
執筆者:辻 勝
会長税理士
経営者保証解除と事業承継|後継者に保証を残さない方法を税理士が解説

経営者保証と事業承継の関係とは
結論から言うと、経営者保証の問題は「借入を維持したまま承継する」局面で顕在化します。先代の個人保証が残っていると、後継者が「保証を追加で求められる」「保証を引き継がされる」などの心理的・経済的負担になり、承継が停滞します。中小企業庁も、経営者保証が円滑な事業承継を妨げる要因になり得る点を示しています。
事業承継で押さえるべき論点は2つです。
- 先代の保証を外せるか(解除・代替)
- 後継者に新たな保証を求められない状態を作れるか(無保証化・担保設計・財務改善)
本記事では、後継者に保証を引き継がせないための具体策を、金融機関実務の流れに沿って解説します。
経営者保証を解除するための前提条件
「保証は外してほしい」と言えば外れるものではなく、金融機関側の与信判断に耐える材料が必要です。中小企業庁が示す経営者保証に関する整理では、保証に依存しない融資慣行への転換が進んでいる一方、企業側にもガバナンスや財務の透明性が求められる流れがあります。
実務上、解除・無保証化の前提は概ね次の3点に集約されます。
- 財務内容:債務償還能力(利益・キャッシュフロー)、過度な債務超過でないこと
- 資産分離:会社資産と個人資産の混同が少ない(私的流用や名義混在がない)
- 情報開示:月次試算表・資金繰り表・事業計画などの提出体制がある
ここを整えずに交渉すると、「保証は外せないが後継者保証は必要」という結論に寄りやすい点に注意が必要です。
後継者に保証を引き継がせない4つの方法
「後継者が保証人になるのを避ける」方法は、単一の打ち手ではなく、借入構造と承継スキームに応じた組み合わせになります。代表的な4類型を示します。
方法1:既存借入の条件変更・借換で保証を外す(保証外し交渉)
もっとも王道が、金融機関と協議し、条件変更(リスケではなく条件更改)や借換のタイミングで保証を外す方法です。
- 良い材料:直近の業績改善、返済実績、担保余力、計画の実現性
- 交渉の型:先代保証の解除+後継者は原則無保証(必要なら限定保証や一定期間の経過条項を検討)
重要なのは「承継後に後継者の保証を取る」発想を、金融機関と同じテーブルで再設計することです。
方法2:事業承継に焦点を当てたガイドライン特則を活用する
金融庁は、事業承継時の保証取扱いに関する「経営者保証に関するガイドライン」の特則を公表しており、事業承継局面での具体的な着眼点・対応手法が整理されています。交渉の際は「特則の考え方に沿って整理している」こと自体が、話を前に進める共通言語になります。
ポイントは、承継に伴う保証の扱いを「例外処理」ではなく、特則の枠組みで整理して提示することです。資料提出の粒度(資産分離、計画、ガバナンス)も、特則が想定する方向性に合わせて準備すると交渉の再現性が上がります。
方法3:事業承継特別保証制度など、保証を不要とする制度を組み合わせる
中小企業庁は、事業承継時の保証解除に向けた総合的な対策の中で、経営者保証を不要とする信用保証制度(事業承継特別保証制度)等を紹介しています。実務では、メインバンクの融資だけでなく、信用保証協会付き融資や制度融資を組み合わせて「無保証枠」を作る設計が有効です。
ただし、制度は万能ではありません。保証料率、要件、利用期限・更新条件などが絡むため、既存借入の返済計画と整合させて「どの借入を無保証化し、どれを通常融資で維持するか」を設計します。
方法4:M&A・株式譲渡の契約で「保証の残し方」を設計する
親族内承継だけでなく、第三者承継(M&A)でも保証問題は核心です。株式譲渡で会社は残るため、金融機関借入がある場合は、先代保証が残ると「売ったのに保証が残る」状態になります。
この場合は、売買契約(SPA)だけで解決せず、金融機関との同時並行が必要です。
- 取引条件に「保証解除が成立しない場合は実行しない」停止条件を置く
- クロージング前に借換・返済原資(役員借入返済、配当、退職金の設計等)を整理する
- 必要なら買い手側で別枠調達し、旧借入を整理する
税務(退職金・株価・譲渡所得)と金融(借入・担保・保証)が交差するため、早期に全体設計を行うことが重要です。
方法別の比較表:どれが自社に合うか
| 方法 | 向くケース | メリット | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 条件変更・借換で保証外し | 業績が安定、返済実績がある | 最もシンプルに「後継者無保証」を狙える | 資料整備が不十分だと後継者保証を求められやすい |
