
執筆者:辻 勝
会長税理士
実家相続どうする?判断基準と売却・賃貸・住む比較|税理士が解説

実家の相続で悩ましいのは、「気持ち」と「数字(税金・維持費)」が衝突しやすい点です。結論としては、家族の合意形成→登記・名義の整理→税金の見通し→物件の収益性/処分性の確認の順で判断すると、後戻りコストを抑えられます。当法人(税理士法人 辻総合会計)でも、相続後に“とりあえず共有”にした結果、売却も賃貸も進まず、固定資産税と管理負担だけが増える相談が少なくありません。
実家相続どうする?最初に整理すべき3つの論点
「親の家をどうするか」は感情論になりがちですが、実務では次の3点で大枠が決まります。
1) 使う人がいるか(居住・利用の確度)
誰が住むのか、住むならいつからか。ここが曖昧だと、空き家期間が長引き、修繕費・防犯・近隣対応などの管理コストが膨らみます。
2) 共有名義にするか(意思決定の難易度)
相続人が複数の場合、共有にすると売却・賃貸・大規模修繕の意思決定が難しくなります。「全員の同意が必要な局面」が増えるため、合意形成に時間がかかるほど“塩漬け資産”になりやすい点に注意が必要です。
3) 税金とキャッシュフロー(手残り)を見える化できているか
売却なら譲渡所得税、賃貸なら所得税・住民税、住むなら維持費(固定資産税、修繕、火災保険等)が継続します。数字の見通しが立つと、家族内の議論も進みやすくなります。
売却・賃貸・住む場合の比較表(実務での判断軸)
以下は、実務でよく使う比較軸です。迷ったら、まずこの表を埋めてください。
| 比較項目 | 売却 | 賃貸 | 住む |
|---|---|---|---|
| 初期の手続き負担 | 中(測量・境界・契約) | 高(修繕・募集・契約管理) | 低〜中(名義・引越し) |
| 収支の見通し | 一括で確定しやすい | 継続収入だが空室リスク | 収入は生まれない |
| 税金のポイント | 譲渡所得税、特例の可否 | 不動産所得(必要経費計上) | 維持費中心(税負担は軽い傾向) |
| 家族トラブル | 共有だと売却同意が壁 | 管理方針で揉めやすい | 住む人・住まない人の不公平感 |
| 向くケース | 使う予定がない、現金化したい | 立地が良い、修繕後も利回りが出る | 居住ニーズが明確、生活基盤を置く |
「住む人が確定」していないのに賃貸化や大規模修繕に進むと、途中で方針転換できず損失が出やすい点は要注意です。
実家を売却する場合:税金(空き家特例)と手続きの要点
空き家の3,000万円特別控除の対象になり得る
一定要件を満たすと、相続した実家(被相続人の居住用財産)を売却した際に、譲渡所得から最大3,000万円を控除できる特例があります。期間や要件があり、近年は相続人が3人以上の場合の控除額に注意点もあります。「売却すれば自動で3,000万円控除」ではありません。
取得費が不明だと税金が増える可能性
譲渡所得は「売却額 −(取得費+譲渡費用)」で計算します。親が購入した当時の契約書等が見当たらないと、取得費を十分に主張できず税負担が重くなることがあります。資料探索(売買契約書、領収書、登記費用、リフォーム記録など)は早めに行いましょう。
実務の流れ(売却)
- 相続人の確定・遺産分割協議(または遺言の確認)
- 相続登記(名義変更)を進める
- 境界・測量、残置物処分、必要に応じて解体/修繕
- 不動産会社の査定・媒介契約、売買契約、引渡し
- 確定申告(譲渡所得・特例適用の申告)
実家を賃貸に出す場合:収益性と管理の“現実”
賃貸は「持ち続けながら収入が得られる」一方で、実務の負担が最も大きい選択肢です。
収益性のチェック(利回りより“手残り”)
家賃収入から、固定資産税、火災保険、修繕、管理委託料、空室期間の負担を差し引いた“手残り”で判断します。特に築古戸建は、入居付けのために水回り・外壁・給湯器などの支出が先行しがちです。
共有のまま賃貸は揉めやすい
賃貸条件(家賃、修繕の上限、設備更新)や、収益分配、将来の売却方針で意見が割れやすくなります。実務では、管理権限を誰が持つか(代表者、費用負担ルール、意思決定プロセス)まで決めておくことが重要です。
