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クリニック向けコラム
作成日:2026.02.08
辻 勝

執筆者:辻 勝

会長税理士

診療報酬賃上げ減算2026の仕組み|クリニック向け税理士解説

8分で読めます
診療報酬賃上げ減算2026の仕組み|クリニック向け税理士解説

賃上げしないと減算?結論:2026改定は「賃上げ実績の把握と実効性確保」を強化、具体の減算運用は告示・通知の確認が必須

2026年(令和8年度)診療報酬改定では、賃上げ原資の配分を「出しただけ」で終わらせず、実際に賃上げが行われたかを把握し、実効性を確保する仕組みを構築する方針が明確化されました。
一方で、「賃上げ未実施=直ちに入院基本料を一律減算」といった単純な話ではなく、何が要件になり、どの点数にどう反映されるかは、施行(令和8年6月)に向けて示される告示・通知・疑義解釈の読み込みが前提です。

本記事では、現時点で公表されている方針資料から読み取れる方向性を、クリニック(特に有床)目線で、制度の構造・影響・実務対応に落とし込みます。

診療報酬の「賃上げ減算制度」とは?医療機関 賃上げ 減算の考え方

2026改定で「賃上げ分」が明示され、対象職種も拡張

令和8年度改定では、改定率の内訳として「賃上げ分」が明示され、賃上げ支援を強化する設計が示されています。また、令和6年度改定でベースアップ評価料の対象だった職種に加え、入院基本料等で措置される職種の賃上げも賃上げ分として措置する旨が記載されています。
ここで重要なのは、賃上げ原資の配分が“広い職種”に及ぶ一方で、賃上げ実績の確認も“広く”求められる方向にある点です。

「減算」の本質は“未実施の放置”を許さない設計

診療報酬上のペナルティは、典型的には次の形で実装されます(制度一般の構造です)。

  • 施設基準の未達で「算定不可(点数ゼロ)」
  • 実績報告等の不備で「返還」「翌年度以降の算定制限」
  • 基準未達の期間に応じた「減算(点数を下げる)」

したがって、「減算」と検索されがちですが、実務上は“届出・実績報告・賃金改善の整合”が崩れたときの不利益として現れやすい点に注意が必要です。

ここがポイント
クリニックは「うちは外来中心だから関係ない」と判断しがちです。しかし、(1)有床診療所、(2)病院からの委託・連携、(3)法人グループ内の人件費設計、のいずれかが当てはまる場合、影響が顕在化しやすくなります。

入院基本料の減算はどう起きる?入院基本料 減算とベースアップ未実施の関係

入院基本料・ベースアップ評価料・実績報告のつながり

賃上げ対応には大きく2系統があります。

  • ベースアップ評価料(主に賃金改善計画と実績報告を前提に算定)
  • 入院基本料等(賃上げ原資の配分が組み込まれる方向)

2026改定では、賃上げ措置の政策目的が確実に果たされるよう、賃上げ実績を迅速かつ詳細に把握する仕組みを構築する、とされています。
つまり、点数の上乗せ(原資)と、賃金改善の実績(アウトカム)を「紐づけて管理」する方向です。

クリニックで実務上“減算リスク”が立つ場面

有床クリニック(有床診療所)では、次の場面が典型的なリスクポイントです。

  • ベースアップ評価料を算定しているが、賃金改善計画・実績報告が追いついていない
  • 賃上げ原資を「賞与で調整」「一時金で調整」したが、集計・説明ができない
  • 対象職種の範囲認識がずれており、賃金改善の配分が不適切
  • 賃金台帳・給与明細・就業規則(賃金規程)と、届出・報告の数字が整合しない

上記は「減算」そのものより、算定の否認や返還に繋がりやすい論点です。

クリニックへの影響:ベースアップ未実施 ペナルティ 2026で何が変わる?

