
執筆者:辻 勝
会長税理士
相続税の物納とは?不動産で納める条件と手続|税理士が解説

相続税の物納とは|不動産で納める制度の概要
相続税の物納とは、延納でも金銭納付が困難な場合に、一定の相続財産(不動産など)で相続税を納められる制度です。現金が少なく、相続税を期限内に払えない相続人にとって、納税資金の確保が最大の課題になります。物納は売却回避の選択肢になりますが、許可制であり、要件と書類整備の難易度が高い点に注意が必要です。
まず押さえる原則:相続税は現金納付が基本
国税は金銭納付が原則で、相続税も例外ではありません。物納は「最終手段」で、審査により許可されて初めて成立します。なお、加算税・延滞税など相続税に附帯する税額は物納の対象外です。
物納と延納の違い(結論)
延納は「分割で現金払い」、物納は「財産で払い切る」です。物納は延納より要件が厳しく、まず延納で払える範囲を計算し、それでも不足する部分に限って物納が検討対象になります。
相続税 物納 条件|申請できる4つの要件
相続税の物納は、概ね次の4点を満たす必要があります(細部は財産内容で変動します)。
要件1:延納でも金銭納付が難しいこと(限度額の考え方)
「現金がない」という感覚だけでは足りず、客観的に見て金銭納付が困難であることを説明します。令和7年度税制改正により、延納許可限度額・物納許可限度額の計算方法が見直されており、2026年に相続が発生するケースでも、相続開始日が令和7年4月1日以後なら改正後の計算を前提に理由書を作成します。
要件2:物納できる財産であること(国内財産・優先順位)
物納に充てられるのは、課税価格計算の基礎となった相続財産のうち日本国内に所在する財産です。さらに、優先順位があり、原則として不動産・船舶・国債/地方債・上場株式等から先に充て、次に非上場株式等、最後に動産という順序で申請します。相続時精算課税の適用財産など、制度上、物納の対象にできない財産もあります。
要件3:不適格財産に当たらないこと(管理処分不適格財産)
「国が受け取って管理・処分できない」と判断される不動産は、物納に使えません。代表例は、抵当権など担保権が付いた不動産、境界が不明な土地、共有で一体利用されている不動産、権利関係に争いがある不動産などです。
要件4:期限内に申請し、必要書類をそろえること
物納は、物納申請期限(納期限または納付すべき日)までに申請書と物納手続関係書類を提出します。書類を期限までにそろえられない場合でも、延長届を出すことで、1回につき3か月を限度に最長1年まで提出期限を延長できる扱いがあります。
相続税 物納 不動産|物納できる不動産・できない不動産
「不動産なら何でも物納できる」と誤解されやすいのですが、実務では出せる不動産の見極めが最重要です。
物納しやすい不動産の典型
- 抵当権など担保がなく、名義・境界が明確
- 単独所有で、利用関係が整理されている
- 国が引渡し後に管理・売却しやすい(権利関係がシンプル)
このタイプは、必要書類(登記事項、境界関係、評価資料など)が整備しやすく、審査の説明も組み立てやすい傾向があります。
物納が難しくなる不動産(よくある落とし穴)
管理処分不適格財産に該当しやすいのは次のケースです。
- 抵当権設定、差押え等が残っている
- 境界未確定、通路(袋地)問題が未整理
- 共有持分のみの申請、他不動産と一体利用
- 借地・賃貸で相手方が不明、敷金精算が未了
収納価額はどう決まる?
