
執筆者:辻 勝
会長税理士
遺言書の種類と書き方|自筆・公正証書の違いを専門家が解説

導入:遺言書は「種類選び」で失敗が決まります
遺言書とは、亡くなった後の財産の分け方等を法的に指定する文書です。問題になりやすいのは「書いたのに無効」「見つからない」「相続手続が止まる」の3点で、特に自筆の方式不備が典型例です。結論として、確実性を重視するなら公正証書遺言、費用と手軽さを重視するなら自筆+保管制度の組合せが現実的です。
遺言書の種類は3つ(自筆・公正証書・秘密証書)
自筆証書遺言とは
自分で作成する遺言書です。原則として全文を自書し、日付・氏名・押印が必要です。方式不備で無効になりやすい反面、作成の自由度が高く費用も抑えやすいのが特徴です。
公正証書遺言とは
公証役場で公証人が関与して作成する遺言書です。原本は公証役場で保管され、紛失・改ざんリスクが低い一方、手数料が発生し、証人の立会い等の手続が必要です。
秘密証書遺言とは
内容を秘密にしたまま「遺言書であること」だけを公証役場で証明してもらう方式です。作成の実務では利用頻度が低く、相続開始後の手続も含めて専門家の関与が前提になりやすい類型です。
自筆証書遺言の書き方(方式要件と実務のコツ)
方式要件の基本:全文・日付・氏名・押印
自筆証書遺言は、方式要件を外すと無効になり得ます。最低限、次の4点は落とさない設計が必要です。
- 全文を自書する(例外として、財産目録は一定の要件で別紙可)
- 作成年月日を特定できる形で記載する
- 氏名を記載し、押印する
- 加除訂正をする場合は、所定の方式で行う(修正痕が争点になりやすい)
書き方の手順(自筆の基本フロー)
Step 1: 誰に何を渡すかを「財産単位」で決める
不動産、預貯金、有価証券などを棚卸しし、相続人ごとに配分方針を決めます。ここで曖昧にすると、金融機関や法務局の名義変更で止まりがちです。
Step 2: 財産目録を整備し、特定できる情報を揃える
不動産は所在地・地番・家屋番号、預貯金は金融機関名・支店・種別・口座番号まで特定します。実務では「通帳の写し」だけだと不足し、追加書類を求められやすい点に注意が必要です。
Step 3: 本文を自書し、日付・氏名・押印で締める
「○○を相続させる」「○○に遺贈する」など、法的効果がぶれない表現に寄せます。あわせて遺言執行者を置くと、相続手続が進みやすくなります。
Step 4: 保管方法を決める(自宅保管か、法務局保管か)
自宅保管は見つからない・改ざん疑義・破棄のリスクが残ります。自筆を選ぶなら、法務局での保管制度を前提に設計すると事故率を下げられます。
法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を使うべきケース
自筆の弱点は「発見されない」「検認で時間がかかる」「方式不備で争われる」です。保管制度を利用すると、遺言書の存在が確認されやすく、相続開始後の手続も円滑になりやすい設計になります。
公正証書遺言の作り方(流れ・証人・費用の考え方)
公正証書遺言の基本フロー
Step 1: 遺言内容を固め、公証役場へ相談する
財産の内容と配分、遺言執行者の要否、付言事項(家族へのメッセージ)まで整理します。
Step 2: 必要資料を揃える
本人確認資料、相続人の特定資料、財産を特定できる資料(不動産の登記事項、預貯金情報など)を揃えます。資料不足は作成日程の遅延要因になります。
Step 3: 公証人が案文を作成し、内容を確定する
「読み手が誤解しない文章」に調整されるため、争いにくい文面になりやすい点が強みです。
Step 4: 当日に公証役場(または出張)で作成・保管する
証人の立会いのもとで作成され、原本は公証役場で保管されます。結果として、紛失・改ざん疑義が相対的に低くなります。
公正証書遺言が向く人
- 相続人間の関係が難しく、争いを予防したい
- 不動産や金融資産が多く、特定情報が複雑
- 高齢・病気などで自書が負担
- 方式不備リスクを極小化したい
相続・事業承継の専門家にご相談ください
相続税申告、事業承継対策など、資産に関するお悩みをトータルでサポートします。
平日 9:15〜18:15(土日祝休業)
自筆・公正証書の違い(比較表)
