
執筆者:辻 勝
会長税理士
暦年贈与と相続時精算課税比較|どっちが得か比較表で解説税理士監修

結論:得かどうかは「3つの軸」で決まります
暦年贈与と相続時精算課税の「どっちが得か」は、(1)贈与者の余命(相続までの期間)、(2)資産の値上がり見込み、(3)最終的な相続税率(遺産規模)で結論が変わります。
特に近年は、暦年課税の相続前加算が最長7年へ段階的に延長され、相続時精算課税には110万円の基礎控除が新設されるなど、選択判断が以前より複雑になりました。
税理士法人 辻総合会計でも、医療法人・クリニック経営者の相続対策で「毎年110万円で足りるのか」「事業承継株式はどうするか」といった相談が多く、制度選択の前に“設計図”を作ることが重要だと実感しています。
暦年贈与(暦年課税)とは:毎年110万円を積み上げる基本形
暦年贈与は、1/1〜12/31の1年間に受け取った贈与財産の合計から基礎控除110万円を差し引き、残額に贈与税率をかけて計算する仕組みです。
税率は贈与者・受贈者の関係(直系尊属→18歳以上の子・孫等)により「特例税率」が使える場合があります。
一方で注意点が、相続時の「加算」です。令和6年1月1日以後の贈与について、相続開始日に応じて加算対象期間が段階的に延び、将来的に相続開始前7年以内まで広がります。さらに、一定時期以降は「3年超〜7年以内の贈与」について総額100万円まで加算しない取扱いもあります(適用開始日に条件あり)。
相続時精算課税とは:早期に大きく移す制度(ただし戻れない)
相続時精算課税は、60歳以上の親・祖父母から18歳以上の子・孫などへの贈与について、受贈者が選択できる制度です。選択には「相続時精算課税選択届出書」を期限内(原則2/1〜3/15)に提出する必要があります。
最大の特徴は、贈与税計算で「年110万円の基礎控除」に加え、累計2,500万円の特別控除(期限内申告が条件)を使い、控除後の残額に一律20%を課税する点です。
ただし、いったん選ぶと、その贈与者からの贈与は原則として暦年課税へ戻せません。制度上の“取り消し不可”が最大の意思決定ポイントです。
比較表:暦年贈与 vs 相続時精算課税(どっちが得?)
| 比較項目 | 暦年贈与(暦年課税) | 相続時精算課税 |
|---|---|---|
| 使える基本控除 | 年110万円(受贈者ごと・暦年課税分) | 年110万円(特定贈与者ごと・精算課税分) |
| 大きな控除 | なし(税率で調整) | 特別控除2,500万円(累計・期限内申告が条件) |
| 贈与税率 | 10〜55%(一般/特例の速算表) | 控除後は一律20% |
| 相続時の扱い | 一定期間内の贈与が相続税課税価格に加算(段階的に最長7年) | 年ごとの贈与額合計から基礎控除を控除した残額を相続税課税価格に加算 |
| 「早く移す」メリット | 相続まで長いほど有利(加算期間外なら合算なし) | 早期に大きく移しやすい(2,500万円控除) |
| 値上がり資産との相性 | 相続まで長く、加算期間外にできれば非常に良い | 贈与時点の価額で加算が原則のため、値上がり分を圧縮しやすい |
| 柔軟性 | 毎年調整しやすい | 一度選ぶと原則戻れない |
| 申告負担 | 110万円以下なら原則不要(例外あり) | 初年度は届出が必須。110万円超なら贈与税申告が必要になりやすい |
| 向く典型例 | 少額を長期で移す/相続まで時間がある | 事業承継・不動産等を早期に大きく移す/値上がりが見込まれる |
| 失敗しやすい点 | 名義だけ移し実態不備(証拠・管理) | 「税金ゼロ」に見えて相続で効く/分割設計なしで揉める |
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どっちが得か:判断のステップ(実務で迷わない順番)
Step 1: 相続までの期間を見立てる
暦年贈与は、相続開始日に応じて加算対象期間が変わります。相続が近いほど、暦年贈与の“合算なしメリット”が出にくくなります。反対に相続まで長い見込みなら、暦年贈与で「加算期間外」を狙う設計が有利になりやすいです。
Step 2: 移したい資産の性質を分類する
- 値上がりしやすい資産(非上場株式、好立地不動産など)
- 値動きが小さい資産(預金など)
値上がり資産は「早めに移す」ほど有利になりやすく、相続時精算課税が選択肢に上がります。
Step 3: 想定される相続税率(遺産規模)を把握する