| ガイドライン特則の活用 | 事業承継が近い、交渉を体系化したい | 交渉の共通言語になり説得力が出る | 特則に沿った資産分離・開示体制が必要 |
| 事業承継特別保証等の制度活用 | 信用保証協会付き融資も使える | 無保証枠を作りやすい | 要件・保証料・更新条件の確認が必須 |
| M&A契約で設計 | 第三者承継、買い手が決まっている | 「売ったのに保証が残る」を避けやすい | 契約だけでなく金融機関の同意が必要 |
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経営者保証解除までの実務ステップ
税理士法人 辻総合会計でも、事業承継支援の現場では「保証解除の交渉材料を先に揃える」ことを重視します。流れをステップで整理します。
Step 1: 借入と保証の棚卸し
借入ごとに、金融機関、残高、返済条件、担保、保証人(先代・配偶者等)を一覧化します。保証人が複数いる場合、解除の順序も設計します。
Step 2: 解除可能性の診断(財務・資産分離・開示)
月次試算表、資金繰り、役員貸借、私的流用の有無などを確認し、解除に向けた改善メニューを作ります。
Step 3: 承継スキーム確定(親族内/役員昇格/M&A)
株式移転、役員体制、代表交代日、退職金、配当方針まで含めて、金融機関へ説明できる形に落とします。
Step 4: 金融機関との協議(主行から順に)
主行に「後継者無保証」をゴールとして提示し、必要条件(担保、計画、制度活用)をすり合わせます。ここで特則の考え方を踏まえた整理が効きます。
Step 5: 条件変更・借換・制度実行、保証解除の書面化
口頭合意で終わらせず、契約書・覚書等で保証解除(または後継者無保証)を確定させます。
ケーススタディ:先代の保証を外し、後継者を無保証で承継した例
よくある相談として、年商2〜5億円規模で借入が複数行に分散しているケースがあります。先代が代表で全行に個人保証、後継者は入社済みだが「保証が条件なら継ぎたくない」と慎重になっている状況です。
この場合、まず月次管理と資金繰りの精度を上げ、役員借入金や仮払の整理で資産分離を進めます。そのうえで、主行には条件更改のタイミングで先代保証解除を打診し、サブ行は主行合意をテコに後追いで整理します。信用保証協会付きの枠を一部活用し、無保証部分を増やしながら、最終的に「後継者は原則無保証、必要でも限定的・期限付き」という形で着地させます。
ポイントは、保証だけを切り出して交渉せず、事業計画・ガバナンス・承継スキームをセットで提示することです。
よくある質問
Q: 後継者が連帯保証人になるよう金融機関から求められました。断れますか?
Q: 先代が保証を外せても、個人資産の担保提供は必要ですか?
Q: 事業承継の時期が決まっていません。それでも準備すべきですか?
まとめ
- 経営者保証は事業承継の阻害要因になりやすく、後継者に保証を引き継がせない設計が重要
- 解除の前提は「財務内容」「資産分離」「情報開示」の3点で、交渉材料の準備が成否を分ける
- 打ち手は、保証外し交渉、ガイドライン特則の活用、事業承継特別保証等の制度活用、M&A契約設計の組み合わせ
- 実務は「借入棚卸し→解除可能性診断→承継スキーム確定→金融機関協議→書面化」の順で進める
- 税務(退職金・株式・資金移動)と金融(借入・担保・保証)は一体で設計する
参照ソース
- 中小企業庁「事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策」: https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/hosyoukaijo/index.html
- 中小企業庁「経営者保証」: https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/keieihosyou/
- 金融庁「事業承継時に焦点を当てた『経営者保証に関するガイドライン』の特則」: https://www.fsa.go.jp/news/r1/ginkou/20191224-1.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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