
執筆者:辻 勝
会長税理士
事業承継いつから始める?5年前から準備する理由|税理士が解説

事業承継はいつから?結論は「5年前」が基準
事業承継は「引退の直前にやる手続き」ではなく、5年前から設計して会社の価値を高めながら引き継ぐプロジェクトです。準備が遅れると、後継者選定が進まないまま判断が先送りされ、資金繰り・人材・取引先対応が同時多発します。
中小企業庁の「事業承継ガイドライン」でも、準備不足が円滑な承継を妨げる点や、早期取組の重要性が示されています。加えて、2025年に団塊世代が75歳以上となる状況を踏まえ「待ったなし」との問題意識も明記されています。
税理士法人 辻総合会計でも、実務上「引退の意思決定」より前に、承継の選択肢(親族・従業員・M&A)を広く持っておくほど、条件と結果が安定するケースを多く見ます。
5年前から始めるべき理由
理由1:税制・認定の“締切”が承継の自由度を左右する
法人版事業承継税制(特例措置)は、一定要件のもとで相続税の納税猶予・免除を受け得る制度ですが、特例の適用には「特例承継計画」の提出期限があります。国税庁のタックスアンサーでは、特例承継計画の提出期間が【平成30年4月1日から令和8年3月31日まで】と整理されています。
また、財務省の令和6年度税制改正パンフレットでも、特例承継計画の提出期限を令和8年3月末まで延長した旨が示されています。
「制度を使う/使わない」を決めるだけでなく、期限から逆算して準備を前倒しできるかが重要です。
理由2:「見える化」と「磨き上げ」に時間がかかる
5年前に着手すると、決算書の体裁づくりではなく、事業の実態を整理する“経営の見える化”に時間を使えます。中小企業庁のガイドラインも、経営状況・経営課題の把握(見える化)や、経営改善(磨き上げ)をステップとして示しています。
- 利益構造の整理(商品・患者層・拠点別など)
- 取引先依存・キーマン依存の分散
- 許認可・契約・知財・ITの棚卸し
これらは1年で形だけ整えても、次の決算で崩れがちです。複数期で再現性を作るには、実務上「最低でも数年」かかります。
理由3:後継者育成は“任せる練習”が必要
後継者が決まっていても、「意思決定の移管」と「金融・取引先の信用移管」は別問題です。5年あれば、役割移譲を段階化できます。
- 1年目:会議体・権限・KPIの設計
- 2〜3年目:主要取引先・金融機関対応を同席から単独へ
- 4〜5年目:経営判断の最終責任を移し、現経営者は監督へ
ここが短いと、承継後に資金繰りや人事で“実質的な院長・社長依存”が残り、トラブルになりやすい点は要注意です。
理由4:M&A(第三者承継)は“準備の質”が価格に直結する
後継者不在の場合、M&A(第三者承継)は有力な選択肢です。ただし、買手が見るのは「将来のキャッシュフロー」と「リスク(契約・人材・法務・税務)」であり、これを整える時間が必要です。短期決着は、条件面で不利になりがちです。
事業承継の準備は何をする?5ステップで整理
中小企業庁のガイドラインが示す流れに沿い、実務での要点を5つにまとめます。
Step 1: 準備の必要性を言語化する
「いつ辞めるか」ではなく、「何を残したいか(雇用、顧客、技術、地域)」を明確にします。家族・幹部・金融機関との対話の前提になります。
Step 2: 経営状況・課題の把握(見える化)
見える化(経営状況・課題)として、決算だけでなく、契約・人材・設備・許認可・リスクを棚卸しします。承継方式の選択にも直結します。
Step 3: 経営改善(磨き上げ)
利益率の改善、固定費の適正化、属人化の解消、内部統制(稟議・権限)の整備を進めます。買手・金融機関・後継者にとって「引き継げる形」にする工程です。
Step 4: 計画策定(親族・従業員)/工程設計(M&A)
親族・従業員承継なら、株式・役員体制・退職金・賃貸借などの設計が中心です。M&Aなら、仲介・FA選定、資料整備、条件交渉、PMI(統合)まで工程で管理します。
Step 5: 実行とアフターフォロー
株式・資産移転、役員改選、契約更改、継続届出などを実行し、承継後の業績・雇用・資金繰りをモニタリングします。ここで“想定外”が出たときに、計画に余白があるほど耐性が高まります。
事業承継のタイミングと「何歳」目安の考え方
