
執筆者:辻 勝
会長税理士
自社株評価を下げる方法5選|税理士が解説

自社株評価を下げるとは?まず評価の決まり方を確認
自社株の「評価を下げる」とは、相続税・贈与税の計算上の株価(評価額)を、国税庁のルールの範囲内で引き下げることです。非上場株式(取引相場のない株式)は、株主の区分(同族株主等か否か)や会社規模(大会社・中会社・小会社)に応じて、類似業種比準方式、純資産価額方式、配当還元方式などで評価します。
実務では、次のどこが株価を押し上げているかを分解することが重要です。
- 類似業種比準:配当・利益・簿価純資産(3要素)を同業上場会社の指標に比準して評価
- 純資産価額:資産・負債を相続税評価に洗い替えして純資産を算定
- 配当還元:年間配当を一定利率(10%)で割り戻す(同族株主以外などで適用)
また、類似業種比準で使う「業種目別株価等」は年次で公表されます。評価の前提が変わるため、対象年分の資料確認は必須です。
当法人(税理士法人 辻総合会計)では、30年以上にわたり中小企業・医療系法人の事業承継支援に携わってきましたが、「株価が高すぎて動けない」という相談は、決算対策だけでは解けないケースも少なくありません。まずは評価方式と上昇要因を正しく特定しましょう。
株価が高すぎる原因別:自社株評価を下げる5つの方法
ここからは「何に効く対策か」を明確にしつつ、代表的な5手段を整理します。結論として、自社株評価は「利益・配当・純資産・会社区分・株式設計」のどれを動かすかで打ち手が変わります。
方法1:役員退職金の支給で純資産と利益を圧縮する
オーナー経営者の退職(または勇退)に合わせて、税務上「適正額」の範囲で役員退職金を支給すると、法人の利益(損金算入)と純資産が減り、株価が下がる方向に働きます。退職金は原則、株主総会決議等で具体的に確定した事業年度に損金算入される取扱いです。
- 効く評価方式:類似業種比準(利益・純資産)、純資産価額(純資産)
- 向く会社:利益が出ており、内部留保が厚い会社
- 典型的な落とし穴:退職の実態・決議・根拠資料(功績倍率等)が弱いと否認リスク
方法2:利益を「平準化」して類似業種比準の利益要素を抑える
類似業種比準方式では、利益金額が株価に直結します。短期的に利益を落とすよりも、数期にわたって利益を平準化し、過度なブレをなくすことが実務的です。
- 例:人件費設計(採用・昇給計画)、設備投資の計画化、不要経費の否認に注意しつつ費用配分を最適化
- 効く評価方式:類似業種比準(利益)
- 注意点:節税目的の不自然な取引や、実態のない費用計上は厳禁(税務リスクが株価対策を上回ります)
方法3:配当方針を見直し、配当要素をコントロールする
類似業種比準には「配当金額」も入ります。特に、毎期高配当を続けている会社は、配当方針の見直しが評価に影響します(ただし、株主間の利害調整が不可欠です)。
- 効く評価方式:類似業種比準(配当)
- 向く会社:配当を定例的に出している会社
- 注意点:少数株主がいる場合は、配当減額が紛争の火種になりやすい
方法4:遊休資産・含み益資産を整理して純資産価額を下げる
純資産価額方式では、資産を相続税評価に洗い替えします。土地・有価証券など「含み益資産」が多いと、純資産が膨らみ株価が上がりやすくなります。遊休不動産の売却・借入金返済のバランス見直し、事業に不要な資産の整理が王道です。
- 効く評価方式:純資産価額(純資産)、類似業種比準(簿価純資産)
- 注意点:売却益が出ると法人税が増えることがあるため、「税金は増えるが株価は下がる」というトレードオフ評価が必要
- 実務ポイント:評価明細書の作成プロセスで、どの資産が株価を押し上げているかが可視化されます
方法5:株式設計(種類株式等)で評価の前提を変える
会社法上の種類株式(配当優先・議決権制限など)を活用し、「承継する株式の権利内容」を設計することで、相続・贈与時の評価に影響することがあります。これは高度な論点で、税務・法務の整合性が必須です。
- 効く評価方式:評価算定の前提(株式の内容)そのもの
- 向く会社:後継者へ議決権を集中させつつ、経済的価値の移転を段階化したいケース
- 注意点:定款変更・株主総会決議・既存株主の同意など、手続と説明責任が重い
対策の比較表(何に効くか・注意点)
| 対策 | 直接効く要素 | 効果が出やすい会社 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| 役員退職金 | 利益・純資産 | 高収益・内部留保型 | 適正額、退職の実態、決議・資料整備 |
| 利益の平準化 | 利益 | 類似業種比準適用会社 | 不自然な費用計上は否認リスク |
| 配当方針見直し | 配当 | 高配当の継続会社 | 少数株主との調整・紛争 |
| 資産整理 | 純資産 | 土地・金融資産が厚い会社 | 譲渡益課税、資金繰り |
| 種類株式等 | 株式の権利内容 | 承継設計が複雑な会社 | 税務・法務一体で設計が必要 |
類似業種比準を引き下げる具体策(配当・利益・純資産の3点セット)
