
執筆者:辻 勝
会長税理士
アパート経営 相続対策の効果と失敗例|税理士が解説

アパート経営は相続対策になる?結論と前提
アパート経営が相続対策になる理由は、相続税評価上「土地は貸家建付地」「建物は貸家」として評価され、現預金よりも課税価格が下がりやすい点にあります。つまり、同じ実勢価値でも相続税評価が圧縮されやすいのが特徴です。
ただし、これは「相続税評価の話」であり、「投資として成功するか(キャッシュフローが回るか)」とは別問題です。相続税を下げても、赤字や資産劣化で家族が困るケースは少なくありません。相続対策は、税額だけでなく、収益性・資金繰り・承継(分け方)まで一体で設計する必要があります。
当法人(税理士法人 辻総合会計)では、地主・開業医の資産管理や相続税申告に長年携わる中で、「評価は下がったが揉めた」「建てた後に資金が詰まった」といった相談を数多く見てきました。以下、効果の仕組みと失敗パターンをセットで解説します。
アパート建築で相続税が下がる仕組み(評価の基本)
土地:貸家建付地の評価(アパート建築 相続税)
アパートの敷地は「貸家建付地」として評価し、一定の計算により自用地より評価額が下がります。国税庁の算式では、自用地価額から「借地権割合×借家権割合×賃貸割合」分を控除します(地域の割合は路線価図等で確認)。
出典:国税庁「No.4614 貸家建付地の評価」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4614.htm
建物:貸家の評価(固定資産税評価額から控除)
賃貸中の建物(貸家)は、固定資産税評価額から「借家権割合×賃貸割合」相当額を控除して評価します。満室想定ほど評価は下がりやすく、空室が多いと効果が薄れます。
出典:国税庁「No.4602 土地家屋の評価(Q&A)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4602_qa.htm
小規模宅地等の特例との関係(賃貸経営 相続 節税の落とし穴)
貸付事業用宅地等として小規模宅地等の特例が適用できると、一定面積まで評価減の対象になりますが、要件・面積上限・適用可否の判断が難しく、想定通りに効かないこともあります。
出典:国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm
「現金で持つ」vs「アパートで持つ」相続税評価の違い(比較表)
実務では、同じ1億円相当の資産でも、資産の形で相続税評価が変わる点がアパート相続対策の核心です。
| 資産の形 | 相続税評価の基本 | 評価が下がる主因 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 現預金 | 額面どおり | なし | 最も分かりやすいが課税価格が高くなりやすい |
| 更地(自用地) | 路線価等で自用地評価 | なし | 活用余地はあるが評価は下がりにくい |
| アパート敷地(貸家建付地) | 自用地価額から控除して評価 | 借家権等による控除 | 空室・社宅扱い等で前提が崩れると効果が薄れる |
| 賃貸建物(貸家) | 固定資産税評価額から控除 | 借家権割合×賃貸割合 | 築年数・構造・修繕で収益性が悪化しやすい |
相続税対策としては、「評価は下がるが、経営は別」を徹底するのが失敗回避の第一歩です。
典型的な失敗パターン(アパート 相続 失敗)
失敗1:過大借入でキャッシュフローが回らない
「評価を下げたい」目的が先行して、家賃水準に見合わない建築費・借入を組むと、空室が少し増えただけで返済が詰みます。相続直後に家賃下落や金利上昇が重なると、納税資金どころか生活資金が不足します。
失敗2:立地と商品設計ミスで空室が埋まらない
新築時に満室でも、近隣供給増・人口動態・競合物件の改善で数年後に空室が常態化します。相続税評価は賃貸割合が効くため、空室が多いほど評価減も弱くなる点がダブルで痛いところです。
失敗3:修繕・大規模改修を見込まず、相続後に資金負担が爆発
外壁・屋上防水・給排水・設備更新は、築10〜20年でまとまった資金需要になります。長期修繕計画と積立がないと、相続人が追加出資できず売却を迫られることもあります。
失敗4:共有相続で意思決定が止まり、揉める
「兄弟で仲良く持てばいい」と共有にすると、売却・建替え・修繕・借換えの意思決定が一致せず、資産価値が下がりやすくなります。特に賃貸経営は経営判断が必要で、共有の相性が悪い資産です。
失敗5:節税効果の過信(「賃貸経営 相続 節税」だけで判断)
相続税が下がっても、所得税・住民税(不動産所得)、固定資産税、火災保険、管理費、原状回復費などで手取りが薄いと、家計を圧迫します。相続対策は「税金を下げる」より「家族が困らない」が優先です。
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相続対策として検討する手順(実務の進め方)
Step 1: 目的を分解する(相続税・納税資金・承継・収益)
「相続税を下げたい」だけでなく、納税資金をどう用意するか、誰が運営するか、分け方(遺言・分割方針)まで言語化します。
Step 2: 収支を保守的に作る(空室・家賃下落・修繕を織り込む)
満室前提ではなく、空室率・家賃下落・金利上昇・大規模修繕を入れたストレスケースで、返済可能性を確認します。ここで赤字なら建てないのが最適解です。
Step 3: 相続税評価の概算と、要件論点を洗い出す
貸家建付地・貸家評価の考え方、賃貸割合、社宅扱い等の論点、小規模宅地等の特例の適用可能性を整理します(適用可否は個別事情で変わります)。
Step 4: 出口戦略を決める(売却・建替え・法人化・共有回避)
相続後に何をするかを先に決めます。遺言で取得者を一本化する、代償分割の資金手当をする、管理体制を決めるなど、揉めにくい設計にします。
Step 5: 実行前に第三者チェック(税理士+不動産の両面)
税務だけでなく、賃貸市場・建築費妥当性・管理の現実性もレビューします。相続対策としてのアパートは、税理士と不動産実務の両輪が不可欠です。
よくある質問
Q: アパートを建てれば相続税は必ず下がりますか?
Q: 「節税になる」と言われたのですが、失敗しない見極め方は?
Q: 小規模宅地等の特例は賃貸アパートでも使えますか?
まとめ
- アパート経営の相続対策は、貸家建付地・貸家評価により相続税評価を圧縮できる点が核心
- ただし「評価減」と「賃貸経営の成功」は別で、過大借入・空室・修繕・共有で失敗しやすい
- 節税だけで建てると、相続後に資金繰りや家族関係で詰むリスクがある
- 保守的な収支、要件整理、共有回避、出口戦略をセットで検討する
- 個別事情で結論が変わるため、税務と不動産実務の両面で事前検証が重要
参照ソース
- 国税庁「No.4614 貸家建付地の評価」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4614.htm
- 国税庁「No.4602 土地家屋の評価(Q&A)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4602_qa.htm
- 国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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