
執筆者:辻 勝
会長税理士
暦年贈与のやり方|110万円非課税を正しく活用|税理士が解説

暦年贈与とは、1月1日〜12月31日の1年間に受けた贈与の合計から基礎控除110万円を差し引き、贈与税を計算する方法です。つまり、設計と証拠づくりを適切に行えば、毎年110万円まで贈与税がかからない形で資産移転を進められます。
一方で現場では、「振込はしたのに名義預金扱いになりそう」「毎年同額で“定期贈与”と言われないか」「2024年以降のルール変更で意味が薄れたのか」が、資産家・開業医のご家庭でよくある悩みです。税理士法人 辻総合会計でも、相続・贈与のご相談を年間50件前後お受けしており、争点は“やり方”よりも証拠と設計に集中します。
暦年贈与とは|110万円非課税の仕組みを確認
暦年課税では、受贈者(もらう人)ごとに、その年の贈与の合計額から基礎控除110万円を差し引き、残額に税率をかけて贈与税を計算します。重要なのは「110万円“まで”なら自動的に安全」というより、次の2点を満たすことです。
- 年単位(1/1〜12/31)で集計される
- “贈与が成立していた”ことを説明できる(契約・振込・管理)
暦年贈与のやり方|手続きの基本フロー(暦年贈与 手続き)
ここでは「毎年110万円を子へ移す」典型例で、実務フローを整理します。ポイントは、毎年“その年の贈与”として完結させることです。
Step 1: 目的・相手・金額を決める(年内完結の設計)
- 贈与者:父母など(複数でも可)
- 受贈者:子・孫など(受贈者ごとに110万円の枠)
- 金額:年110万円以下に抑えるか、課税も織り込むか
- 実行時期:年末は混み合うため、年内に余裕をもって
Step 2: 贈与契約書を作る(“毎年”作る)
- 作成日、贈与者・受贈者、贈与財産(現金)、金額、贈与日、振込口座を明記
- 署名・押印(電子でも可だが、改ざん防止措置を)
ここで定期贈与(最初に10年分を約束)と誤解されないよう、「当年分のみ」の契約にします。
Step 3: 銀行振込で実行し、通帳・明細を保存する
- 現金手渡しは説明が難しくなるため避けるのが無難です
- 振込名義・日付・金額が客観証拠になります
Step 4: 受贈者が管理できる状態にする(名義預金対策)
- 通帳・印鑑・キャッシュカードを受贈者が保管
- ネットバンクの場合は、ログイン情報を受贈者が管理
- 受贈者の意思で引き出し・運用できる実態を作る
Step 5: 申告要否を確認し、必要なら期限内に申告・納税する
贈与税の申告・納税は原則として「贈与を受けた年の翌年2月1日〜3月15日」です。110万円以下で通常は申告不要ですが、特例を使う場合などは例外があるため、年明けに必ずチェックします。
110万円贈与を“否認されない”ための証拠(暦年贈与 証拠)
暦年贈与で否認リスクが出るのは、税率そのものよりも「贈与が成立していない(または贈与者の支配が残っている)」と見られるケースです。次の3点セットで、説明力が大きく上がります。
- 贈与契約書(毎年作成、当年分のみ)
- 銀行振込の記録(入出金明細、振込依頼書控え)
- 受贈者管理の実態(通帳・印鑑の保管、運用・支出の履歴)
よくある“危ない例”は次のとおりです。
- 親が子名義口座を作り、通帳も印鑑も親が保管している(名義預金リスク)
- 毎年同じ日に同額が機械的に入金され、契約書がない(連年・定期贈与の疑い)
- 受贈者が贈与を認識しておらず、贈与契約の合意が説明できない
2024年以降の改正ポイント|暦年贈与の注意点が増えた
近年の改正で、暦年贈与の設計は「110万円を配るだけ」から一段上の検討が必要になっています。特に影響が大きいのは次の2点です。
相続開始前の加算対象期間が「最長7年」に
暦年課税による贈与で、相続開始前の一定期間の贈与が相続税の課税価格に加算されるルールがあります。令和6年(2024年)1月1日以後の贈与から、加算対象期間が相続開始前7年以内に見直されています。
結論として、相続直前期の暦年贈与は「贈与税がかからなくても、相続税側で影響する」可能性があるため、開始時期を早める・目的を分散するなどの設計が重要です。
相続時精算課税にも年110万円の基礎控除が創設
相続時精算課税は、贈与時に一定の計算をし、相続時に持ち戻して相続税で精算する制度です。改正により、相続時精算課税にも年110万円の基礎控除が設けられ、少額贈与を使いやすくなりました。
