
執筆者:辻 勝
会長税理士
事業承継税制とは?納税猶予と特例承継計画|税理士が解説

事業承継税制とは(結論:相続税・贈与税を「いったん払わない」仕組み)
事業承継税制とは、中小企業の後継者が非上場株式等(または個人事業の一定資産)を承継したとき、要件を満たせば相続税・贈与税の納税猶予を受けられる制度です。簡単にいえば、「税金をゼロにする制度」ではなく、まずは“支払いを先送り”し、一定の条件を満たし続けることで最終的に免除(納付不要)になり得る仕組みです。
現場でよくある相談は、「株価が高くて相続税が払えない」「後継者に株をまとめたいが贈与税が重い」といった資金繰りの悩みです。税理士法人 辻総合会計でも、承継の意思決定を“税金の資金手当て”が止めてしまうケースを多く見ます。制度の全体像と期限を先に把握し、計画倒れを避けることが重要ではないでしょうか。
「猶予」と「免除」の違い
- 納税猶予:要件を満たす限り、税金の納付がいったん止まる状態
- 免除:後継者の死亡等など所定の事由で、猶予されていた税額の納付義務が消える状態
特例措置と一般措置の違いを比較(わかりやすく整理)
法人版(非上場株式等)には「特例措置」と「一般措置」があり、設計思想が異なります。実務では、まず「特例が使えるか(期限内か)」を確認し、そのうえで要件管理(報告・届出)まで含めて運用できるかを検討します。
| 項目 | 特例措置 | 一般措置 |
|---|---|---|
| 事前の計画 | 特例承継計画の提出が必要 | 原則不要 |
| 適用期限(承継) | 一定期間の贈与・相続等が対象 | 期限の定めなし(制度枠内) |
| 対象株数 | 事実上、上限が緩い(全株式を想定) | 原則として上限あり(総株式数の一定割合まで) |
| 猶予割合 | 100%(相続・贈与とも) | 相続は原則80%、贈与は100%など |
| 雇用要件 | 維持できない場合でも継続可能(報告が必要) | 5年間平均で8割維持が原則 |
| 承継パターン | 複数株主→最大3人の後継者などに対応 | 原則より限定的 |
特例措置の期限(ここだけは数字で覚える)
法人版の特例措置は、特例承継計画を一定期間内に提出したうえで、所定期間内に贈与・相続等で株式を取得する必要があります。期限は「計画」と「承継」の二段階で管理します。
- 計画の提出:2018年4月1日〜2026年3月31日
- 承継(株式取得):2018年1月1日〜2027年12月31日
特例承継計画とは(何を書く?誰が関与する?)
特例承継計画は、制度の“入口”です。後継者の情報、承継予定時期、承継までの経営見通し、承継後の事業計画などを記載し、認定経営革新等支援機関(税理士・金融機関等)の関与が前提となります。
「提出先」と「役割」
- 提出先:原則として都道府県(主たる事務所所在地の窓口)
- 役割:税務署への申告より前に、承継の実行可能性を“計画として見える化”する
雇用要件は「実質ゼロ」ではなく「報告運用」に変わった
特例措置では、雇用8割維持を達成できなくても、直ちに猶予が打ち切られるわけではありません。ただし、雇用が下回った理由等を都道府県へ報告し、必要に応じて認定支援機関の所見・助言が求められます。要件が“なくなった”のではなく、“事後説明を含む運用”に変わった点が実務の肝です。
納税猶予の手続き(特例措置の基本フロー)
制度は「認定」と「税務申告」と「継続管理」の3点セットです。どれか一つ欠けると、納税猶予が取り消される可能性があります。
Step 1: 事前準備(株式・体制の棚卸し)
株主構成、議決権、後継者の代表就任予定、承継対象株数、(個人版なら)対象資産の範囲を整理します。ここで「そもそも制度対象に該当するか」を先に確認します。
Step 2: 特例承継計画の作成・提出
認定支援機関の指導助言を受けつつ、特例承継計画を作成し都道府県へ提出します(期限内が必須)。
Step 3: 都道府県知事の認定(円滑化法の認定)
都道府県知事の認定を取得します。要件は贈与か相続かで異なるため、承継手段の選択とセットで進めます。
Step 4: 贈与・相続等の実行→税務申告で適用
株式の贈与・相続等を行い、申告期限までに申告書類一式を整えます。認定書類の添付漏れは典型的な失敗パターンです。
Step 5: 継続管理(年次報告・継続届出)
