
執筆者:辻 勝
会長税理士
相続土地売却の税金と手続きの流れ|必要書類まで税理士解説

導入:相続した土地を売るときの結論(誰にとって何が問題か)
相続した土地の売却は、結論から言うと「相続登記を終えてから売却し、翌年に譲渡所得税を確定申告する」という流れです。問題になりやすいのは、相続人間の合意(遺産分割)や名義変更が未了のまま売却を進め、契約直前で止まるケースです。さらに、売却益が出ると所得税・住民税がかかる一方で、相続税を納めている場合に使える特例もあり、手順と税務判断が噛み合わないと税負担が増えます。この記事では、手続きと税金を一本の線で整理します。
相続した土地を売る前提:相続登記は「義務」かつ売却の前提
相続登記の義務化(3年以内)と過料リスク
相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記をすることが義務化されています。正当な理由なく登記をしない場合、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。売却の場面でも、登記名義が被相続人のままだと、買主へ所有権移転できず取引が成立しません。したがって、売却実務では「まず相続登記」が原則です。
必要書類のイメージ(代表例)
相続登記の必要書類は事案で変わりますが、代表例は次のとおりです。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍(除籍・改製原戸籍を含む)
- 相続人全員の戸籍
- 被相続人の住民票除票、相続人の住民票
- 遺言書、または遺産分割協議書(相続人全員の署名押印) など
法定相続情報一覧図(戸籍の束を「一覧図」にまとめる制度)を使うと、金融機関や登記などで戸籍提出の手間が減ることがあります。
手続きの流れ:相続した土地を売却する方法(実務の手順)
相続土地売却の標準的な流れは次のとおりです。
Step 1: 相続人の確定と遺産分割(または遺言の確認)
戸籍で相続人を確定し、遺言の有無を確認します。遺産分割協議で「誰が土地を取得して売るか」を決めます。
Step 2: 相続登記の申請(名義変更)
名義を売却する相続人へ移します。ここが完了して初めて売買契約〜決済が現実的になります。
Step 3: 境界・面積の確認(測量、境界確定の要否判断)
隣地との境界が曖昧だと、買主側の融資や将来の紛争リスクで価格や契約条件に影響します。必要に応じて測量・境界確認を行います。
Step 4: 売却方針の決定(仲介/買取、価格戦略)
不動産会社に査定依頼し、売却期間・手取り目標・現況(更地/古家付き)を踏まえて方針を固めます。
Step 5: 売買契約・決済(引渡し)
契約締結後、決済日に代金受領・引渡しを行い、買主へ所有権移転登記がされます(司法書士が手配するのが一般的です)。
Step 6: 翌年の確定申告(譲渡所得)
売却益(譲渡所得)が出た場合、原則として翌年に確定申告します。特例を使う場合も申告が前提です。
税金の基本:譲渡所得税(所得税・住民税)の計算と税率
譲渡所得の計算式(まずはここを押さえる)
土地・建物の譲渡所得は、原則として次の考え方で計算します。
譲渡収入 −(取得費+譲渡費用)− 特別控除 = 課税譲渡所得
取得費・譲渡費用の範囲、収入金額の考え方などは国税庁の整理に従うのが安全です。
ここで重要なのが、相続した土地の「所有期間」の考え方です。多くのケースで、相続人が取得した日からではなく、被相続人が取得した日から通算します。つまり、所有期間5年の判定が想定より長期(有利)になることがあります。
長期・短期で税率が変わる(比較表)
土地・建物の譲渡は分離課税で、長期・短期で税率が大きく異なります。
| 区分 | 判定基準(譲渡年1/1時点) | 所得税 | 住民税 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 長期譲渡所得 | 所有期間5年超 | 15% | 5% | 所得税に復興特別所得税(2.1%上乗せ)あり |
| 短期譲渡所得 | 所有期間5年以下 | 30% | 9% | 所得税に復興特別所得税(2.1%上乗せ)あり |
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節税の要点:取得費加算の特例と空き家特例(使えるかを先に判定)
取得費加算の特例(相続税を払っている人の代表的な論点)
相続や遺贈で取得した財産を、一定期間内に譲渡した場合、相続税額のうち一定額を取得費に加算できる特例があります。要件の骨子は「相続税が課税されていること」と「相続開始から相続税申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること」などです。