相続税は累進税率で、遺産規模が大きいほど限界税率が上がります。精算課税で移した財産(基礎控除控除後の残額)は相続側に反映されるため、「最終的に高い税率帯にいる家」ほど設計が重要です。
Step 4: “戻れない”制約に耐えられるか確認する
相続時精算課税は一度選ぶと、同じ贈与者からの贈与で暦年課税へ原則戻せません。将来の収支・家族関係・介護費・事業資金需要などの不確実性が大きい場合、暦年贈与の柔軟性が安全策になります。
ケーススタディ:よくある相談パターン(匿名)
パターンA:毎年110万円で足りる家
子が複数人おり、贈与者の資産が主に預金で、相続まで比較的時間がある見込みの場合。
このケースでは、110万円の基礎控除を活用した暦年贈与で「贈与税を抑えつつ分散して移す」方針が取りやすく、家族の合意形成もしやすい傾向があります。加算期間(段階的に7年)を踏まえ、相続が近づいたら贈与ペースを落とすなど調整します。
パターンB:値上がり資産を早めに移したい家(事業承継を含む)
非上場株式や収益不動産など、将来の価額上昇が見込まれる場合。
相続時精算課税で早期に移し、将来の増価分を次世代へ移転させる設計が有効になることがあります。ただし「誰にどれだけ移すか」「議決権や収益の設計」「相続時の分割方針」まで同時に整える必要があります。
よくある質問
Q: 相続時精算課税は一度選ぶと本当に戻せませんか?
A:
原則として、同じ贈与者からの贈与について暦年課税へ変更できません。初年度の届出を出す前に、将来の資金需要や家族構成の変化も含めて検討するのが安全です。Q: 暦年贈与の「7年加算」は、いつから誰に影響しますか?
A:
令和6年1月1日以後の贈与について、相続開始日に応じて加算対象期間が段階的に延長されます。相続開始日が令和8年12月31日までなら3年、令和9年1月1日〜令和12年12月31日なら令和6年1月1日以後の贈与、令和13年1月1日以後は7年が基本です。加算の細目(100万円控除など)もあるため、相続開始日を前提に確認してください。Q: どちらを選んでも「贈与の証拠」は必要ですか?
A:
必要です。契約書、振込記録、贈与の都度の意思表示、受贈者側の管理状況など、実態が伴う形で残すことが重要です。特に家族間では、後日「実質は名義だけ」と評価されないよう管理方法まで整えてください。Q: 申告期限はいつですか?
A:
贈与税の申告・納税は、原則として贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までです。相続時精算課税は初年度の届出が必要になるため、期限管理が特に重要です。まとめ
- 「どっちが得か」は、相続までの期間・資産の値上がり・遺産規模(相続税率)で決まる
- 暦年贈与は年110万円を積み上げやすいが、相続開始日に応じて加算対象期間が段階的に最長7年へ
- 相続時精算課税は年110万円の基礎控除+2,500万円の特別控除で大きく移しやすいが、原則戻れない
- 値上がり資産や事業承継は精算課税が有効になり得る一方、分割・納税資金まで含めた設計が必須
- 最適解は家族構成と資産構成で変わるため、試算と手続設計をセットで行う
参照ソース
- 国税庁「No.4103 相続時精算課税の選択」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4103.htm
- 国税庁「No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4161.htm
- 国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4408.htm
- 国税庁「No.4429 贈与税の申告と納税」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4429.htm
- 財務省「令和5年度税制改正(資産課税・パンフレット)」: https://www.mof.go.jp/tax_policy/publication/brochure/zeisei23_pdf/zeisei23_02.pdf
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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