類似業種比準 引き下げを狙うなら、3要素のうち「どれが突出しているか」を見ます。国税庁も、類似業種比準は配当・利益・簿価純資産の3つで比準する方式であると整理しています。
Step 1: 現状の3要素を分解する
評価明細書を用いて、配当・利益・簿価純資産のどれが株価に効いているかを数値で把握します。
Step 2: 一番効く要素にだけ手を付ける
- 利益が原因:利益平準化、退職金・投資計画の前倒し(適正範囲)
- 配当が原因:配当政策の再設計(株主説明をセット)
- 簿価純資産が原因:不要資産の整理、内部留保の使途計画
Step 3: 年分のデータ(業種目別株価等)を必ず確認する
類似業種比準価額計算上の業種目別株価等は年次で公表されます。対象年分(例:令和7年分)に基づく前提で試算しないと、対策の効果がズレます。
注意点とリスク:自社株の「節税」が失敗しやすいポイント
よくある失敗は次の3つです。
- 株価だけ下げて、会社の資金繰りが悪化する(退職金・資産整理の実行順が逆)
- 少数株主や親族間で説明不足となり、紛争化する(配当・種類株式の設計)
- 評価方式を誤認する(同族株主等か否か、会社規模区分により方式が異なる)
また、評価実務では「明細書が作れていない=論点整理ができていない」ことが多いです。まずは国税庁の評価明細書を使って現状の論点を棚卸しするのが近道です。
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進め方:株価対策(自社株評価を下げる)の手順とスケジュール
株価対策は、単発の決算対策ではなく「複数期の設計」が基本です。目安として、相続対策なら2〜3期、贈与対策でも少なくとも1期は事前準備を確保すると安全性が上がります(個別事情により異なります)。
Step 1: 現状株価を試算し、評価方式を確定する
株主区分・会社規模・特定会社判定の可能性を確認し、どの方式で評価されるかを確定します。
Step 2: 「効く要素」に対する打ち手を選ぶ
上記の5方法から、会社の体力と家族状況に合うものを選びます。特に退職金は損金算入時期・決議のタイミングを誤ると、狙った期に効果が出ません。
Step 3: 実行と証拠整備(議事録・契約書・算定根拠)
税務は「書面で説明できるか」が重要です。退職金なら功績倍率・同業比較、資産整理なら取引の合理性を整備します。
Step 4: 年分データで再試算し、追加施策の要否を判断する
類似業種比準の前提(業種目別株価等)を年分ベースで確認し、ズレがあれば微修正します。
よくある質問
Q: 自社株評価を下げると、必ず相続税が下がりますか?
A:
多くの場合、評価額が下がれば相続税・贈与税の課税価格も下がる方向に働きます。ただし、資産売却で法人税が増えるなどトレードオフがあり、「税金総額」と「資金繰り」を一体で検討する必要があります。評価方式(類似業種比準・純資産・配当還元)のどれが適用されるかで効果も変わります。Q: 類似業種比準を引き下げるなら、利益を落とすのが一番ですか?
A:
利益要素は強い影響を持ちますが、単年度で急落させるより「複数期で平準化」する方が実務上は安全です。配当・簿価純資産の要素も含めた3点セットで、どれが突出しているかを先に分解してください。Q: 役員退職金はいつ損金になりますか?
A:
原則として株主総会の決議等により退職金の額が具体的に確定した事業年度に損金算入されます(一定の場合に支払時損金もあり)。実行タイミングが株価対策の成否に直結します。まとめ
- 自社株の評価は、株主区分と会社規模により評価方式が変わる(類似業種比準・純資産・配当還元)
- 株価対策は「利益・配当・純資産・会社区分・株式設計」のどこを動かすかで打ち手が決まる
- 役員退職金、利益平準化、配当方針、資産整理、種類株式等が代表的な5手段
- 類似業種比準の前提データ(業種目別株価等)は年分で確認する
- まず評価明細書で現状を可視化し、目的の合理性と証拠整備まで含めて設計する
参照ソース
- 国税庁「No.4638 取引相場のない株式の評価」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4638.htm
- 国税庁「令和7年分の類似業種比準価額計算上の業種目及び業種目別株価等について」: https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hyoka/r07/2506/index.htm
- 国税庁「B2-1 取引相場のない株式(出資)の評価明細書」: https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hyoka/annai/1470-01.htm
- 国税庁「No.5208 役員の退職金の損金算入時期」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5208.htm
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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