方が早いです。
1接種あたり採算の簡易モデル(例)
- 接種単価(委託料/自費):A円
- ワクチン仕入:B円
- 消耗品(針・シリンジ・アル綿等):C円
- 接種にかかる人件費(看護師+受付+医師の一部按分):D円
- 予約/請求事務コスト(システム費按分・返戻対応の期待値):E円
貢献利益 = A-(B+C+D+E)
このとき重要なのは、B(仕入)はコントロールしにくい一方で、E(返戻・事務)と「Bを廃棄に変える要因」は設計で減らせる点です。つまり、利益率を上げるより先に“損失率を下げる”のが小児科の定石です。
ワクチン在庫管理の方法:期限・温度・ロットを“経営数字”に接続する
ワクチン管理は医療安全の話に見えますが、経営に直結します。特に小児科は同時接種・予約変更が多く、在庫回転が読みづらい一方で、温度逸脱や期限切れは一撃で損失になります。
厚労省資料でも、医療機関におけるワクチン管理として、数量・期限・温度規定・遮光などの品質管理、責任者の明確化、記録の重要性が示されています。
実務で効く「在庫管理」の設計ステップ
Step 1: 接種メニューを棚卸しし、SKUを固定する
同じワクチンでも規格・メーカー差、セット(同時接種)で必要本数が変わります。まず「何を何本持つべきか」をSKU単位で固定し、例外は例外として扱います。
Step 2: 需要予測は“週次”で作り、発注点(Reorder Point)を決める
小児科は繁忙が曜日・季節・学期で変動します。月次では遅いので、最低でも週次で「予約確定+見込み」を見て、最低在庫(安全在庫)と発注点を設定します。
Step 3: FEFO(期限の早いものから使用)とロット管理をルール化する
「先入先出」ではなく、期限が早いものから使うFEFOが基本です。ロット番号は、回収対応・問い合わせ対応だけでなく、期限管理の精度も上げます。
Step 4: 温度管理は“設備”ではなく“運用”で守る(記録と権限設計)
コールドチェーンは2〜8℃帯での輸送・保管が前提とされ、扉の開閉・配置・霜取りなどの運用で事故が起きます。温度設定を触ってよい人を限定し、変更後の確認手順を決めます。
Step 5: 棚卸と廃棄は「証憑」を残し、月次で廃棄率をKPI化する
期限切れ・温度逸脱・破損などの廃棄はゼロにできません。重要なのは、廃棄理由と金額を月次で見える化し、再発要因(予約運用/発注ルール/保管運用)に戻すことです。
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税務・会計の注意点:ワクチン在庫と予防接種売上の“区分経理”が重要
小児科の予防接種は、税務上もミスが出やすい領域です。ポイントは次の2つです。
1) 期末のワクチン在庫(棚卸資産)を軽視しない
期末に残るワクチンは「費用」ではなく在庫として資産計上され、売上原価は棚卸で調整されます。
この棚卸が甘いと、月次・年次の利益がブレて、採算評価を誤ります。特に供給逼迫時に多めに確保した年は要注意です。
2) 消費税の課税/非課税は、制度(保険診療・公費負担等)で整理する
医療は非課税が多い一方、取引の性質により課税関係が変わる領域もあります。国税庁も医療関係の非課税範囲を示しており、実務では「委託・自費・その他(物販等)」の区分を会計・請求の段階で揃えることが重要です。
ここはクリニックごとに事情が分かれるため、顧問税理士と科目・区分(部門や税区分)を先に設計するのが安全です。
よくある質問
Q: 予防接種は「儲かる/儲からない」をどう判断すべきですか?
A:
単価や粗利率ではなく、1接種あたりの貢献利益(限界利益)と、廃棄率・返戻率・キャンセル率の3点セットで判断するのが実務的です。特に小児科は在庫由来の損失が出やすく、廃棄率が下がるだけで利益が大きく改善します。Q: ワクチンの在庫は、どの頻度で棚卸すべきですか?
A:
年次決算の棚卸だけでは遅いです。少なくとも月次で「本数」「期限切れ見込み」「廃棄理由」を管理し、繁忙期(例:季節性が強いワクチン)は週次の確認が推奨です。予約枠を増やす前に在庫回転と期限を見える化してください。Q: 供給不足のとき、どれくらい多めに発注してよいですか?
A:
「安全在庫=○週間分」のようにルール化し、それを超える場合は“資金繰り・期限・保管能力(冷蔵庫容量/温度管理)”を同時にチェックします。供給不足は機会損失もありますが、過剰在庫は確実な損失になり得ます。まとめ
- 小児科の予防接種は、粗利よりも在庫リスク(期限・温度・運用)が利益を左右する
- 定期接種(公費)と任意接種(自費)は、入金・請求・在庫リスクが違うため分けて採算管理する
- 採算判断は「貢献利益」と「廃棄率・返戻率・キャンセル率」をセットで見る
- 在庫管理は、需要予測(週次)・FEFO・責任者/権限・温度記録・棚卸証憑までを一体で設計する
- 税務は在庫(棚卸資産)と区分経理(消費税を含む)を先に整えると、月次の経営判断が速くなる
参照ソース
- 厚生労働省「予防接種・ワクチン情報」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/yobou-sesshu/index.html
- 厚生労働省「ワクチンの在庫管理(予防接種基礎講座)」: https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000167051.pdf
- 国税庁「消費税基本通達 第6節 医療の給付等関係」: https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shohi/06/06.htm
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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