
執筆者:辻 勝
会長税理士
デジタル遺品の相続|SNS・電子マネーの対処法

デジタル遺品とは?相続で何が問題になるか
デジタル遺品とは、亡くなった方が保有していたスマホ・PC内のデータ、各種アカウント、サブスク契約、電子マネーやポイント等の「デジタル上の資産・権利関係」を指します。相続の現場で問題になるのは、資産性の有無以上に「アクセスできない」「解約できず請求が続く」「家族が勝手に触ってよいか不安」という実務面です。
特に、相続手続は行政・金融・民間手続が同時多発します。国も死亡・相続手続のオンライン化を進めていますが、現時点では遺族側で情報を集め、手続きを分解して進める必要があります。遺族の負担が増えやすい領域だからこそ、早期にデジタル遺品の棚卸しを行うことが重要です。
税理士法人 辻総合会計でも、相続税申告の準備に入った段階で「故人のスマホがロック解除できず、電子マネー残高やサブスクの契約状況が分からない」という相談は少なくありません。紙の通帳・郵便物が減った分、デジタル側の整理が相続の入口になりつつあります。
デジタル遺品の種類別チェックリスト
まずは「何があるか」を分類すると、動き方が明確になります。デジタル遺品は大きく次の4系統に分けて考えると整理が進みます。
| 区分 | 具体例 | 目的(最初にやること) | 相続・手続の注意点 |
|---|---|---|---|
| SNS・コミュニケーション | LINE、X、Instagram、Facebook、メール | 追悼設定・アカウント削除・連絡先確認 | 本人確認が厳格。ログイン試行の乱発で凍結リスク |
| サブスク・継続課金 | 動画/音楽配信、クラウド、アプリ課金、会員制サービス | 解約・請求停止 | クレカ明細起点で洗い出すと早い |
| デジタル資産(資産性あり) | 電子マネー、ポイント、暗号資産、ネット証券、EC残高 | 残高把握・承継/換金 | 規約・法令・本人確認で手続が分かれる |
| 端末・データ | スマホ、PC、写真、クラウド保存 | データ保全・遺族の必要情報確保 | 初動で上書き・消去を避ける |
デジタル遺品の整理手順:遺族がまずやるべき流れ
デジタル遺品は、相続税の論点というより「手続きの交通整理」です。現場では次の順に進めると詰まりにくくなります。
Step 1: 支払い・連絡の入口を確保する
- 故人名義のクレジットカード明細、銀行口座の引落一覧、メール受信(請求通知)を確認
- 継続課金の洗い出しを優先し、請求を止める対象を特定します
Step 2: 端末と認証手段を確保する
- スマホ(SIMあり/なし)、PC、タブレット、認証アプリ端末の有無を確認
- 主要メールアドレス(キャリア/フリーメール)の候補をメモします
Step 3: 「資産性のあるもの」から残高把握する
- 電子マネー・ポイント・暗号資産・ネット証券は、残高把握が遅れるほど手続が長期化しがちです
- 相続税申告が必要なケースでは、評価時点(原則:死亡日)での残高・時価確認が論点になります
Step 4: SNS・サブスクの処理方針を決める
- SNSは「残す(追悼化)」「削除する」の方針を家族内で決めます
- サブスクは基本的に解約・請求停止が優先です(データが必要ならバックアップ後に)
Step 5: 証跡を残す(相続・トラブル予防)
- どのサービスにいつ連絡し、何を提出し、どう処理されたかを一覧にします
- 遺産分割協議がある場合、デジタル資産は「誰が承継するか」を明確にしておくと紛争予防になります
SNS相続の実務:追悼・削除・連絡先確保の考え方
「SNSは相続できるのか?」という質問が多いのですが、実務上は「相続財産」というよりアカウントの処理の問題です。多くのSNSは利用規約に基づき、遺族からの申請で追悼設定や削除の手続きを案内します(ログインして勝手に投稿・削除する運用は推奨されません)。
対応のポイントは次の通りです。
- 追悼化:故人の記録として残したい場合に選ばれます
- 削除:なりすまし・乗っ取りリスクを下げたい場合に有効です
- 連絡先確保:交友関係への連絡が必要なら、早めにDMや連絡先を整理します(ただしプライバシーに配慮)
