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相続・事業承継コラム
作成日:2026.02.22
辻 勝

執筆者:辻 勝

会長税理士

事業承継計画書の作り方|中小企業を税理士が解説

9分で読めます
事業承継計画書の作り方|中小企業を税理士が解説

事業承継計画書とは、「いつ・誰に・何を・どう引き継ぐか」を、関係者(後継者・幹部・金融機関等)と共有できる形で言語化した実行計画です。中小企業の承継では「後継者はいるが準備が進まない」「株式や資金の手当てが後回しになる」ことが典型的なつまずきです。そこで本記事では、5年前から逆算して、計画書に入れるべき項目と作り方を、税理士法人 辻総合会計の実務目線で整理します。

事業承継計画書とは何か

事業承継は「社長交代」だけでなく、経営権(意思決定)、資産・株式(所有)、業務・信用(取引・人材)をセットで移すプロジェクトです。計画書は、その全体像を「見える化」し、5年程度のロードマップに落とし込むための道具になります。中小企業庁の「事業承継ガイドライン」も、事業承継支援のスタンダードとして活用できる実務的資料です。

計画書が必要になる3つの場面

  • 親族内・従業員承継で、後継者の覚悟と社内外の納得を固めたいとき
  • 株式・事業用資産の移転(相続・贈与・譲渡)と資金繰りを同時に設計したいとき
  • 金融機関・主要取引先に「承継後も事業継続できる」ことを説明したいとき
ここがポイント
計画書は法律で決まった様式があるわけではありません。ただし、融資・税制・支援制度の手続きでは、計画の有無や内容が実務上の前提になることが多く、「文章+年次の工程表」をセットで整えるのが現場では最も機能します。

事業承継計画書のテンプレートと基本構成

「テンプレートが欲しい」という場合は、日本政策金融公庫が公開している「事業承継計画書(Word)」が実務に直結します。項目は大きく、(1)承継の概要、(2)具体的な取組み、(3)必要資金、(支援機関の記載欄)で構成され、計画の骨格として使いやすい設計です。

基本構成(計画書に入れるべき要素)

  • 現経営者・後継者の情報、承継時期(目標)
  • 承継に向けた事業の方向性(磨き上げ・経営課題の解決)
  • 株式・財産の取扱い(相続/贈与/売却、自社株の集約、資産の整理)
  • 後継者教育(経験の蓄積、外部研修、権限移譲の手順)
  • 承継に必要な資金(納税資金、株式買取資金、設備投資、運転資金)
ここがポイント
日本政策金融公庫の「記入ポイント」では、「承継後に経営を円滑に開始できるように事業を磨き上げる」「株式・事業用資産の取扱い」「後継者教育」といった視点で記載することが示されています。テンプレを埋めるだけでも、抜け漏れの発見につながります。

5年前から準備すべき内容(中小企業向けチェック項目)

「何から手を付ければいいかわからない」場合、実務では「人(後継者・幹部)」「株式・資産」「経営(数字・商品・顧客)」の3領域に分解します。計画書の作成は、現状把握→課題抽出→打ち手→年次計画の順に進めるのが最短です。

1)人:後継者の確定と権限移譲

  • 後継者候補の意思確認(覚悟・家族事情・キャリア)
  • 役職付与、決裁権限、重要会議への参加(段階的に移す)
  • キーマン(経理・営業・製造等)の引継ぎ計画と離職リスク対策

2)株式・資産:自社株の集約と納税/資金の手当て

  • 株主構成の棚卸(先代以外の株主、分散状況)
  • 株価の見立て(評価が高いほど移転コストが増える)
  • 納税資金・買取資金の準備(生命保険、内部留保、金融支援の検討)
  • 事業用不動産・貸付金・遊休資産の整理(承継後の負担を軽くする)

3)経営:磨き上げと「見える化」

  • 収益構造の把握(商品別・顧客別・部門別の採算)
  • 経営課題の言語化(強みの再定義、改善テーマの優先順位)
  • 承継後3年の簡易計画(売上・粗利・人件費・借入返済の見通し)

事業承継の方法の違い(比較表)

承継方法によって、計画書で強調すべき論点が変わります。まずは選択肢を比較して、合意形成の材料にしてください。

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項目親族内承継従業員承継(社内)第三者承継(M&A)
強み価値観・文化の継承がしやすい現場理解が深く引継ぎが滑らか後継者不在でも実現可能
課題親族間の公平、株式集約株式買取資金、連帯保証の整理条件交渉、情報開示の負担
計画書の重点家族合意、株式移転設計資金調達、体制整備企業価値、統合計画

事業承継計画書の作り方(ステップ)

ここからは、実際に「書ける」手順に落とします。テンプレートを使う場合も、手順は同じです。

Step 1: 現状把握(棚卸)

