
執筆者:辻 勝
会長税理士
事業承継計画書の作り方|中小企業を税理士が解説

事業承継計画書とは、「いつ・誰に・何を・どう引き継ぐか」を、関係者(後継者・幹部・金融機関等)と共有できる形で言語化した実行計画です。中小企業の承継では「後継者はいるが準備が進まない」「株式や資金の手当てが後回しになる」ことが典型的なつまずきです。そこで本記事では、5年前から逆算して、計画書に入れるべき項目と作り方を、税理士法人 辻総合会計の実務目線で整理します。
事業承継計画書とは何か
事業承継は「社長交代」だけでなく、経営権(意思決定)、資産・株式(所有)、業務・信用(取引・人材)をセットで移すプロジェクトです。計画書は、その全体像を「見える化」し、5年程度のロードマップに落とし込むための道具になります。中小企業庁の「事業承継ガイドライン」も、事業承継支援のスタンダードとして活用できる実務的資料です。
計画書が必要になる3つの場面
- 親族内・従業員承継で、後継者の覚悟と社内外の納得を固めたいとき
- 株式・事業用資産の移転(相続・贈与・譲渡)と資金繰りを同時に設計したいとき
- 金融機関・主要取引先に「承継後も事業継続できる」ことを説明したいとき
事業承継計画書のテンプレートと基本構成
「テンプレートが欲しい」という場合は、日本政策金融公庫が公開している「事業承継計画書(Word)」が実務に直結します。項目は大きく、(1)承継の概要、(2)具体的な取組み、(3)必要資金、(支援機関の記載欄)で構成され、計画の骨格として使いやすい設計です。
基本構成(計画書に入れるべき要素)
- 現経営者・後継者の情報、承継時期(目標)
- 承継に向けた事業の方向性(磨き上げ・経営課題の解決)
- 株式・財産の取扱い(相続/贈与/売却、自社株の集約、資産の整理)
- 後継者教育(経験の蓄積、外部研修、権限移譲の手順)
- 承継に必要な資金(納税資金、株式買取資金、設備投資、運転資金)
5年前から準備すべき内容(中小企業向けチェック項目)
「何から手を付ければいいかわからない」場合、実務では「人(後継者・幹部)」「株式・資産」「経営(数字・商品・顧客)」の3領域に分解します。計画書の作成は、現状把握→課題抽出→打ち手→年次計画の順に進めるのが最短です。
1)人:後継者の確定と権限移譲
- 後継者候補の意思確認(覚悟・家族事情・キャリア)
- 役職付与、決裁権限、重要会議への参加(段階的に移す)
- キーマン(経理・営業・製造等)の引継ぎ計画と離職リスク対策
2)株式・資産:自社株の集約と納税/資金の手当て
- 株主構成の棚卸(先代以外の株主、分散状況)
- 株価の見立て(評価が高いほど移転コストが増える)
- 納税資金・買取資金の準備(生命保険、内部留保、金融支援の検討)
- 事業用不動産・貸付金・遊休資産の整理(承継後の負担を軽くする)
3)経営:磨き上げと「見える化」
- 収益構造の把握(商品別・顧客別・部門別の採算)
- 経営課題の言語化(強みの再定義、改善テーマの優先順位)
- 承継後3年の簡易計画(売上・粗利・人件費・借入返済の見通し)
事業承継の方法の違い(比較表)
承継方法によって、計画書で強調すべき論点が変わります。まずは選択肢を比較して、合意形成の材料にしてください。
| 項目 | 親族内承継 | 従業員承継(社内) | 第三者承継(M&A) |
|---|---|---|---|
| 強み | 価値観・文化の継承がしやすい | 現場理解が深く引継ぎが滑らか | 後継者不在でも実現可能 |
| 課題 | 親族間の公平、株式集約 | 株式買取資金、連帯保証の整理 | 条件交渉、情報開示の負担 |
| 計画書の重点 | 家族合意、株式移転設計 | 資金調達、体制整備 | 企業価値、統合計画 |
事業承継計画書の作り方(ステップ)
ここからは、実際に「書ける」手順に落とします。テンプレートを使う場合も、手順は同じです。
Step 1: 現状把握(棚卸)
株主構成、会社の資産負債、主要取引先、キーマン、借入・担保・保証、許認可、契約関係を一覧化します。まず「事実」を揃えることが重要です。
Step 2: 承継のゴール設定(いつ・誰に・何を)