サブスク死亡解約のコツ:請求停止を最短で進める方法
サブスクは「契約が残っている限り請求が続く」ため、相続手続より先に動く価値があります。コツは、サービス名から探すのではなく、次の入口から逆引きすることです。
- クレジットカード利用明細(毎月同額の請求に注目)
- 銀行引落(収納企業名・決済代行名にも注意)
- メール(請求・更新・領収書メール)
- アプリストアの定期購入一覧
解約時に求められやすい情報は「登録メール」「注文番号」「契約者情報」「死亡の事実を示す書類(写し)」などです。提出書類はサービスにより異なるため、一覧表にして管理すると二度手間を減らせます。
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電子マネー・ポイントの相続:資産として扱うときの注意点
電子マネーやポイントは、残高があれば実質的に経済価値があります。一方で、法令・規約・本人確認の運用により「払い戻し」「名義移転」「相続人への承継可否」が分かれます。
制度面では、前払式支払手段(いわゆるプリペイド型の電子マネー等)に関するルールが定められており、発行者が払い戻しを行う枠組みも整理されています。実務では次の点を押さえると判断が速くなります。
- 残高の有無:端末内だけでなく、アカウント紐づけ型はWeb上に残高が残ります
- 種別の確認:前払式(チャージ)か、後払い・クレカ連携かで手続が変わります
- 提出書類:相続人であることの確認(戸籍等)、死亡の確認、本人確認書類が必要になりやすい
- 相続税:申告が必要な場合、死亡日時点の残高を把握し、遺産として計上できるよう証跡を残します
なお、暗号資産やネット証券は、ログイン・二要素認証・取引所ごとの相続手続が絡み、時間がかかる傾向があります。可能なら相続開始後すぐに専門家(弁護士・税理士)と連携し、評価資料の確保を優先してください。
生前対策:デジタル終活で家族の負担を減らす
デジタル遺品は「残された側が困る」典型領域です。生前にできる対策は難しくありません。
- 主要アカウント一覧(メール、SNS、金融、サブスク)を作り、保管場所を家族に伝える
- 解除手段(端末のPIN、認証アプリのバックアップ)を整理する
- デジタル資産の承継方針(誰に渡すか、換金するか)をメモする
- 遺言の活用を検討する(制度のデジタル化に関する議論も進んでいます)
ここで重要なのは、パスワードそのものを共有するより「どこに何があるか」を共有することです。セキュリティと実務のバランスを取りつつ、家族が手続きを開始できる状態を作るのが現実的です。
よくある質問
Q: デジタル遺品は相続財産として申告が必要ですか?
Q: SNSは家族がログインして削除してもよいですか?
Q: サブスクの請求が止まりません。最短で止めるには?
まとめ
- デジタル遺品は「アクセスできない・請求が止まらない」が最大の実務リスク
- まずは明細・メールからサブスクを洗い出し、請求停止を優先する
- SNSは追悼化か削除か方針を決め、公式手続で処理するのが安全
- 電子マネー等は種別により承継・払戻しが分かれるため、死亡日時点の残高証跡を確保する
- 生前に「どこに何があるか」を共有しておくと、遺族の負担が大きく減る
参照ソース
- デジタル庁「死亡・相続手続のオンライン・デジタル化」: https://www.digital.go.jp/policies/inheritance_onestop_service
- 法務省「遺言制度のデジタル化に関する調査研究報告書の公表について」: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00355.html
- e-Gov法令検索「前払式支払手段に関する内閣府令」: https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=421CO0000000296
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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