物納財産を国が収納するときの価額(収納価額)は、原則として相続税評価額(課税価格計算の基礎となった価額)です。小規模宅地等の特例を適用している土地を物納する場合は、特例適用後の価額が基準になる点も押さえてください。
相続税 現金 足りないときの手続き|物納申請の流れ
ここからは「不動産で納めたい」と考えたときの、現実的な進め方を手順で整理します。
Step 1: 納税資金の不足額を数字で確定する
相続税額(概算→確定)と、手元資金・預貯金・売却可能資産・借入余地を棚卸しします。「いくら不足するか」が確定しないと、延納・物納の可否判断ができません。
Step 2: まず延納の可否と限度額を検討する
物納は「延納でも無理な部分」に限られます。延納の年賦計画、担保提供の要否、利子税負担を含めて、延納でカバーできる金額を算定します。
Step 3: 物納に充てる不動産を選定し、整備論点を洗い出す
順位に沿って、物納に出す不動産を決めます。同時に、担保抹消・境界確定・共有整理など「許可までに片付ける論点」をリスト化し、費用とスケジュールを見積もります。
Step 4: 申請書・理由書・添付書類を作成し、期限内に提出する
申請には、物納申請書、金銭納付を困難とする理由書、物納手続関係書類が必要です。期限に間に合わない添付書類がある場合は、提出期限延長届を出しておくとリスクを下げられます。
Step 5: 審査対応→許可後に引渡し(却下時は再検討)
税務署長は原則として申請期限から3か月以内に許可・却下を判断し、財産状況により最長9か月まで延長されることがあります。却下の場合は、延納への切替、別財産での再申請、売却・借入の再構成を行います。
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延納・物納・売却の比較|納税資金が足りない場合の選択肢
不動産で払いたい気持ちは自然ですが、納税資金対策として最適解はケースで変わります。判断軸を表で整理します。
| 選択肢 | 主な要件 | コスト/負担 | 向いているケース | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 不動産売却(換価) | 市場で売れること | 仲介手数料・譲渡税等 | 期限までに売却可能、権利関係が単純 | 価格下振れ・時間切れリスク |
| 延納 | 金銭一括納付が困難、担保等 | 利子税、担保設定、手続 | 収入があり分割なら払える | 返済計画が崩れると延滞に |
| 物納 | 延納でも困難、適格財産、順位、期限 | 整備費用、審査対応 | 売れない/売りたくない不動産が中心、現金化が困難 | 許可されない可能性がある |
国税庁データで見る「物納は少数派」
国税庁の「相続税の物納処理状況等(平成17年度〜令和6年度)」によると、直近3年でも申請は年20〜50件程度で推移しています(件数は「処理」に過年度分が含まれるため、許可が申請を上回る年があります)。
| 年度 | 申請(件) | 許可(件) | 取下げ等(件) | 却下(件) |
|---|---|---|---|---|
| 令和4年度 | 52 | 54 | 6 | 2 |
| 令和5年度 | 23 | 16 | 5 | 4 |
| 令和6年度 | 50 | 31 | 2 | 3 |
税理士が解説:物納を通すための実務ポイント
税理士法人 辻総合会計では、「相続税の現金が足りない」「不動産はあるが売れない」というご相談で、延納・物納の検討に入るケースを継続的に扱っています。現場感として重要なのは、次の3点です。
1. 物納ありきにしない(却下時の出口を用意)
物納は許可制で、却下や補正指示は珍しくありません。延納への切替や、不動産の一部売却、つなぎ融資など、二の矢を最初から用意しておくと納期限事故を防ぎやすくなります。
2. 不動産の論点は「権利」と「境界」が核心
担保抹消、共有解消、境界確定、通行権の整理は時間がかかります。早い段階で法務・測量の段取りを付け、どこまで整備すべきかを見立てることが重要です。
3. 書類は後追いにしない(提出期限延長の使い方)
提出期限延長は便利ですが、延長できるのは添付書類であって、申請そのものの期限ではありません。期限内に申請書を出しつつ、延長届で不足資料を補う設計が安全です。
よくある質問
Q: 相続税の物納は不動産なら必ず認められますか?
Q: 物納の申請期限に間に合わない場合はどうなりますか?
Q: 物納の審査はどれくらいかかりますか?
まとめ
- 相続税の物納は、延納でも現金納付が困難な場合に限って使える最終手段
- 不動産での物納は、担保・境界・共有など「管理処分不適格」に当たらないかが核心
- 申請は納期限まで、添付書類は延長届で最長1年まで延ばせる
- 許可まで原則3か月、状況により最長9か月の延長もあり得る
- 却下に備え、延納・売却・借入の代替案を同時に設計する
参照ソース
- 国税庁「No.4214 相続税の物納」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4214.htm
- 国税庁「物納許可限度額等の計算方法が変わりました(令和7年4月)」: https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0025006-033.pdf
- 国税庁「相続税の物納処理状況等(平成17年度から令和6年度)」: https://www.nta.go.jp/taxes/nozei/enno-butsuno/jokyo/01.htm
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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