ただし、相続時精算課税は一度選択すると原則として暦年課税へ戻れないため、「誰から誰へ」「資産の種類」「将来の相続税率」まで含めた比較が欠かせません。
| 項目 | 暦年課税(暦年贈与) | 相続時精算課税 |
|---|---|---|
| 非課税枠 | 年110万円(受贈者ごと) | 年110万円(特定贈与者ごと) |
| 使い方の基本 | 毎年コツコツ移転 | 将来相続で精算する前提 |
| 相続への影響 | 相続前の加算ルールに注意 | 原則、贈与分を相続で合算 |
| 注意点 | 定期贈与・名義預金の否認 | 選択後に戻れない、申告要件 |
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よくある失敗パターンと対策|暦年贈与を“安全運用”する
最後に、実務で頻出する論点を短く整理します。
- 「毎年110万円×10年」を最初に約束している
- 対策:契約は毎年作成し、当年分のみ。振込も年ごとに意思決定が見える形にする。
- 受贈者口座の実態が親管理
- 対策:通帳・印鑑・カード・PWは受贈者管理。受贈者が資金を使った/運用した履歴を残す。
- 贈与の趣旨が曖昧で、家計費と混ざる
- 対策:贈与は贈与、生活費負担は生活費負担で分け、メモや契約書で整理する。
- 年内の入金が間に合わず、翌年扱いになる
- 対策:12月は避け、年内の早い時期に実行。振込日基準で管理する。
よくある質問
Q: 暦年贈与は、110万円以下なら必ず申告不要ですか?
A:
原則として贈与税の課税価格が基礎控除110万円以下なら税額は出ませんが、相続時精算課税の選択など、制度利用により申告が必要なケースがあります。毎年「税額が出るか」だけでなく「申告が要るか」を確認してください。Q: 夫婦で子に110万円ずつ贈与すれば、合計220万円まで非課税ですか?
A:
贈与税は受贈者ごとに「その年にもらった贈与の合計」で判定します。父110万円+母110万円=合計220万円を子が受け取ると、基礎控除110万円を超えるため、贈与税が発生する可能性があります(特例税率/一般税率の適用関係も要確認)。Q: 贈与の“証拠”は最低限何を残せばよいですか?
A:
最低限は、(1)贈与契約書(当年分のみ)、(2)銀行振込の記録、(3)受贈者が管理している実態の3点です。特に名義預金と見られない管理体制が重要です。Q: 2024年以降、暦年贈与はやる意味が薄れましたか?
A:
相続直前期の効果が弱くなる局面はありますが、「早期から計画的に行う」「目的・相手・制度を組み合わせる」ことで有効性は十分あります。加算対象期間の見直しを前提に、開始時期と制度選択(暦年/精算)を設計し直すことがポイントです。まとめ
- 暦年贈与は、1年(1/1〜12/31)単位で合計し、基礎控除110万円を差し引いて贈与税を計算する
- 成否を分けるのは税率よりも、贈与契約・振込・受贈者管理という証拠の三点セット
- 申告・納税期限は原則として翌年2月1日〜3月15日。例外的に申告が必要な制度もある
- 2024年以降は相続前の加算対象期間が見直され、直前期の暦年贈与は設計の重要性が増した
- 相続時精算課税の110万円控除も含め、家族構成・資産内容に応じた最適化が必要
参照ソース
- 国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4408.htm
- 国税庁「No.4429 贈与税の申告と納税」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4429.htm
- 国税庁「No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4161.htm
- 国税庁「令和5年度 相続税及び贈与税の税制改正のあらまし(PDF)」: https://www.nta.go.jp/publication/pamph/pdf/0023006-004.pdf
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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