
執筆者:辻 勝
会長税理士
共有名義不動産相続のトラブル回避ポイント|税理士が解説

共有名義の不動産相続でトラブルを避ける要点は、「共有を作らない分割設計」と、やむを得ず共有になった場合の「早期の協議・登記・出口戦略」をセットで用意することです。
誰にとって何が問題かというと、相続人が複数いるご家庭ほど「売る・貸す・直す」の意思決定が止まり、空き家化や費用負担の不公平が生じやすい点が課題です。
当法人(税理士法人 辻総合会計)でも、相続後に共有状態が長期化し、次の相続(数次相続)で権利者が増えて手に負えなくなるご相談が繰り返しあります。結論としては、相続発生直後の初動が、その後10年分の揉め事コストを左右します。
共有名義の不動産相続とは
共有名義の不動産相続とは、相続人が複数いるときに、不動産の所有権を持分割合で分けて登記する状態を指します。
遺産分割が終わっていない期間は、原則として相続人全員で遺産を共有する形になりやすく、放置すると「共有のまま固定化」します。法務省も、遺産分割を早期に進める必要性や、相続登記の重要性を案内しています。
共有は「公平に見える」一方で、運用フェーズの意思決定が止まりやすい点が実務上の落とし穴です。特に実家・賃貸用不動産・遊休地は、維持費だけが出ていき、価値が毀損しやすくなります。
共有名義で起こりやすいトラブル
共有名義で起きるトラブルは、感情面よりも「手続・意思決定・お金」の摩擦で発生します。代表例は次のとおりです。
- 売却したい人と住み続けたい人が対立し、結論が出ない
- 賃貸に出すか、リフォームするか、修繕費を誰が負担するかで揉める
- 固定資産税・保険料・修繕費の立替が常態化し、精算が曖昧になる
- 共有者の一人が亡くなり、次世代へ持分が移って権利者が増える(数次相続)
- 共有者の連絡が取れず、実務が止まる(所在不明・疎遠)
ここで重要なのが、「不動産は分割しにくい資産」だという前提です。現金のように割り算で終わらず、住む人・管理する人・資金を出す人の役割が絡みます。
そのため、遺産分割の段階で「共有を前提にしない」設計が、最も費用対効果の高い予防策になります。
共有名義を避ける分割方法と違い
共有を避ける分割方法は、主に「現物分割」「代償分割」「換価分割」の3類型です。どれが正解というより、家族関係・資金力・物件の性質で適解が変わります。
| 分割方法 | 概要 | 向いているケース | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| 現物分割 | 土地を分筆、建物は誰かが単独取得など、物理的に分ける | 土地が広く分筆できる/複数物件がある | 分筆費用・評価差、利用価値の低下 |
| 代償分割 | 1人が不動産を取得し、他の相続人へ代償金を支払う | 住み続ける相続人がいる/賃貸経営を継続したい | 代償金の資金手当、金融機関対応 |
| 換価分割 | 売却して現金化し、現金を分ける | 空き家・利用予定がない/相続人間の公平を重視 | 売却時期・価格、譲渡所得課税の確認 |
| 共有継続 | 共有のまま保有し、後日協議する | どうしても結論が出ないときの暫定措置 | 後で高確率で揉める、数次相続で複雑化 |
実務上は「代償分割」か「換価分割」で共有回避するケースが多い印象です。共有継続は一見スムーズですが、出口設計がないと将来の衝突を先送りするだけになります。
共有になってしまった場合の解消手順
共有を解消するには、「合意形成」→「書面化」→「登記・実行」の順で進めると、手戻りが減ります。特に感情のこじれが起きる前の初期段階で、論点を整理することが重要です。
Step 1: 共有の現状を棚卸しする(名義・持分・利用状況)
登記事項証明書で名義と持分を確認し、実際に誰が住んでいるか、賃料収入はあるか、維持費の支払い実態はどうかを整理します。
この段階で「話し合うための共通の事実」を作ることが、協議の土台になります。
Step 2: 出口案を複数提示する(売却・単独取得・賃貸化など)
出口案は1つに絞らず、最低でも2案以上用意します。
例えば「A案:売却して換価分割」「B案:長男が単独取得し代償金支払い」「C案:一定期間賃貸し、収益で代償金を積み立て」など、現実的な選択肢に落とし込みます。
Step 3: 金額の根拠を揃える(評価・費用・税金)
不動産会社の査定、必要に応じて鑑定、修繕見積、固定資産税の明細、ローン残高などを集めます。
