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相続・事業承継コラム
作成日:2025.10.29
更新日:2026.01.02
辻 勝

執筆者:辻 勝

会長税理士

家族信託とは?認知症対策と相続対策を同時に実現|税理士が解説

9分で読めます
家族信託とは?認知症対策と相続対策を同時に実現|税理士が解説

家族信託とは、信託法にもとづき「財産の管理・処分の権限」を家族など信頼できる人へ移し、本人(受益者)のために運用してもらう仕組みです。最大の狙いは、認知症などで判断能力が低下したときに起きやすい資産凍結を避けつつ、相続発生後の財産承継まで一気通貫で設計することにあります。特に不動産オーナーや預金額が大きい方ほど、認知症対策と相続対策を同時に進める実務メリットが大きいといえます。

家族信託とは何か(仕組みを3者関係で理解)

家族信託は一般に「民事信託」と呼ばれる領域で、家族間で信託契約を結び、財産を管理する枠組みです。ポイントは、単なる「代理(委任)」ではなく、信託財産が受託者名義となりつつも、利益(給付)を受ける人=受益者のために運用される点です。

  • 委託者:財産を信託する人(多くは親)
  • 受託者:財産を管理・処分する人(多くは子)
  • 受益者:利益を受ける人(多くは親。場合により二次受益者を設定)

この3者関係を前提に、財産の「管理権限」を早めに移しておくことで、本人の判断能力が低下しても、受託者が契約に従って預金の支払いや不動産の賃貸管理、売却などを実行できます。これが資産凍結の回避につながります。

ここがポイント
家族信託は「介護契約の締結」「医療同意」「身上監護(生活面の意思決定)」の代理制度ではありません。財産管理に強い一方、本人の生活・身上に関する権限は別制度(任意後見など)との組み合わせが必要になることがあります。

認知症対策としての家族信託(何が止まり、何が動くのか)

認知症等で判断能力が不十分になると、金融機関の運用や不動産取引の実務では「本人意思の確認」が難しくなり、結果として資金移動や売却が止まりがちです。代表例は次のとおりです。

  • 介護費用のために預金を引き出したいが、窓口で手続きが進まない
  • 施設入所費用を捻出するための不動産売却が進まない
  • 賃貸不動産の修繕や建替え判断ができず、収益が悪化する

家族信託では、受託者が信託財産の管理者として契約・支払・処分を担えるため、本人の生活費・医療費・介護費の原資を確保しやすくなります。成年後見制度でも財産管理は可能ですが、運用の自由度やスピード感、家族の裁量範囲は設計により差が出ます。

相続対策としての家族信託(遺言との違い・二次相続までの設計)

家族信託は「相続税を直接下げる魔法の制度」ではありません。一方で、相続の局面で問題になりやすい「誰が管理し、どう分け、いつ渡すか」を前もって契約で決めやすい点が実務上の強みです。

家族信託と遺言の違い(機能面)

  • 遺言:死亡時点の承継先を定めるのが中心(一次承継)
  • 家族信託:存命中から管理体制を作り、死亡後の承継(一次)に加え、二次・三次まで見据えた承継条項を設計しやすい

例えば「配偶者が存命中は生活費として給付し、配偶者死亡後は子へ」というように、生活保障と承継をセットで考える場面で検討されます(ただし条項設計は民法・信託法・税務の整合が重要です)。

他制度との比較表(どれを選ぶべきか)

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観点家族信託成年後見(法定)任意後見遺言
発動タイミング契約後すぐ運用可(設計次第)判断能力低下後に申立て・選任判断能力低下後に監督人選任で発動死亡後
財産管理の柔軟性高い(契約で範囲設計)制約が多い(家庭裁判所の監督)中(契約内容次第)管理機能は限定的
不動産の売却等条項次第で実行しやすい実行は可能だが手続負担が増えやすい実行は可能(監督人関与)死亡後の処分に限定
主な目的認知症対策+承継設計本人保護・支援将来の代理分割指定・遺産整理

家族信託のメリット・デメリット(よくある誤解も整理)

メリット

  • 認知症などによる資産凍結リスクを下げ、資金繰りを維持しやすい
  • 財産管理の権限移転により、不動産の運営判断(修繕・売却等)が止まりにくい
  • 遺言よりも広い射程で、承継先・時期・条件を設計しやすい
  • 受託者が実務のハブとなり、相続発生後の手続負担を抑えやすい

デメリット(リスク)

  • 契約設計が難しく、条項不備があるとトラブル(権限逸脱、親族間紛争)になり得る
  • 信託財産の分別管理など受託者の事務負担が増える
  • 税務・登記・金融機関対応など実務が多く、費用も一定かかる
  • 「身上監護」は扱えないため、生活面の意思決定は別の備えが必要になる場合がある
ここがポイント
「家族信託を組めば相続税が下がる」という理解は危険です。課税関係は信託の設計(受益者の設定、受益権の帰属、対価性の有無など)で変わり得ます。贈与税・相続税の論点を含め、契約前に税務検討を行うことが重要です。

