
執筆者:辻 勝
会長税理士
民事信託 商事信託の違い|税理士が解説

民事信託(家族信託)と商事信託(銀行信託)の違いは、「誰が受託者として運用するか」と「提供される管理体制・商品性」です。家族が受託者となり柔軟に設計するのが民事信託、信託銀行等の事業者が受託し業として提供するのが商事信託です。高齢期の財産管理や承継を重視するのか、専門的な運用・管理の外部委託を重視するのかで、最適解は変わります。
信託の種類比較|民事信託と商事信託とは
信託は、委託者が財産を受託者に託し、受益者の利益のために管理・処分する仕組みです。実務では、同じ「信託」でも運用主体の違いから、大きく民事信託と商事信託に分けて考えると理解が早くなります。
民事信託(家族信託)とは
民事信託は、親族など信頼できる個人が受託者となり、主に認知症対策・相続対策として財産管理を行う形です。契約設計の自由度が比較的高く、不動産の管理・売却や生活費・介護費の支払いのルールを事前に決められます。
商事信託(銀行信託)とは
商事信託は、信託銀行などの金融機関が受託者として信託を引き受け、業として提供するものです。専門的な管理体制や内部統制、商品ライン(遺言代用信託等)を活用できる一方、基本的に「提供メニューの範囲」での設計になり、個別カスタムには制約が出やすい傾向があります。信託業は信託業法等の枠組みに基づき監督されます。
民事信託 商事信託 違いを比較|家族信託と銀行信託
「違い」を最短で掴むには、目的・体制・コスト・柔軟性・リスク管理の5点で並べるのが実務的です。
| 比較項目 | 民事信託(家族信託) | 商事信託(銀行信託) |
|---|---|---|
| 受託者 | 親族・信頼できる個人等 | 信託銀行等の事業者 |
| 主な目的 | 認知症対策、承継、家計支出管理 | 管理の外部委託、商品型の承継、運用 |
| 設計の柔軟性 | 高い(条項設計で調整) | 中〜低(商品・規程に依存) |
| コスト | 初期(公正証書、専門家)+運用事務 | 手数料体系が明確、継続費用が発生しやすい |
| ガバナンス | 監督人・受益者チェックを設計 | 事業者の管理体制・規程に依存 |
| 相性の良い財産 | 自宅・賃貸不動産、預金の管理 | 多様(商品による)、運用商品との連携 |
重要なのは「どちらが優れているか」ではなく、自分の課題に合うかです。認知症で口座凍結や不動産売却が止まる懸念が中心なら民事信託が候補になりやすく、受託者になれる家族がいない・管理を外部化したいなら商事信託の検討価値が上がります。
家族信託と銀行信託の使い分け|向くケース・向かないケース
家族信託(民事信託)が向くケース
- 賃貸不動産があり、将来の修繕・入替・売却まで一体で任せたい
- 相続人間で方向性が概ね一致しており、家族が事務を担える
- 後見制度よりも柔軟に資産を動かしたい(売却・建替・資金移動など)
一方で、受託者が税務・会計・実務に不慣れだと、管理不全や親族トラブルにつながりやすい点が弱点です。
銀行信託(商事信託)が向くケース
- 親族が遠方、あるいは受託者を担える人がいない
- 管理の中立性・継続性を重視したい(相続人間の利害が強い等)
- 商品型(遺言代用信託等)でシンプルに承継を設計したい
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信託を選ぶ手順|失敗しない検討ステップ
比較検討型の相談では、最初に「財産の棚卸し」と「止めたくない行為」を明確にするのが定石です。
Step 1: 目的を1文で定義する
例:認知症に備えて、賃貸不動産の管理・売却と生活費支出を止めない。
Step 2: 対象財産と止まると困る行為を列挙する
預金(引出・振込)、不動産(賃料管理・修繕・売却)、有価証券(売買・配当受領)など。
Step 3: 受託者候補の適格性を確認する
家族が受託者になる場合、事務能力・時間・他相続人との関係が核心です。難しければ商事信託や別の仕組み(後見、任意後見、遺言等)も同時に比較します。
Step 4: 税務と名義・口座運用を設計する
信託は課税関係が複雑になりがちです。特に受益者課税の原則や、信託口口座の運用実務は、契約設計とセットで確認が必要です。
Step 5: 監督・チェック機能を入れて運用ルールを固定する
民事信託では、信託監督人・受益者への定期報告、重要行為の同意条項などでガバナンスを組みます。
よくある質問
Q: 民事信託(家族信託)にすると、税金が安くなりますか?
Q: 銀行信託なら、家族が何もしなくて良いですか?
Q: 民事信託と遺言はどちらが優先ですか?
まとめ
- 民事信託は家族が受託者となり、認知症対策や不動産管理などを柔軟に設計しやすい
- 商事信託は信託銀行等が受託し、外部委託による継続性・統制を重視できる
- 使い分けの核心は「目的」「受託者を担える人の有無」「管理の外部化ニーズ」
- 検討は、財産棚卸し→止めたくない行為→受託者適格性→税務・口座→ガバナンスの順が安全
- 個別事情で最適解が変わるため、契約前に法律・税務・金融実務を横断して確認する
参照ソース
- 金融庁「信託(信託業関連)」: https://www.fsa.go.jp/policy/shintaku/index.html
- 法務省「法制審議会 - 信託法部会」: https://www.moj.go.jp/shingi1/shingikai_shintaku.html
- 国税庁「信託税制」: https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/denshi-sonota/shintaku/main.htm
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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