
執筆者:辻 勝
会長税理士
借地権相続の相続税評価と手続き注意点|税理士が解説

借地権を相続したら何が問題になるか
借地権を相続した場合の相続税評価は、原則として「借地権の目的となる土地の自用地としての価額×借地権割合」で計算します。借地権割合は地域ごとに定められ、路線価図・評価倍率表で確認します。
実務上のつまずきは、(1) 借地権の種類(普通借地か、定期借地か)を取り違える、(2) 権利金・更新料・名義書換料など契約実態が評価に影響するのに資料が揃わない、(3) 申告書に添付すべき明細書が不足しやすい、の3点です。
特に地主・借地人の関係が長いケースでは、契約書が古い、口約束が混ざる、地代が相場から乖離しているといった事情があり、評価・申告の説明力が問われます。
借地権の相続税評価の基本(借地権 相続税評価)
借地権とは(評価対象になる権利)
借地権とは、建物の所有を目的とする地上権または土地の賃借権をいい、相続税・贈与税の課税対象になります。国税庁は借地権を「借地権(普通借地)」と「定期借地権等」に区分して評価すると整理しています。
参照:国税庁「No.4611 借地権の評価」
普通借地権の評価式:自用地価額×借地権割合
普通借地権の価額は、借地権の目的となっている宅地の自用地としての価額に借地権割合を乗じて求めます。借地権割合は路線価図・評価倍率表に表示されています。
つまり、評価の入り口は「その土地を更地(自用地)とみた場合の価額」と「借地権割合の確認」です。ここが固まれば、借地権評価の骨格は一気に安定します。
定期借地権等は期間と経済的利益で考える
定期借地権等の価額は、原則として課税時期における借地権者に帰属する経済的利益と存続期間を基として評定します。一定の場合には、課税時期の自用地価額に算式で計算した数値を乗じる方法も示されています。
普通借地のように「借地権割合だけで機械的に決まる」とは限らないため、契約内容(存続期間、地代、権利金・一時金等)を必ず確認します。
契約書が見当たらない場合でも、固定資産税の課税明細、地代の振込履歴、更新の覚書、名義書換の合意書など契約実態が分かる資料が評価・説明の根拠になります。資料収集から逆算して動くのが安全です。
借地権の相続手続きの流れ(借地権 相続 手続き)
借地権は「権利」なので、税務(相続税)と民事(契約・登記・対地主対応)が同時進行になります。申告期限(原則10か月)から逆算して、次の順序で進めると事故が減ります。
Step 1: 借地権の種類と契約条件を確定する
- 普通借地か、定期借地権等か(契約条文と締結時期、存続期間を確認)
- 地代、更新料、名義書換料、承諾料、譲渡制限の有無
- 借地上建物の所有者(被相続人名義か、同族法人名義か)
Step 2: 借地権割合・路線価等を確認し、評価の方針を決める
普通借地であれば「自用地価額×借地権割合」が基本です。
定期借地権等は契約内容に依存するため、評価方法の選択(原則評価か、条件を満たす場合の算式評価か)を整理します。
Step 3: 申告添付書類(明細書)を作る
相続税申告では「土地及び土地の上に存する権利の評価明細書」を作成し、申告書に添付して提出します。
参照:国税庁「B2-5 土地及び土地の上に存する権利の評価明細書」
借地権は「土地の上に存する権利」に該当するため、明細書の不備があると税務署側の確認が長引きやすい点に注意します。
Step 4: 必要に応じて相続登記・権利関係を整える
借地権そのものは契約上の地位の承継ですが、借地上建物の名義変更(相続登記)が絡むことが多く、対地主説明もセットで進めるのが実務的です。
※相続登記は令和6年4月1日から義務化されています(法務省案内参照)。
底地を相続した場合の評価と借地権との違い(底地 相続)
借地関係では、同じ土地でも立場により相続財産が変わります。借地人が相続するのは「借地権」、地主が相続するのは「底地(借地権が設定されている土地の所有権)」です。
| 項目 | 借地権(借地人側が相続) | 底地(地主側が相続) |
|---|---|---|
| 相続財産の中身 | 土地を使用収益する権利(地上権・賃借権) | 借地権の目的となっている土地の所有権 |
| 評価の基本 | 自用地価額×借地権割合(普通借地) | 実務上は「自用地価額-借地権価額」を起点に検討(契約条件で調整) |
| つまずきやすい点 | 借地権種類の取り違え、資料不足 | 地代・承諾料等の実態、権利関係(更新・譲渡制限) |
底地は「自用地(更地)のように自由に使える土地ではない」ため、評価は借地権の存在を織り込んで考えます。借地権評価が基本式で組める場合、底地側はその残りを出発点にすると全体整合が取りやすい、というのが現場の感覚です(個別事情により調整が必要です)。
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申告時に揉めやすいポイントと実務の注意点
1) 借地権割合の読み違い(路線価図の確認)
借地権割合は地域ごとに定められ、路線価図等に表示されています。角地や複数路線に接する土地では、借地権割合以前に「自用地価額の組み立て」で差が出ます。
2) 更新料・名義書換料など実態の説明不足
普通借地でも、更新料や名義書換料が慣行化している地域・契約では、税務署から「その対価性は何か」「譲渡制限が強いのに借地権割合どおりで良いのか」といった確認が入りやすいです。資料で説明できる状態にしておくのが最短です。
3) 明細書の添付漏れ・評価根拠の不足
「土地及び土地の上に存する権利の評価明細書」は、相続税申告に添付して提出する位置づけです。借地権は数字が1行で出る一方、根拠資料(契約書、地代、路線価図の該当ページ等)がないと説明が弱くなります。評価根拠の見える化が重要です。
実務では、借地権・底地の相続案件で「契約実態メモ(地代推移、更新履歴、承諾料の有無)」を作成し、評価明細書とセットで保管しておくと、後日の照会対応が圧倒的に楽になります。
4) ケーススタディ(匿名)
例えば、父が借地人として長年店舗を営み、地代が相場より低いまま固定、契約書が旧様式のままというケースがあります。相続では借地権評価が論点になりますが、実際には「更新が継続しているか」「譲渡承諾の実務がどうか」「名義書換料の慣行があるか」を拾うだけで、説明の納得感が大きく上がります。
数字の正確性だけでなく、税務署が確認したくなるポイントを先回りして整理することが、結果的にコストを下げます。
よくある質問
Q: 借地権割合はどこで確認できますか?
Q: 定期借地権でも借地権割合で評価してよいですか?
Q: 借地上建物の名義変更(相続登記)は必要ですか?
Q: 相続税申告で借地権はどんな書類を添付しますか?
まとめ
- 借地権の相続税評価(普通借地)の基本は「自用地価額×借地権割合」
- 定期借地権等は経済的利益と存続期間を軸に評価し、契約確認が必須
- 申告では「土地及び土地の上に存する権利の評価明細書」の添付と根拠資料の整備が重要
- 底地相続は借地権の存在を織り込むため、借地権評価との整合を意識して組み立てる
- 相続登記は令和6年4月1日から義務化され、借地上建物の名義整理と同時進行が安全
参照ソース
- 国税庁「No.4611 借地権の評価」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4611.htm
- 国税庁「B2-5 土地及び土地の上に存する権利の評価明細書」: https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hyoka/annai/1470-05.htm
- 法務省「相続登記・遺贈の登記の申請をされる相続人の方へ」: https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000001_00014.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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