家族信託の費用はどれくらい?内訳と目安

家族信託の費用は、信託財産の種類(不動産の有無)、契約の複雑性、関与専門家の範囲で変わります。一般的には次のコストが発生します。

  • 契約書作成・設計の専門家報酬(司法書士・弁護士・税理士等)
  • 公正証書化する場合の公証人手数料(推奨されることが多い)
  • 不動産がある場合:信託登記の登録免許税、司法書士報酬
  • 金融機関対応(信託口口座等)の事務コスト

目安としては、シンプルな預金中心の設計より、不動産を含む信託の方が費用も手間も大きくなる傾向があります。当法人(税理士法人 辻総合会計)でも、初回相談で「信託の目的」と「財産の棚卸し」を行い、実現方法(家族信託・任意後見・遺言・生前贈与等)の組み合わせで最適解を比較するケースが多いです。

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家族信託の手続きの流れ(方法・手順)

ここでは代表的な「親(委託者・受益者)+子(受託者)」の基本形で、実務手順を整理します。

Step 1: 目的と対象財産を確定する

認知症対策が主なのか、承継設計が主なのかで条項が変わります。対象財産(不動産、預金、株式等)と、将来の支出(介護費、修繕費、生活費)を棚卸しします。

Step 2: 関係者(受託者・受益者・受益権の帰属)を設計する

受託者の権限範囲、受益者への給付方法(定額/実費精算など)、監督・牽制(受益者代理人、信託監督人の活用)を決めます。親族間紛争の芽がある場合は、この設計が肝になります。

Step 3: 信託契約書を作成し、公正証書化を検討する

契約条項は「何ができるか(権限)」「何をしてはいけないか(禁止)」「どう記録するか(会計・報告)」まで落とし込みます。公正証書化は必須ではありませんが、争い予防の観点で検討されます。

Step 4: 名義・管理体制を移行する(登記・口座など)

不動産がある場合は信託登記を行い、信託財産であることを公示します。預金は信託専用の管理口(分別管理)を運用し、日々の入出金ルールを整備します。

Step 5: 運用開始後のモニタリング(記帳・報告・見直し)

信託は「作って終わり」ではありません。受託者の支出記録、受益者への報告、家族への説明、制度変更や家族状況の変化に応じた見直しが重要です。

家族信託が向いているケース・向かないケース

向いているケース

  • 賃貸不動産があり、修繕・売却判断を止めたくない
  • 親の預金が大きく、介護費の引出し・支払いを確実にしたい
  • 生活保障(配偶者)と承継(子)を両立する設計をしたい
  • 相続人間の関係性に不安があり、ルールを事前に明確化したい

向かないケース

  • 家族関係が極端に悪く、受託者に適任者がいない
  • 財産が少額で、費用対効果が合いにくい
  • 「身上監護」が中心課題で、財産管理より本人保護が主目的
  • 税務論点が複雑で、設計に十分な時間をかけられない

よくある質問

Q: 家族信託と成年後見はどちらが認知症対策に有効ですか? ▼

A:

財産管理の機動性を重視するなら家族信託が適する場面があります。一方、本人保護・監督を強めたい場合は成年後見が有効です。実務では、財産管理は家族信託、生活面の代理は任意後見など、課題に応じて組み合わせることが多いです。
Q: 家族信託をすると相続税は安くなりますか? ▼

A:

原則として「家族信託=節税」とは限りません。信託の設計によって贈与税・相続税の論点が生じ得ます。特に受益権の帰属や対価性の有無は重要で、税務の事前検討が不可欠です。
Q: 家族信託の費用は誰が負担しますか? ▼

A:

一般には委託者(親)が負担するケースが多いですが、家族の合意で決められます。信託財産から一定の費用を支出できるように条項設計することもあります。公平性の観点から、相続人への説明と同意形成が重要です。
Q: 受託者(子)が勝手に使ってしまう心配はありませんか? ▼

A:

リスクはゼロではありません。だからこそ、権限範囲の明確化、支出ルール、定期報告、第三者牽制(信託監督人等)の設計が重要です。親族間の信頼関係とガバナンス設計はセットで考える必要があります。

まとめ

  • 家族信託とは、信託法にもとづき財産管理を家族へ託す仕組みで、認知症による資産凍結を回避しやすい
  • 目的は「財産管理の継続」と「承継設計」であり、相続税が自動的に下がる制度ではない
  • 成年後見・任意後見・遺言と比較し、課題に応じて最適な組み合わせを選ぶことが重要
  • 費用は設計と財産内容で変動し、不動産がある場合は登記等の追加コストが生じやすい
  • 成功の鍵は、受託者の適任性と、条項設計・記録・牽制を含むガバナンス設計にある

参照ソース

  • e-Gov法令検索「信託法」: https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=418AC0000000108
  • 法務省「成年後見制度・成年後見登記制度」: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji95.html
  • 国税庁「No.4427 新たに信託の設定等を行った場合」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4427.htm

この記事を書いた人

辻 勝

辻 勝

会長税理士

税理士 / 行政書士

税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。

ご注意事項

本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。

記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。

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