この特例を使えると、課税譲渡所得が圧縮され、結果として譲渡所得税が下がる可能性があります。
空き家の3,000万円特別控除(対象ならインパクト大)
被相続人の居住用家屋(いわゆる空き家)やその敷地を一定期間に売却し、要件を満たす場合、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる特例があります。適用期間や、相続人が3人以上の場合に控除上限が2,000万円になる点など、要件が細かいため早期に判定するのが実務的です。
ケーススタディ(よくある相談)
税理士法人 辻総合会計の実務で多いのは、「相続税申告は終わったが、土地の売却は後回しにしていた」というケースです。例えば、相続税を納付している場合、売却時期が要件に合えば取得費加算の特例で税負担が軽くなることがあります。一方で、売却が遅れて期限を外れると適用できず、同じ売却益でも税額差が出ます。期限管理を含めて売却計画を立てるのがポイントです。
注意点とリスク:売却を止めないためのチェックポイント
- 共有名義のまま売るには、原則として共有者全員の関与が必要です。遺産分割で名義人を一本化してから売る方が、取引はスムーズになりやすいです。
- 取得費資料(購入契約書等)が見つからないと、税務上の取得費が論点になります。取得費が不明な場合の取扱い(概算取得費など)も含め、根拠資料の整理が重要です。
- 境界未確定、越境、私道負担などは価格・契約条件に直結します。測量の要否は早めに判断してください。
- 特例(取得費加算・空き家特例など)は「使えるかどうか」だけでなく「申告で必要書類を揃えられるか」まで含めて検討します。
よくある質問
Q: 相続登記をしないまま土地を売れますか?
A:
原則として売れません。名義が被相続人のままだと買主へ所有権移転登記ができず、決済が成立しません。相続登記は3年以内の義務でもあるため、まず登記手続きを進めます。Q: 譲渡所得税はいつ払いますか?
A:
売却した年分として、原則翌年に確定申告し、申告に基づいて納付します。土地・建物の譲渡所得は分離課税で、所有期間により長期・短期の区分と税率が変わります。Q: 相続税を払っていれば必ず取得費加算の特例を使えますか?
A:
いいえ。相続税が課税されていることに加え、譲渡時期などの要件を満たす必要があります。要件を外れると適用できません。Q: 空き家の3,000万円控除は土地だけでも対象になりますか?
A:
被相続人居住用家屋またはその敷地等が対象となり得ますが、適用期間・要件が細かい制度です。相続人の人数によって控除上限が変わる点も含め、個別に要件確認が必要です。まとめ
- 相続した土地の売却は「相続人確定・遺産分割 → 相続登記 → 売買 → 翌年申告」が基本
- 相続登記は3年以内の義務で、未了だと売却手続きが止まりやすい
- 譲渡所得税は「収入−(取得費+譲渡費用)−控除」で計算し、長期・短期で税率が大きく異なる
- 相続税がある場合は取得費加算の特例、空き家なら3,000万円控除など、使える特例を早めに判定する
- 境界・取得費資料・共有関係がつまずきやすいので、売却前に論点を洗い出す
参照ソース
- 法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00565.html
- 法務省「不動産を相続した方へ(法定相続情報一覧図等)」: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00435.html
- 国税庁「No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3202.htm
- 国税庁「No.3208 長期譲渡所得の税額の計算」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3208.htm
- 国税庁「No.3211 短期譲渡所得の税額の計算」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3211.htm
- 国税庁「No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3267.htm
- 国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
- 国税庁「No.4205 相続税の申告と納税」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4205.htm
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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