影響は「入院収益」だけではない

有床クリニックは入院基本料のウエイトが相対的に大きく、点数の変動がキャッシュフローに直結します。加えて、賃上げができないと、人材確保(看護補助者・事務職員など)で他産業に負けやすくなります。
令和8年度改定の資料では、看護補助者・事務職員について上乗せ措置に言及しており、現場の人材競争を強く意識した設計です。

比較表:外来中心(無床)と有床での論点の違い

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観点無床クリニック(外来中心)有床クリニック(入院あり)
直接の減算リスク低め(入院基本料がない)高め(入院基本料が収益の柱)
影響の出方ベースアップ評価料の届出・実績報告が中心入院基本料等と賃上げ実績の整合も論点化
実務負担計画書・実績報告、給与集計左記+入院部門の職種配分、夜勤等の賃金要素の説明
経営課題採用・定着、賃上げ原資の捻出採用・定着+入院収益の変動リスク管理

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対応手順:賃上げを“やったこと”を示すための実務チェック(税理士の現場感)

当法人(税理士法人 辻総合会計)では、医療機関の会計・給与設計を30年以上支援しており、賃金改善の届出・実績報告は「数字づくり」よりも「根拠づくり」が後から効いてくるケースを多く見ています。ポイントは、賃上げを実施した事実を、監査・個別指導でも説明できる形にすることです。

Step 1: 算定している項目を棚卸しする(入院基本料/ベースアップ評価料)

算定の有無、届出の写し、算定開始月、対象職種の範囲を一覧化します。まずは「何に対して説明責任が発生するか」を確定させます。

Step 2: 賃金改善の設計を“ルール”に落とす(賃金規程・配分ルール)

ベースアップを基本給に入れるのか、手当で出すのか、賞与で調整するのか。手段は複数ありますが、後から説明できるように「ルール化」します。

Step 3: 立証資料を揃える(賃金台帳・明細・集計表・計画書/実績報告)

給与ソフトの集計だけでは弱い場合があります。対象職種別に、前年差・賃上げ額・支給月の整合が取れる資料セットを作ります。ここが“減算リスク”の実質的な防波堤です。

Step 4: 年次の報告運用を固定化する(締め日・提出担当・レビュー)

毎年の実績報告が要求される枠組みでは、「担当者が変わっても回る」運用が重要です。医療機関は異動が少なくても、退職や兼務で止まりがちです。

ここがポイント
賃上げの方法は医療機関ごとに最適解が異なります。重要なのは「支給した賃上げが、対象職種・対象期間・届出内容と矛盾しない」ことです。個別の状況により取り扱いが変わるため、最終判断は通知・疑義解釈も踏まえて行ってください。

よくある質問

Q: ベースアップ評価料を算定していない無床クリニックでも、賃上げ減算の対象になりますか? ▼

A:

一般に「入院基本料の減算」は入院を持つ医療機関で影響が出やすい一方、無床でもベースアップ評価料を新規に届け出る(または支援事業等で要件となる)場合は、計画・実績報告の整備が必要になります。自院が算定している点数・届出の有無から確認してください。
Q: 賃上げは賞与(ボーナス)で対応してもよいですか? ▼

A:

賞与対応が直ちに否定されるわけではありませんが、対象期間・対象職種・支給根拠を説明できることが前提です。基本給と比べて変動しやすいため、後から集計・説明が難しくなる傾向があります。賃金規程や支給基準の整備が重要です。
Q: 2026年改定の“施行時期”はいつですか? ▼

A:

公表資料では、診療報酬(本体)は令和8年6月施行とされています。点数表告示・通知・疑義解釈の公表時期と合わせて、実務対応のスケジュールを逆算してください。

まとめ

  • 2026年(令和8年度)改定は、賃上げ原資の配分に加え賃上げの実効性確保(実績把握・仕組み化)を強化する方針
  • 「賃上げ未実施=即減算」と短絡せず、届出・実績報告・賃金台帳の整合が最重要
  • 有床クリニックは入院収益への影響が出やすく、職種配分や立証資料の整備が鍵
  • 実務は「棚卸し→ルール化→立証資料→年次運用」の順で整えると崩れにくい
  • 最終的な要件・不利益取扱いは、告示・通知・疑義解釈で確定するため継続確認が必須

参照ソース

  • 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について(令和7年12月24日)」: https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001620952.pdf
  • 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定の基本方針(令和7年12月9日)」: https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001618046.pdf
  • 関東信越厚生局「ベースアップ評価料に係る賃金改善実績報告等」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/shinsei/baseup.html
  • 厚生労働省「令和7年度 医療機関等における賃上げ・物価上昇支援事業について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_69485.html

この記事を書いた人

辻 勝

辻 勝

会長税理士

税理士 / 行政書士

税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。

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