承継後は、都道府県への年次報告・税務署への継続届出等が発生します。実務は「申告して終わり」ではありません。
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注意点・リスク(取り消しを避けるための実務ポイント)
制度は強力ですが、“管理型”の制度です。以下は特に優先度が高い論点です。
1) 期限の取り違え(計画提出と承継実行)
「計画は出したが承継が間に合わない」「承継したが計画期限を過ぎていた」は、取り返しが難しい類型です。事業承継は法務・家族事情で遅れやすいため、余裕を持った工程設計が必要です。
2) 株主構成・議決権の論点
非上場でも種類株式や議決権制限があると、対象株式の範囲や要件に影響します。承継前に定款・株式内容を必ず確認します。
3) 組織再編・M&A・廃業の選択肢
特例措置は、将来の売却・廃業局面も想定した設計が含まれます。一方で、実行時の手続(届出・再計算など)の設計が必要です。「将来はM&Aもあり得る」会社ほど、承継税制の使い方を“出口”まで含めて検討するのが定石です。
4) 個人版(個人事業者)にも計画期限がある
個人版も10年間限定で、個人事業承継計画の提出期限が設けられています。中小企業庁は様式等について、令和7年(2025年)4月1日に省令(様式を含む)を一部改正した旨も公表しています。書式や添付の運用は更新され得るため、直近様式での準備が安全です。
よくある質問
Q: 事業承継税制は「税金がゼロ」になる制度ですか?
A:
原則は「納税猶予」です。要件を満たし続ける限り納付が猶予され、後継者の死亡等の一定事由で免除(納付不要)となり得ます。ただし、要件を外すと猶予が取り消される可能性があります。Q: 特例承継計画はいつまでに出せばいいですか?
A:
法人版の特例措置では、2018年4月1日から2026年3月31日までに特例承継計画を都道府県へ提出する必要があります。計画提出と承継実行(株式取得)の期限は別管理です。Q: 雇用8割を維持できないと猶予は即取り消しですか?
A:
特例措置では、雇用維持要件を満たせなくても猶予を継続できる仕組みに見直されています。ただし、下回った理由等を都道府県へ報告し、必要に応じて認定支援機関の関与が求められます。報告を含めた運用が重要です。Q: 相談するなら税理士・金融機関・都道府県のどこが先ですか?
A:
まずは株主構成・承継手段(贈与/相続)・期限の整理が必要なので、認定支援機関(税理士等)に工程表づくりから相談すると進みやすいです。そのうえで、計画提出・認定は都道府県窓口へ申請します。まとめ
- 事業承継税制は、相続税・贈与税の納税猶予を通じて承継資金負担を平準化する制度
- 法人版は「特例措置」と「一般措置」があり、特例は期限管理(計画提出・承継実行)が最重要
- 特例承継計画は制度の入口で、都道府県への提出と認定支援機関の関与が前提
- 申告後も年次報告・継続届出などの運用が続くため、管理体制(担当者・チェックリスト)が成否を分ける
- 個別事情(株主構成、種類株式、将来のM&A等)で最適解が変わるため、早期に専門家へ工程表を作るのが安全
参照ソース
- 国税庁「No.4148 非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除の特例等(法人版事業承継税制)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4148.htm
- 中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」: https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu_zouyo_souzoku.html
- 中小企業庁「個人版事業承継税制の前提となる認定」: https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_kojin_ninntei.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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