| 比較項目 | 自筆(自宅保管) | 自筆(法務局保管) | 公正証書 |
|---|---|---|---|
| 作成の手間 | 低い | 中(予約・本人出頭等) | 中〜高(資料・証人等) |
| 無効リスク(方式) | 高め | 中(外形確認が期待) | 低め |
| 費用 | ほぼ不要 | 手数料あり | 手数料あり(財産額等で変動) |
| 保管・紛失 | 自己管理でリスクあり | 法務局で保管 | 公証役場で保管 |
| 家庭裁判所の検認 | 原則必要 | 不要 | 不要 |
| 相続手続の進みやすさ | ばらつき大 | 比較的スムーズ | 比較的スムーズ |
失敗しないための注意点(遺留分・書き方・税務の接続)
遺留分を無視すると「有効でも揉める」
遺言が有効でも、遺留分を侵害すると請求対応が必要になります。特定の相続人に偏った配分は、資金繰り(代償金の支払)を含めて設計しないと、相続後に実行不能になりがちです。
不動産がある場合は「特定情報」の精度が重要
登記事項のとおりに特定できないと、名義変更で追加書類や解釈が必要になり、実務コストが跳ね上がります。遺言書本文と財産目録の整合を必ず取ってください。
税務・金融実務との接続(税理士法人の現場感)
税理士法人 辻総合会計では、相続税申告だけでなく、遺産分割・名義変更の詰まりを含めた全体最適の相談が多くあります。実務上は「遺言書はあるが、金融機関の手続が進まない」「不動産の特定が曖昧」といった“書き方の問題”がボトルネックになりがちです。法務・税務・金融の三領域を一続きで設計する発想が重要です。
よくある質問
Q: 自筆証書遺言はパソコンで作れますか?
A:
本文の全文自書が原則のため、一般に本文の全面作成をパソコン入力のみで完結させる設計は不適合になり得ます。実務では、本文は自書し、財産目録は要件を満たす形で別紙化する設計が現実的です。Q: 遺言書が見つからないとどうなりますか?
A:
遺言がなければ原則として法定相続分をベースに遺産分割協議になります。特に不動産があると協議が長期化しやすいため、保管方法(法務局保管や公証役場保管)まで含めて設計することが重要です。Q: 検認は「遺言が有効か」を判断してくれますか?
A:
検認は遺言書の偽造・変造防止等のため、存在や形状等を明確にする手続であり、遺言の有効・無効を判断する手続ではありません。Q: 公正証書遺言は相続税対策になりますか?
A:
直接的に税額を下げる制度ではありませんが、分割の確定を早め、二次相続や納税資金まで含めた設計を実行しやすくします。節税は遺言単体ではなく、資産構成・配分・生前対策とセットで検討してください。まとめ
- 遺言書は「自筆証書・公正証書・秘密証書」の3種類があり、確実性と手間・費用で選び方が変わる
- 自筆は方式不備が最大リスクのため、日付・氏名・押印、加除訂正の扱いまで厳密に設計する
- 自筆でも法務局の保管制度を利用すると、発見性が上がり、検認不要となる整理がある
- 公正証書は保管と証明力が強みで、紛争予防や手続の円滑化に向く
- 遺留分、財産特定、税務・金融実務との接続まで含めて作ると相続後に止まりにくい
参照ソース
- 法務省「自筆証書遺言及び公正証書遺言の作成例」: https://www.moj.go.jp/content/001159606.pdf
- 法務局(東京法務局)「自筆証書遺言書保管制度(PDF)」: https://houmukyoku.moj.go.jp/tokyo/content/001391643.pdf
- 裁判所「遺言書の検認」: https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_17/index.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
ご注意事項
本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。
税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。
記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。