「何歳で始めるべきか」は一律ではありませんが、次のように整理すると判断しやすくなります。
- 60歳前後:後継者候補の探索・育成を始めやすい(失敗してもやり直しが効く)
- 65〜70歳:承継方式の決定と計画の具体化を急ぐ(健康・環境変化リスクが上がる)
- 70歳以降:緊急対応になりやすい(短期での株式移転・M&Aは条件面で不利になりがち)
中小企業庁のガイドラインでも、早期取組の重要性を強調しており、社会全体としても高齢化を背景に「先延ばしが難しい」状況認識が示されています。
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制度・支援策の使い方(税制を含む)
税制活用を検討する場合は、制度の枠組みと期限を押さえた上で、会社の実態に合うかを確認します。
- 法人版事業承継税制には「特例措置」と「一般措置」があり、特例は一定期間(平成30年1月1日〜令和9年12月31日)の制度とされています。
- 特例は事前の特例承継計画が必要で、提出期間は令和8年3月31日までと整理されています。
- 事業承継に関する施策・ガイドライン・支援策は中小企業庁のポータルにまとまっています。
比較のイメージを掴むため、国税庁の整理を要約して表にします。
| 項目 | 特例措置 | 一般措置 |
|---|---|---|
| 事前の計画提出 | 特例承継計画が必要(提出期間あり) | 不要 |
| 適用期限 | 相続等・贈与に期限あり | なし |
| 対象株数 | 全株式 | 最大3分の2 |
| 納税猶予割合 | 100% | 相続等80%(贈与100%) |
※上記は概要です。適用可否は企業要件・後継者要件・継続要件等で判断されます。
よくある質問
Q: 事業承継の準備は本当に5年前から必要ですか?
A:
多くのケースで必要です。理由は、見える化・磨き上げ・後継者育成・関係者調整に複数期がかかること、加えて制度活用を狙う場合は期限から逆算が必要になるためです。中小企業庁ガイドラインも早期取組の重要性を示しています。Q: 事業承継は何歳で始めるのが一般的ですか?
A:
一律ではありませんが、実務上は60歳前後から「候補者探索と仕組みづくり」を始め、65〜70歳で計画を具体化する流れが多い印象です。70歳を超えると緊急対応になりやすいため、健康面・関係者調整の観点からも前倒しが安全です。Q: 後継者がいない場合は、いつからM&Aを検討すべきですか?
A:
可能なら5年前からです。買手が重視するのは将来の収益力とリスクで、資料整備・契約整理・属人化解消に時間がかかります。短期で動くと条件が不利になりやすい点に留意してください。まとめ
- 事業承継は「引退直前」ではなく、5年前からの計画が安定しやすい
- 早期着手により、見える化・磨き上げ・後継者育成・関係者調整の時間を確保できる
- 税制活用は期限から逆算が必須(特例承継計画の提出期間など)
- 親族・従業員・M&Aのいずれでも、準備の質が成果(条件・価格・安定性)を左右する
- 個別事情で最適解は変わるため、早めに専門家へ相談し、計画の“余白”を持たせる
参照ソース
- 中小企業庁「事業承継ガイドライン(第3版)」: https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/shoukei_guideline.pdf
- 国税庁「No.4148 法人版事業承継税制」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4148.htm
- 財務省「令和6年度税制改正(特例承継計画の提出期限延長)」: https://www.mof.go.jp/tax_policy/publication/brochure/zeisei2024/02.html
- 中小企業庁「事業承継(支援策・ガイドライン等)」: https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/index.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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