
執筆者:辻 勝
会長税理士
遺言信託 銀行のメリット・費用相場と家族信託の違い|税理士が解説

遺言信託(銀行の信託サービス)とは
銀行の「遺言信託」とは、一般に、遺言の内容整理から公正証書遺言の作成支援、遺言書の保管、相続開始後の遺言執行(名義変更・払戻し・分配など)までをパッケージで支援するサービスです。誰にとって何が問題かというと、「相続人が遠方」「財産が多い・複雑」「相続人同士の調整が不安」な方ほど、相続開始後の実務が回らず揉めやすい点が課題になります。そこで、第三者(銀行等)が遺言執行を担うことで、手続の停滞や感情的対立の火種を減らす狙いがあります。
なお「遺言信託」という名称でも、実態は「遺言作成支援+保管+遺言執行」の総称として使われることが多く、各社でコース名や範囲が異なります。契約前にどこまでやってくれるのかを必ず確認しましょう。
遺言信託のメリット
相続開始後の実務をプロジェクト化できる
相続は、戸籍収集、残高証明、名義変更、換金、分配、場合によっては準確定申告・相続税申告など、期限付きのタスクが連続します。銀行の遺言信託は、遺言執行者としての実務を引き受ける設計が多く、相続人が手続きを抱え込まずに済みます。
遺言書の作成を制度に乗せやすい
遺言が無効にならないよう、方式や文言、財産の特定などの落とし穴を避ける必要があります。銀行は公証役場での公正証書遺言作成の段取り(証人手配を含む)まで支援することが多く、初めての方でも進めやすい点がメリットです。
相続人間の連絡役になり、揉めポイントを減らせる
遺言内容の説明や、必要書類の提出依頼などは相続人間の感情が絡みやすい部分です。第三者が窓口になることで、「誰が言った」「聞いていない」の摩擦を減らし、手続を前に進めやすくなります。
遺言信託の費用相場と内訳(遺言信託 費用)
銀行の遺言信託は、概ね「(1)遺言作成支援・契約時の手数料」「(2)保管・管理関連」「(3)相続開始後の遺言執行報酬」の組み合わせです。費用体系は各行で差が大きいので、ここでは見方と相場感を整理します。
よくある費用の型
- 相談・コンサル系:定額(例:数万円〜数十万円)
- 保管系:年額(例:年数万円程度)または無料〜低額
- 執行報酬:遺産額に応じた段階料率+最低報酬(例:最低数十万円〜数百万円)
実務で多いのは、遺産規模が大きいほど執行報酬が上がる設計です。特に不動産が多いと、名義変更・売却・分配などの実務負担が重くなり、結果として報酬も高くなりがちです。
「総額」を見誤らないためのチェックポイント
- 最低報酬の有無(小規模相続でも一定額が発生するか)
- 対象財産の範囲(他行預金・証券・不動産・非上場株などが含まれるか)
- 追加費用の扱い(登記費用、司法書士報酬、税理士報酬、郵送実費などは別途が一般的)
- 相続税申告や準確定申告が必要な場合の連携(銀行が税務申告を代行するわけではない)
遺言信託と家族信託の違い(遺言信託 家族信託 違い)
家族信託(民事信託)は、本人(委託者)が家族(受託者)に財産管理・処分を託し、受益者(多くは本人)に利益を帰属させる仕組みです。遺言信託が「相続開始後の執行」が中心なのに対し、家族信託は「生前からの財産管理・承継設計」に強みがあります。
| 比較項目 | 遺言信託(銀行) | 家族信託(民事信託) |
|---|---|---|
| 主な効きどころ | 相続開始後の遺言執行を外部化 | 生前の管理・意思能力低下への備え |
| 開始時期 | 基本は死亡後に本格稼働 | 契約後すぐ運用可能 |
| 管理者 | 銀行等(第三者) | 家族(受託者) |
| 向く財産 | 預金・証券・不動産など(取扱範囲は要確認) | 不動産・自社株・収益物件など継続管理向き |
| 費用の特徴 | 手数料+執行報酬(遺産額連動が多い) | 初期の設計・契約コストが中心(継続費は設計次第) |
| リスク | サービス範囲外の財産がある/費用が読みにくい | 受託者の運用負担・管理不正リスク/設計不備 |