株主構成、会社の資産負債、主要取引先、キーマン、借入・担保・保証、許認可、契約関係を一覧化します。まず「事実」を揃えることが重要です。

Step 2: 承継のゴール設定(いつ・誰に・何を)

承継時期(目標年)を置き、後継者(または承継先)の候補を確定します。同時に、経営権・株式/資産・業務/信用のどこから移すか順序を決めます。

Step 3: 課題を3領域に分解し、打ち手を決める

  • 人:後継者教育、幹部の役割、権限移譲
  • 株式・資産:株式集約、納税/買取資金、資産整理
  • 経営:収益改善、商品/顧客ポートフォリオ、管理体制

Step 4: 5年ロードマップに落とす(年次計画)

計画表は「やること・期限・担当」を書きます。いつかやるをなくすのが目的です。

Step 5: 関係者共有と更新(四半期~半年ごと)

後継者・幹部・金融機関と共有し、進捗に応じて修正します。事業承継は環境変化(人事・取引・業績)で前提が動くため、更新前提で運用します。

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5年ロードマップ例(計画表のイメージ)

以下は「親族内/従業員承継」を想定した一般例です。自社の状況に合わせて調整してください。

  • 5年前:株主・資産・契約の棚卸、後継者の意思確認、経営課題の抽出
  • 4年前:後継者の役職付与、決裁権限の一部移譲、月次管理の整備
  • 3年前:株式移転の方針確定(贈与/譲渡/相続)、資金計画(納税・買取)
  • 2年前:キーマン引継ぎ完了、主要取引先・金融機関への説明開始
  • 1年前:社長交代の最終調整、取締役会/株主総会等の手続、社内外周知

税理士実務のケーススタディ(匿名)

当法人で多いのは「後継者は決まっているのに、株式が親族に分散していて動けない」ケースです。計画書を作る過程で株主構成が可視化され、分散株式の集約と納税資金の手当てを年次計画に落とすことで、交代時期が現実的に見えるようになります。逆に言うと、計画書なしだと見えない問題が放置されがちです。

作成時の注意点(失敗パターン)

  • 後継者が「名前だけ」で、権限移譲が進んでいない
  • 株式・資産の論点を避け、経営計画だけを書いて終わる
  • 必要資金(納税・買取・運転)の見積りがない
  • 計画を共有せず、関係者の認識がズレたまま進む

法人版事業承継税制(特例措置)など税制を使う場合は、要件や報告等の実務が絡むため、計画書は「節税のための書類」ではなく「事業継続のための運用資料」として作るのが安全です。

よくある質問

Q: 事業承継計画書はいつから作るべきですか? ▼
実務上は「5年前」からの着手が最も多いです。理由は、後継者教育・権限移譲、株式移転、資金の手当てが同時進行になり、少なくとも数年単位の時間を要するためです。作り始めは簡易版で構いませんが、年次計画として運用・更新する前提で作成します。
Q: テンプレートはどれを使えばよいですか? ▼
まずは日本政策金融公庫の「事業承継計画書(Word)」が実務向きです。承継の概要、具体的な取組み、必要資金まで整理でき、金融機関説明にも流用しやすい構成です。記入ポイント(PDF)も合わせて確認すると、書くべき視点が明確になります。
Q: 後継者がいない場合も計画書は必要ですか? ▼
必要です。後継者不在の場合は、従業員承継や第三者承継(M&A)を含め、選択肢の検討と条件整理(譲渡価格の考え方、引継ぎ体制、契約・許認可)を前倒しで行うほど成功確率が上がります。計画書は「検討の前提」を揃える役割があります。

まとめ

  • 事業承継計画書は「いつ・誰に・何を・どう引き継ぐか」を可視化する実行計画
  • 5年前から「人・株式/資産・経営」の3領域で棚卸しし、年次計画に落とす
  • テンプレは日本政策金融公庫の様式を叩き台にすると実務が進む
  • 承継方法(親族/従業員/M&A)で重点論点が変わるため比較して合意形成する
  • 作って終わりではなく、共有・更新して運用するのが成否を分ける

参照ソース

  • 中小企業庁「事業承継ガイドライン(PDF)」: https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/shoukei_guideline.pdf
  • 中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」: https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu_zouyo_souzoku.html
  • 日本政策金融公庫「事業承継計画書(Word)」: https://www.jfc.go.jp/n/service/doc/jigyousyoukei_250303a.docx
  • 日本政策金融公庫「事業承継計画書 記入ポイント(PDF)」: https://www.jfc.go.jp/n/service/pdf/jigyousyoukei_point250303a.pdf

この記事を書いた人

辻 勝

辻 勝

会長税理士

税理士 / 行政書士

税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。

ご注意事項

本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。

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