承継時期(目標年)を置き、後継者(または承継先)の候補を確定します。同時に、経営権・株式/資産・業務/信用のどこから移すか順序を決めます。
Step 3: 課題を3領域に分解し、打ち手を決める
- 人:後継者教育、幹部の役割、権限移譲
- 株式・資産:株式集約、納税/買取資金、資産整理
- 経営:収益改善、商品/顧客ポートフォリオ、管理体制
Step 4: 5年ロードマップに落とす(年次計画)
計画表は「やること・期限・担当」を書きます。いつかやるをなくすのが目的です。
Step 5: 関係者共有と更新(四半期~半年ごと)
後継者・幹部・金融機関と共有し、進捗に応じて修正します。事業承継は環境変化(人事・取引・業績)で前提が動くため、更新前提で運用します。
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5年ロードマップ例(計画表のイメージ)
以下は「親族内/従業員承継」を想定した一般例です。自社の状況に合わせて調整してください。
- 5年前:株主・資産・契約の棚卸、後継者の意思確認、経営課題の抽出
- 4年前:後継者の役職付与、決裁権限の一部移譲、月次管理の整備
- 3年前:株式移転の方針確定(贈与/譲渡/相続)、資金計画(納税・買取)
- 2年前:キーマン引継ぎ完了、主要取引先・金融機関への説明開始
- 1年前:社長交代の最終調整、取締役会/株主総会等の手続、社内外周知
税理士実務のケーススタディ(匿名)
当法人で多いのは「後継者は決まっているのに、株式が親族に分散していて動けない」ケースです。計画書を作る過程で株主構成が可視化され、分散株式の集約と納税資金の手当てを年次計画に落とすことで、交代時期が現実的に見えるようになります。逆に言うと、計画書なしだと見えない問題が放置されがちです。
作成時の注意点(失敗パターン)
- 後継者が「名前だけ」で、権限移譲が進んでいない
- 株式・資産の論点を避け、経営計画だけを書いて終わる
- 必要資金(納税・買取・運転)の見積りがない
- 計画を共有せず、関係者の認識がズレたまま進む
法人版事業承継税制(特例措置)など税制を使う場合は、要件や報告等の実務が絡むため、計画書は「節税のための書類」ではなく「事業継続のための運用資料」として作るのが安全です。
よくある質問
Q: 事業承継計画書はいつから作るべきですか?
Q: テンプレートはどれを使えばよいですか?
Q: 後継者がいない場合も計画書は必要ですか?
まとめ
- 事業承継計画書は「いつ・誰に・何を・どう引き継ぐか」を可視化する実行計画
- 5年前から「人・株式/資産・経営」の3領域で棚卸しし、年次計画に落とす
- テンプレは日本政策金融公庫の様式を叩き台にすると実務が進む
- 承継方法(親族/従業員/M&A)で重点論点が変わるため比較して合意形成する
- 作って終わりではなく、共有・更新して運用するのが成否を分ける
参照ソース
- 中小企業庁「事業承継ガイドライン(PDF)」: https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/shoukei_guideline.pdf
- 中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」: https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu_zouyo_souzoku.html
- 日本政策金融公庫「事業承継計画書(Word)」: https://www.jfc.go.jp/n/service/doc/jigyousyoukei_250303a.docx
- 日本政策金融公庫「事業承継計画書 記入ポイント(PDF)」: https://www.jfc.go.jp/n/service/pdf/jigyousyoukei_point250303a.pdf
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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