
執筆者:辻 光明
代表税理士
美容室・サロンの開業届と経費の考え方(2026年版)|税理士が解説

美容室・サロンの開業届と経費の考え方とは
美容室・サロンの開業でつまずきやすいのは、「何をいつ税務署へ出すか」と「どこまで経費にしてよいか」の2点です。開業直後は売上より支出が先行し、プライベート支出との境界が曖昧になりがちです。結論としては、開業届は原則“開業日から1か月以内”を目安に提出し、経費は「売上を得るために直接必要」と説明できる支出のみを、証憑と記録で固めるのが王道です。
税理士法人 辻総合会計では、開業期の記帳設計から確定申告まで一貫支援しており、現場の相談で最も多いのは「開業前の支出は全部経費?」「家賃やスマホ代はどこまで?」という論点です。以下で、手続と経費判断をセットで整理します。
開業届の提出手順と、同時に検討すべき届出
開業届はいつ・どこへ出す?
個人で美容室・サロンを始める場合、一般に税務署へ提出するのは「個人事業の開業・廃業等届出書(いわゆる開業届)」です。提出先は納税地を所轄する税務署で、e-Taxによる提出も可能です。提出の遅れが直ちに罰則に直結するケースは多くありませんが、青色申告などの選択に影響するため、実務上は早めが安全です。
青色申告は“期限”で損得が決まる
節税と資金繰りの観点で、開業初年度から検討すべき代表が青色申告です。青色申告の承認申請は期限があり、開業のタイミングによって締切が変わります。遅れるとその年は青色申告を使えないため、開業届とセットで検討してください。
美容室・サロンでよくある「開業時に追加で必要な届出」
税務署提出物は事業形態や運用で変わります。たとえば、従業員に給与を払う場合は源泉所得税の納付方法(納期の特例)を検討します。消費税(インボイスを含む)は、開業直後から課税事業者を選ぶと一定期間の影響が出るため、売上見込みと投資規模で判断が必要です。
| 項目 | まず押さえるポイント | 美容室・サロンで起こりやすい場面 |
|---|---|---|
| 開業届 | 事業開始の事実を届け出る | 物件契約日ではなく「営業開始日」をいつにするか迷う |
| 青色申告 | 期限内申請が必須。帳簿要件も強化 | 開業準備が忙しく後回しになりがち |
| 給与・源泉 | 従業員を雇うなら検討 | アシスタント雇用、家族従業員の扱い |
| 消費税・インボイス | 選択は中長期の影響が大きい | 開業時の設備投資が大きく、還付や仕入税額控除を意識 |
経費の基本:美容室・サロンで「落ちる経費」と「通る経費」
必要経費の原則は「売上獲得に直接必要」+「証拠が残る」
必要経費の基本は、「その収入を得るために直接要した費用」または「業務上の費用」であることです。美容室・サロンでは、材料・消耗品(カラー剤、パーマ液、シャンプー等)、広告宣伝(SNS広告、予約サイト手数料)、地代家賃、通信費、研修費などが典型です。
一方で、次のような支出は否認リスクが上がります。
- 私的要素が強い(私服、家族旅行、私用スマホ端末の大半など)
- 証憑が弱い(レシート無し、取引先・目的が説明できない)
- 経費計上時期がずれている(年内に債務が確定していないのに計上 等)
家賃・光熱費・スマホ代の「家事按分」は設計がすべて
自宅兼店舗、または自宅で一部業務(予約対応・SNS運用)を行う場合、家賃や光熱費、通信費は家事按分になります。ポイントは「合理的な基準」と「証跡」です。
- 面積基準:店舗・作業スペースの床面積割合
- 時間基準:業務使用時間の割合(通信費などと相性がよい)
- 併用:面積×時間など、より実態に沿う形
按分は“高ければ得”ではなく、説明可能性が重要です。税務調査で問われるのは割合そのものより、「なぜその割合なのか」「記録があるか」です。
美容室・サロン特有の論点:材料費・物販・施術メニューの原価
カラー剤等は「使った分が経費」と考えがちですが、期末に在庫が残る場合は棚卸(未使用分の資産計上)の論点が出ます。物販(ヘアケア商品、化粧品等)を扱う場合は、売上計上と仕入・在庫の整合が特に重要です。開業初年度から記帳ルール(仕入計上タイミング、在庫管理単位)を決めておくと、翌年以降の利益ブレを抑えられます。
開業前の支出・備品購入はどう処理する?