ポイントは、「生前の管理が必要か」です。たとえば認知症リスクに備えて賃貸不動産の修繕・建替え・売却まで見据えるなら、家族信託が選択肢になります。一方、家族に実務負担をかけたくない、相続開始後の段取りを確実に回したいなら、銀行の遺言信託がフィットしやすいでしょう。
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銀行の遺言信託が向く人・向かない人
向く人
- 相続人が遠方・多忙で、相続手続きをまとめる人がいない
- 財産が複数(不動産+預金+証券など)で、実務が複雑
- 相続人間の関係性に不安があり、第三者が窓口の方が良い
- 遺言の内容を確実に実現したい(特定の遺贈、寄付、分配条件など)
向かない(注意が必要な)人
- 生前から柔軟に財産を動かす必要がある(賃貸経営の意思決定など)
- 相続人が少なく協力的で、費用を抑えたい
- 取扱いが難しい資産が中心(非上場株、複雑な共有不動産など)
- 家族に管理能力・意欲があり、家族信託で十分に回る
実際の相談では「遺言信託だけ」「家族信託だけ」ではなく、遺言(最終分配の設計)+任意後見/家族信託(生前管理)を組み合わせるケースもあります。
失敗しない選び方と進め方(手順)
Step 1: 財産と関係者を棚卸しする
預金(銀行別)、証券、保険、不動産(所在地・共有状況)、負債、相続人・受遺者候補を一覧化します。ここが曖昧だと、遺言の特定が弱くなり、執行時に手戻りが増えます。
Step 2: 目的を1行で言語化する
例:「長男に自宅、長女に金融資産を配分し、配偶者の生活費を優先する」「障害のある子の生活を長期で支える」など。目的が固まると、遺言信託と家族信託のどちらが主役か判断しやすくなります。
Step 3: 銀行に確認すべき論点を決めて見積を取る
- 対象財産に含まれる/含まれないもの
- 相続開始後に誰が連絡する運用(通知者の設定等)
- 遺言執行の範囲(不動産売却まで対応か、名義変更までか)
- 報酬の計算方法(最低報酬、料率、追加費用の扱い)
Step 4: 家族信託が必要かを並行検討する
認知症などで意思能力が低下すると、本人名義の不動産売却・建替え・金融取引が止まりやすいのが実務です。相続前に動かす必要があるなら、家族信託や任意後見も含めて設計します。
Step 5: 遺言書を作成し、定期的に見直す
不動産の売買、相続人の状況変化、税制改正などで、遺言の最適解は変わります。少なくとも数年に一度、遺言の棚卸しを推奨します。
よくある質問
Q: 遺言信託を使うと、遺言書は必ず公正証書になりますか?
Q: 遺言信託の費用は、相続税申告の報酬も含まれますか?
Q: 家族信託があれば遺言は不要ですか?
まとめ
- 銀行の遺言信託は、遺言作成支援・保管・遺言執行を通じて相続実務を外部化するサービス
- 遺言信託の費用は「契約時手数料+保管関連+遺言執行報酬(遺産額連動が多い)」で総額判断が重要
- 家族信託は生前の財産管理・意思能力低下対策に強く、遺言信託は死亡後の執行に強い
- 選び方は、財産棚卸し→目的の言語化→銀行の範囲と報酬の確認→家族信託の要否検討が王道
- 実務では、遺言(最終分配)+家族信託/任意後見(生前管理)を組み合わせるケースも多い
参照ソース
- 法務省「遺言書保管申請 ガイドブック(自筆証書遺言書保管制度)」: https://www.moj.go.jp/MINJI/common_igonsyo/pdf/guidebook_r5.pdf
- e-Gov法令検索「民法」: https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089
- 金融庁「改正信託業法が施行されました」: https://www.fsa.go.jp/policy/shintaku/index.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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