
執筆者:辻 勝
会長税理士
共有名義相続の不動産トラブルと解消法|税理士が解説

共有名義相続とは?トラブルになりやすい理由
共有名義相続とは、相続した不動産の所有者が「1人」ではなく「複数人」になる状態です。登記簿上は持分(例:2分の1、4分の1など)で権利が分かれ、各共有者がその割合に応じた権利を持ちます。
問題は、共有不動産は意思決定が「単独で完結しにくい」点にあります。たとえば売却、賃貸、建替えや大規模修繕など、金額が大きく影響が広い行為ほど、共有者間の合意が必要になり、合意形成が止まると資産が「動かせない不動産」になってしまいます。
税理士法人 辻総合会計でも、相続後に「ひとまず共有」で落ち着かせた結果、数年後に売却や建替えの局面で合意が取れず、かえってコストと時間が膨らむケースを頻繁に見ます。共有は短期の暫定措置としては有効ですが、放置すると長期的なリスクになります。
不動産共有トラブルの典型事例
共有で揉めるポイントは、法律論よりも「感情・負担・情報格差」で起きやすいのが実情です。代表的なトラブルを5つ挙げます。
事例1:売却したい人と残したい人で対立
空き家になった実家を「売って現金化したい」一方で、「思い出があるので残したい」「将来自分が住むかもしれない」という意見が衝突します。結論が出ないまま固定資産税や修繕だけが積み上がります。
事例2:管理費・修繕費の負担で不公平感
持分割合どおりに負担するのが原則でも、実際は代表者が立替え、回収できず関係が悪化することがあります。「使っていないのに払うのは納得できない」も典型です。
事例3:賃貸の可否で合意が止まる
空き家を賃貸に出すと収入が生まれる一方、入居者対応や修繕責任が発生します。「面倒は見たくないが利益は欲しい」というズレが摩擦を生みます。
事例4:共有者の一部が連絡不通・所在不明
共有者が転居、海外在住、疎遠などで連絡が取れないと、合意が必要な手続が進まず、事実上凍結資産になります。さらに相続が繰り返されると共有者が増え、難易度が上がります。
事例5:共有持分が第三者に移り、交渉が複雑化
共有者の一人が資金化のために持分を第三者へ売却することがあります。第三者が入ると、感情面の調整が難しくなり、交渉が硬直化しやすくなります。
共有名義を解消する方法|選択肢と向き不向き
共有解消には複数のルートがあり、家族関係・資金力・不動産の使い方で最適解が変わります。ここでは実務で使われる手段を整理します。
方法1:協議で整理する(現物分割・換価分割・代償分割)
遺産分割や共有者間協議で合意できるなら、最もコストが低く、関係も維持しやすい方法です。
- 現物分割:土地を分筆して単独所有にする(形状・接道・評価の問題が出やすい)
- 換価分割:売却して現金を分ける(全員が売却に同意できるなら明快)
- 代償分割:誰かが不動産を単独取得し、他の共有者へ代償金を支払う(資金手当てが鍵)
方法2:共有者間で持分を買い取る(持分集約)
「住み続けたい人」や「賃貸運用したい人」が、他の共有者の持分を買い取って単独所有を目指す方法です。金融機関のローン可否、評価方法(時価・路線価等)、支払条件で揉めやすいので、評価根拠を揃えて交渉するのが定石です。
方法3:共有持分を第三者へ売却する
共有者間でまとまらない場合の出口として、持分売却があります。ただし価格は一般にディスカウントされやすく、相手が買取業者になることも多いです。持分売却は一気に状況を動かせますが、家族間関係を悪化させることもあります。
方法4:裁判手続で分ける(共有物分割の手続)
協議が整わない場合、裁判手続で決着を図るルートがあります。典型的には「現物分割」「代償分割」「換価(競売等)」のいずれかに整理されます。時間と費用は増えますが、合意形成が不可能な場合の最終手段です。
方法5:所在等不明共有者がいる場合は「持分取得」の制度を使う
共有者の一部が不明で合意形成が止まる場合、一定の要件の下で、裁判所が所在等不明共有者の持分を他の共有者に取得させる手続があります。詳細は次章で解説します。
方法別の比較表(目安)
| 方法 | 進めやすさ | 費用感 | 時間感 | 向いているケース | 主な注意点 |
|---|---|---|---|---|---|
| 協議(現物・換価・代償) | 高 | 低〜中 | 短 | 家族関係が保たれている | 合意形成・評価の根拠 |
| 共有者間の買取(持分集約) | 中 | 中 | 中 | 取得希望者が明確 | 資金調達・価格交渉 |
| 持分の第三者売却 | 中 | 中 | 中 | 早期資金化が必要 | 価格ディスカウント・関係悪化 |
| 裁判手続(共有物分割) | 低 | 高 | 長 | 合意が期待できない | コスト増・結果が読みにくい |
| 所在等不明共有者の持分取得 | 中 | 中〜高 | 中 | 連絡不能者がいて停滞 | 要件・供託等の負担 |
所在等不明共有者がいる場合|「持分取得」制度のポイント