開業前に払った支出は「全部経費」ではない
開業準備期の支出は、性質により取り扱いが分かれます。判断を誤ると、利益が不自然に変動したり、固定資産計上漏れになりやすいです。
| 支出の例 | 典型的な扱い | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 広告撮影、ロゴ制作、開店告知 | 必要経費または開業費等の整理 | 「開業準備のため」と説明できる資料を残す |
| カラー剤・消耗品の仕入 | 仕入(在庫管理の対象) | 期末在庫が出るなら棚卸ルールを用意 |
| シザー、ドライヤー、セット面など備品 | 固定資産 or 少額資産の判断 | 金額基準と使用開始日で処理が変わる |
| 物件の保証金・敷金 | 原則資産 | 返還有無、償却の有無を契約で確認 |
10万円基準と、30万円未満の特例(期限に注意)
備品は「買った年に全額経費」とは限りません。一般に、使用可能期間が1年超で高額なものは減価償却(耐用年数で配分)となります。所得税の取扱いでは、取得価額が10万円未満等は一括費用化できる整理があり、さらに一定要件のもとで10万円以上30万円未満について特例が設けられています。なお、この特例は適用期限があるため、2026年(令和8年)3月末までの取得かどうか等、タイミングも含めて要件確認が必要です。
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失敗しないための運用設計(開業初月にやること)
Step 1: 開業日(事業開始日)を定義する
物件契約日・備品搬入日・プレオープン・グランドオープンのどれを「開業日」とするかで、届出期限や初年度の収支期間が変わります。実態に沿う日付を決め、メモを残します。
Step 2: 口座・カードを事業用に分ける
混在は否認の温床です。事業用口座・カードを用意し、私用支出を極力入れない設計にします。これだけで記帳工数が大幅に下がります。
Step 3: 経費科目と証憑ルールを決める
レシート・請求書の保存方法(紙・電子)、摘要の書き方(誰に・何のために)を統一します。“目的が書けない支出は計上しない”くらいが安全運転です。
Step 4: 家事按分の基準を先に固定する
家賃・通信費・水道光熱費の按分基準を、面積・時間などで決めて文書化します。後から作ると恣意的に見えやすくなります。
Step 5: 青色申告・消費税(インボイス含む)を一度シミュレーションする
売上見込み、初期投資、雇用予定の有無で、最適解が変わります。開業後に変更しづらい選択肢もあるため、初回だけでも試算して方針を固めます。
よくある質問
Q: 開業届を出さないとどうなりますか?
A:
多くの場合、直ちに罰則が科される類ではありませんが、青色申告の適用可否や、各種届出の起算点(期限管理)に影響します。金融機関・取引先対応で「事業開始の証跡」が必要になることもあるため、実務上は早めの提出が推奨です。Q: 自宅の一部で予約対応やSNS運用をしています。家賃や光熱費は経費にできますか?
A:
できますが、全額ではなく家事按分が基本です。面積や時間など合理的基準で按分し、根拠(間取り、作業時間メモ等)を残すことが重要です。按分割合を毎年ぶらさない運用が、税務上の説明力を高めます。Q: 開業前に買った備品や支払った広告費は経費になりますか?
A:
性質により分かれます。消耗品・広告費は必要経費になり得ますが、備品は固定資産(減価償却)になる場合があります。購入日よりも「事業の用に供した日(使い始めた日)」が重要になることがあるため、使用開始日をメモしておくと整理がスムーズです。まとめ
- 美容室・サロン開業は、開業届と青色申告などの届出を「期限込み」で設計することが重要
- 経費は「売上獲得に直接必要」かつ「証憑と記録」で説明できる支出に限定する
- 家賃・光熱費・通信費は家事按分。割合よりも根拠資料の整備が核心
- 開業前支出は、仕入・広告・備品(固定資産)などに分かれるため、初月にルール化する
- 口座・カード分離と証憑運用の統一が、開業期の失点を最小化する
参照ソース
- 国税庁「開業する場合」: https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/42.htm
- 国税庁「No.2210 必要経費の知識」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2210.htm
- 国税庁「No.2100 減価償却のあらまし」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2100.htm
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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