
執筆者:辻 勝
会長税理士
相続土地売却の税金|取得費加算の特例で節税する方法を税理士が解説

相続した土地を売却したときの税金は「譲渡所得」で決まる
相続した土地を売却したときの税金は、相続税ではなく、原則として所得税・住民税の譲渡所得(分離課税)で決まります。売却代金の全額に課税されるのではなく、「売却益(もうけ)」に税率を掛けて計算します。
誰にとって何が問題かというと、相続後に売却を検討する方ほど「取得費(買った金額)が分からない」「相続税を払ったのに二重に税金がかかる気がする」といった不安が出やすい点です。現場では、取得費の資料不足や特例の適用漏れにより、納税額が想定以上になるケースがよくあります。
税理士法人 辻総合会計では、相続・不動産を含む資産税分野を30年以上取り扱い、相続後の不動産売却に関する相談も多数受けてきました。本記事では、まず計算の全体像を押さえたうえで、取得費加算の特例による節税の要点を実務目線で解説します。
相続不動産の譲渡所得とは
譲渡所得の基本計算式
土地を売却した年分の譲渡所得は、概ね次の式で計算します(特別控除がなければ0円)。国税庁も同様の枠組みで説明しています。
- 譲渡所得 = 譲渡価額(売却代金など)-(取得費+譲渡費用)-特別控除額
「譲渡費用」は、仲介手数料、測量費、売買契約書の印紙代、立退料、取壊し費用など、売るために直接かかった費用です。
相続した土地の「取得費」と「取得時期」は引き継ぐ
相続した土地の取得費は、原則として「被相続人(亡くなった方)が取得したときの購入代金・購入手数料等」を基礎にします。相続時に支払った登記費用や不動産取得税なども、一定の場合に取得費に含められます。取得時期(所有期間の起算点)も同様に引き継がれ、長期・短期の判定に影響します。
一方で、古い土地で取得費が分からない場合、売却代金の5%を取得費とする「概算取得費」を使えることがあります。ただし、概算取得費を使うと、相続人が負担した登記費用等を取得費に上乗せできない点に注意が必要です。
税率は「長期・短期」で大きく変わる
譲渡所得の税率は、売却した年の1月1日現在で所有期間が5年超かどうかで区分されます(相続の場合、被相続人の取得時期を引き継いで判定します)。
| 区分 | 判定(売却年の1/1時点) | 所得税 | 住民税 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 長期譲渡所得 | 所有期間が5年超 | 15% | 5% | 復興特別所得税(基準所得税の2.1%)が別途加算 |
| 短期譲渡所得 | 所有期間が5年以下 | 30% | 9% | 復興特別所得税(同上)が別途加算 |
相続開始が最近でも、被相続人が長年保有していた土地なら「長期」になることが多いのがポイントです。税率差が大きいため、所有期間判定の確認は必須です。
取得費加算の特例とは
取得費加算の特例で何ができる?