ここを曖昧にすると「不公平感」で揉めやすくなるため、第三者資料で補強します。
Step 4: 合意が難しい場合は手続ルートを切り替える
相続人間で話合いがつかない場合、家庭裁判所の遺産分割調停・審判を利用できます。裁判所は手続の概要を案内しており、調停不成立の場合に審判へ移行する流れも示されています。
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税務・コスト面で見落としやすい注意点
共有不動産は、合意形成だけでなく「税務」の落とし穴もあります。特に共有解消の方法によっては、譲渡所得の課税関係が生じ得ます。国税庁の質疑応答事例でも、共有物の分割の内容次第で交換として課税関係が生じる可能性が示されています。
また、遺産分割の設計により、相続税の負担感や納税資金の手当ても変わります。代償分割を選ぶなら、代償金の支払原資(手元資金・借入・保険金・売却予定資産)まで含めて設計しないと、結局「売りたくないのに売る」事態になりがちです。
最後に、共有のまま賃貸する場合は、賃料の受取・経費負担・確定申告を誰がどの割合で行うかを明確にしてください。ここが曖昧だと、税務以前に家族間の不信感が蓄積します。
税理士・司法書士に相談すべきタイミング
共有名義の相続は、法務(登記)と税務(相続税・譲渡所得等)が交差します。分業は可能ですが、論点の見落としを避けるために役割分担を最初に決めることが重要です。
- 相続人が複数で、不動産の扱い(住む・貸す・売る)が割れている
- 代償分割を検討しており、資金手当や税負担の試算が必要
- 共有解消のための分割案が「交換」とみなされ得るか不安
- 既に共有になっており、維持費精算や賃料配分が混乱している
- 調停・審判も視野に入れ、手続全体を設計したい
当法人(税理士法人 辻総合会計)では、相続税の有無にかかわらず「不動産の出口設計」を含めて整理することで、家族会議が前に進むケースを多く見ています。個別事情で結論が変わるため、早い段階での論点整理が有効です。
よくある質問
Q: 共有名義のままだと、具体的に何が一番困りますか?
A:
実務上は「売る・貸す・修繕する」の意思決定が止まりやすい点が最大の問題です。時間が経つほど、次の相続で共有者が増え、合意形成コストが跳ね上がります。Q: 兄弟で意見が割れて遺産分割がまとまりません。どうすればよいですか?
A:
まずは査定・維持費・利用状況などの客観資料を揃え、複数の出口案を提示して合意点を探します。それでも話合いがつかない場合、家庭裁判所の遺産分割調停・審判の手続を利用することができます。Q: 共有を解消するために分け直すと、税金がかかることはありますか?
A:
はい、分割の内容によっては譲渡所得の課税関係が生じる可能性があります。国税庁の質疑応答事例でも、共有物の分割が交換に当たる場合に課税関係が生じ得る点が示されています。具体的なスキームは事前に税務確認してください。まとめ
- 共有名義の不動産相続は「公平に見えて運用で詰まる」ため、共有を作らない設計が最優先
- 回避策の基本は、現物分割・代償分割・換価分割のいずれかで単独名義に寄せること
- 共有になった場合は、現状棚卸し→出口案提示→根拠資料整備→手続ルート切替の順で進める
- 共有解消の分割内容次第では、譲渡所得など税務論点が発生し得るため事前検討が重要
- 個別事情で最適解は変わるため、登記と税務を早めに連携して設計する
参照ソース
- 法務省「不動産を相続した方へ ~相続登記・遺産分割を進めましょう~」: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00435.html
- 裁判所「遺産分割調停」: https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_12/index.html
- 国税庁「共有物の分割(質疑応答事例)」: https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/joto/03/04.htm
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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