共有者の一部が「誰か分からない/所在が分からない」場合、共有者の請求により、裁判所が所在等不明共有者の持分を請求者に取得させる裁判をする手続があります(大阪地裁のQ&Aでは、民法262条の2に基づく制度として説明されています)。
重要なのは、相続が絡む場合の制限です。Q&Aでは、対象となる所在等不明共有者の持分が相続財産に属するケースでは、相続開始から10年を経過していないと原則として利用できない旨が示され、例外として「単独相続」や「既に遺産分割協議が成立している」場合などが挙げられています。
また、費用面の目安も公開されています。申立手数料は「対象となる共有持分1個につき1,000円」、郵便切手「6,150円」、官報公告費用として予納金が「最低7,134円」などが例示されています。さらに、時価相当額を基礎に裁判所が定める供託金の負担も必要になります。
制度を使うべきかの判断軸
- 共有者が多く、1人でも不明者がいるため協議が永久に進まない
- 不動産を売却・活用したいが、全員同意が取れない
- 不明共有者の調査(戸籍・住民票・附票等)を尽くしても特定できない
この制度は「凍結」を解除する強力な手段ですが、調査・書類準備・供託など実務負担が大きいため、弁護士・司法書士と役割分担しながら進めるのが現実的です。
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解消までの進め方|失敗しないステップ
共有解消は、感情と手続が絡むプロジェクトです。順番を誤ると、余計に対立が深まります。以下の流れが実務的です。
Step 1: 共有状況を見える化する
登記簿で名義・持分、固定資産税評価、利用状況(居住・賃貸・空き家)を整理します。相続が未登記なら、まず登記方針を決めます。
Step 2: ゴールを先に決める(単独所有/売却/賃貸)
「誰が取得したいのか」「売却して分けるのか」を明確化します。ここが曖昧だと交渉が迷走します。
Step 3: 協議での解決を最優先する(代償分割・持分集約)
合意形成が可能なら、代償分割や共有者間買取で単独所有へ寄せます。価格は不動産会社の査定や鑑定等、根拠を揃えると揉めにくくなります。
Step 4: 連絡不能者がいる場合は制度を検討する
所在等不明共有者が原因で止まっているなら、持分取得制度など法的な手当てを検討します。
Step 5: それでもダメなら最終手段へ(裁判手続)
協議が成立しない場合、裁判手続で分割を図ることになります。結果が読みにくい分、早期に専門家へ相談し、見通しとコストを比較して決断します。
相続登記を先送りしない(2024年4月から義務化)
共有トラブルの温床の一つが「相続登記の未了」です。法務省は、相続(遺言を含む)で不動産を取得した相続人に対し、取得を知った日から3年以内の相続登記申請義務と、正当な理由なく怠った場合の10万円以下の過料を案内しています。施行日前の相続分も対象になり、未登記の場合は原則として令和9年3月31日までに対応が必要とされています。
共有の解消を議論する以前に名義が止まっていると、話が進みません。まずは相続登記の申請義務の期限を意識し、最低限の名義整理から着手してください。
よくある質問
Q: 共有者の一人が反対すると、不動産は絶対に売れませんか?
Q: 共有持分だけ売却すると税金や特例はどうなりますか?
Q: 共有者が所在不明のときは、どう進めればよいですか?
まとめ
- 共有名義相続は、意思決定が止まりやすく、放置すると資産が凍結しやすい
- トラブルは「売る・残す」「費用負担」「連絡不通」「第三者介入」で顕在化しやすい
- 解消策は、協議(換価・代償)→持分集約→制度活用→裁判手続の順に検討する
- 所在等不明共有者がいる場合、持分取得制度などで停滞を解除できる可能性がある
- 相続登記は義務化されており、期限管理と名義整理が共有解消の前提になる
参照ソース
- 法務省「相続登記の申請義務化について」: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00599.html
- 裁判所(大阪地方裁判所)「所在等不明共有者の持分の取得の裁判の申立てについてのQ&A」: https://www.courts.go.jp/osaka/vc-files/osaka/2024nendo/4min/5-8_QandA_R6.pdf
- 国税庁 タックスアンサー「No.3308 共有のマイホームを売ったとき」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3308.htm
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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