取得費加算の特例は、相続や遺贈で取得した土地等を一定期間内に売却した場合に、支払った相続税の一部をその土地の取得費に上乗せできる制度です。取得費が増えると譲渡所得が減るため、結果として所得税・住民税が軽くなります。
この特例が特に効くのは、「相続税を納めた」「売却益が出る」「売却が期限内」という3条件がそろうケースです。
要件(適用できる人・期限)
国税庁が示す要件は次のとおりです。
- 相続または遺贈により財産を取得した人であること
- その財産の取得者に相続税が課税されていること(相続税が0円だと原則使えません)
- その財産を、相続開始日の翌日から「相続税申告期限の翌日以後3年を経過する日」までに譲渡していること(実務上は、申告期限の翌日から数えて3年以内が一つの目安)
ここで重要なのが、相続税申告期限が「死亡を知った日の翌日から10か月以内」である点です。売却の意思決定が遅れると、特例の期限を過ぎることがあります。
計算の考え方(ざっくり)
取得費に加算できる相続税額は、相続税額のうち「売却した財産に対応する部分」を按分して求めます(譲渡した財産ごとに計算)。また、加算額が譲渡益を超える場合は、譲渡益相当額が上限になります。
取得費加算の特例を使う手順
特例は自動適用ではなく、確定申告での手続が必要です。実務での流れを、最短距離で整理します。
Step 1: 期限の確認(最優先)
相続税の申告期限(10か月)と、特例の適用期限(申告期限の翌日以後3年経過まで)をカレンダーに落とし込みます。売却の引渡日(譲渡日)が期限内かを確認します。
Step 2: 取得費・譲渡費用の証憑を集める
被相続人の取得資料(売買契約書等)に加え、仲介手数料、測量費など譲渡費用の領収書を整理します。取得費が不明な場合は概算取得費(5%)も検討しますが、税負担が増えやすい点に注意します。
Step 3: 取得費加算額を算定する
相続税額と、売却資産に対応する相続税額を按分して「取得費に加算する相続税額」を計算します。国税庁の計算明細書の様式を使うと整理しやすくなります。
Step 4: 確定申告で明細書を添付して申告する
譲渡所得の内訳書(土地・建物用)等に加え、「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」など所定の書類を添えて申告します。添付書類の取扱いは手続案内も確認すると確実です。
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ケーススタディ:特例の有無で税額がどう変わるか
前提(イメージ):
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売却代金:5,000万円
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取得費:2,000万円
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譲渡費用:200万円
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相続税のうち、当該土地に対応する取得費加算額:500万円
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長期譲渡(所得税15%・住民税5%、復興特別所得税は別途)
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特例なしの譲渡所得:5,000-(2,000+200)=2,800万円
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特例ありの譲渡所得:5,000-((2,000+500)+200)=2,300万円
差額は500万円で、長期譲渡の税率(所得税15%+住民税5%)ベースで概算100万円程度の負担差が出ます(別途、復興特別所得税が加算)。実際には他の所得や控除、特別控除の有無で変動しますが、「相続税を払った人ほど効きやすい」ことが分かります。
相続土地売却で失敗しやすい注意点
- 相続税が課税されていない(納税0円)ため、取得費加算の特例が使えない
- 売却が期限を過ぎており、取得費加算の特例を適用できない
- 取得費が不明で概算取得費(5%)にした結果、譲渡益が大きくなってしまう
- 共有名義・遺産分割前の売却で、申告関係が複雑化して申告漏れが起きる
- 相続時の評価(相続税評価額)を「取得費」と誤解して申告してしまう(取得費は原則、被相続人の購入代金等)
相続不動産の譲渡所得は、資料の有無と期限管理で結果が大きく変わります。売却前に、税務・法務・不動産実務(分割、境界、測量、契約条件)を横断して段取りを組むことが、最終的な手取り最大化につながります。
よくある質問
Q: 相続税を払っていない場合でも、取得費加算の特例は使えますか?
Q: 売却期限は「相続開始から3年以内」ですか?
Q: 相続時の評価額(相続税評価額)を取得費にできますか?
まとめ
- 相続した土地を売却した税金は、原則として譲渡所得(所得税・住民税)で決まる
- 取得費・譲渡費用を正確に把握できるかで、譲渡所得が大きく変わる
- 税率は長期(5年超)か短期(5年以下)かで大きく違う
- 相続税を納め、期限内に売却するなら取得費加算の特例で節税余地がある
- 実務は「期限管理」と「証憑収集」が核心。売却前に段取りを固める
参照ソース
- 国税庁「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm
- 国税庁「No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3270.htm
- 国税庁「No.3208 長期譲渡所得の税額の計算」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm
- 国税庁「No.3211 短期譲渡所得の税額の計算」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3211.htm
- 国税庁「No.4205 相続税の申告と納税」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4205.htm
- 国税庁「A4-1 申告手続き(譲渡所得関係 申告書添付書類)」: https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/joto/annai/1647_01.htm
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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