実家に住む場合:節税より“家族内の公平”が論点になりやすい
住む選択は、生活の安定というメリットが大きい一方、住まない相続人から「自分だけ得をしている」と見られやすい傾向があります。
遺産分割での調整が実務ポイント
- 住む人が不動産を取得し、他の相続人には預金等で調整する
- 代償金(住む人が他の相続人へ金銭を支払う)で公平を図る
- 将来売却時の分配方法を合意しておく
「住む=無料で使える」ではなく、相続財産の配分として整理すると紛争予防になります。
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失敗しない判断手順(実家相続のやり方)
実務では、次の順序で進めるとブレにくくなります。
Step 1: 相続人・遺言・財産の全体像を確定する
戸籍収集、遺言の有無、預金・不動産・借入の確認を行い、実家以外も含めた全体で分割方針を考えます。
Step 2: 相続登記の方針を決め、期限管理する
遺産分割が長引く見込みなら、期限対応(申出制度等)も含めて検討し、登記を放置しない運用にします。
Step 3: 物件の“市場性”を数値化する
売却査定(複数社)、賃貸想定家賃、修繕見積、固定資産税額、近隣の取引事例を揃えます。
Step 4: 税金のシミュレーションを作る
売却なら譲渡所得と特例可否、賃貸なら所得見込み、住むなら維持費を年次で並べ、家族会議の共通資料にします。
Step 5: 合意内容を文書化し、実行計画に落とす
共有の場合は代表者・費用負担・意思決定のルールを合意し、売却/賃貸/居住の実行スケジュールを決めます。
ケーススタディ:共有のまま放置して“売れない家”になった例
例えば、相続人が3名で「いずれ売る」と共有登記したものの、残置物処分や境界確定の費用負担で合意できず、数年が経過したケースがあります。結果として、建物の劣化が進み、売却時に解体費が増加。近隣からの苦情対応も必要になり、精神的コストも膨らみました。
このような場合、早期に「誰が意思決定者か」「費用の上限」「売却期限」を決めていれば、追加コストを抑えられた可能性が高いといえます。
よくある質問
Q: 実家は相続したらすぐ売った方がいいですか?
A:
一概にはいえません。住む人がいるか、賃貸で手残りが出るか、売却で空き家特例の要件を満たせるかで結論が変わります。まずは査定・修繕見積・税金シミュレーションを揃え、家族で比較できる状態にすることが先決です。Q: 兄弟で共有名義にすると何が問題ですか?
A:
売却、賃貸、大規模修繕などで合意が必要となり、意思決定が遅れやすい点が典型です。共有にするなら、代表者、費用負担、将来売却の条件などを文書化しておくとトラブル予防になります。Q: 相続登記はいつまでに必要ですか?
A:
相続登記は期限管理が重要です。遺産分割がまとまらない場合の対応策も含め、早めに専門家へ相談し、放置を避けてください。まとめ
- 実家相続は「使う人」「共有の設計」「税金と手残り」の3点で方向性が決まる
- 売却は一括で整理しやすいが、空き家特例など要件判定が重要
- 賃貸は管理負担が最大。手残りと方針転換条件まで設計する
- 住む場合は家族内の公平(代償金等)を分割設計として整理する
- 判断は「合意形成→登記→税金→市場性」の順で進めると失敗しにくい
参照ソース
- 国税庁「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm
- 国税庁「No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得時期」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3270.htm
- 法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00565.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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