
執筆者:辻 光明
代表税理士
夫婦で起業するメリットと税務注意点|税理士が解説

夫婦で起業するメリットと結論
夫婦で起業する最大の利点は、意思決定の速さと役割分担による生産性向上です。一方で、配偶者に支払う給与や役員報酬、経費の按分を「なんとなく」で処理すると、経費否認や扶養判定のズレにつながりやすい点が課題です。結論としては、事業形態(個人事業・共同経営・法人)に応じて「お金の流れ」と「税務根拠」を先に設計し、届出・規程・証憑で裏付けることが重要です。
夫婦で起業するメリットとは
1) 意思決定が速く、固定費を抑えやすい
共同創業者同士で合意形成が取りやすく、採用・外注を増やしすぎずに立ち上げを進めやすいのが利点です。特にバックオフィス(経理・総務・予約管理・広報)を配偶者が担うと、外注費の削減に直結します。
2) 役割分担により売上機会を最大化できる
夫が営業・制作、妻が顧客対応・運用など、補完関係を作ることで機会損失が減ります。結果として、同じ売上でも残る利益が増えるケースが多いです。
3) 所得の分散で税負担が最適化する可能性
所得税は超過累進税率のため、利益が一定以上になると税率が上がります。夫婦それぞれに所得を適切に配分できる設計であれば、世帯全体の税・社保負担が軽くなる場合があります(ただし、形式だけの分散は否認リスクがあるため注意が必要です)。
夫婦起業の形態別「税務の扱い」の違い
夫婦起業は大きく「個人事業(事業主1人+配偶者が従業員)」「個人事業(夫婦それぞれが事業主=共同経営に近い形)」「法人(役員・従業員)」に分かれます。税務上の論点が変わるため、まず型を決めることが重要です。
| 項目 | 個人事業(事業主1人+専従者) | 個人事業(夫婦それぞれ事業主) | 法人(株式会社/合同会社) |
|---|---|---|---|
| 所得の分散 | 専従者給与(青色)/専従者控除(白色)で調整 | 売上・経費の実態配分が前提 | 役員報酬・給与設計で調整 |
| 配偶者への支払い | 原則は経費不可だが例外あり | それぞれの事業の経費として処理 | 役員報酬は損金算入要件あり |
| 扶養・配偶者控除 | 専従者は原則「扶養」に入れない | 所得次第で扶養判定 | 給与額で扶養判定 |
| 手続き負担 | 届出(専従者給与)・給与台帳 | 取引・契約の帰属整理が要 | 定款・議事録・年末調整等 |
| 否認リスク | 金額の相当性・実態が焦点 | 名義借り・実態不一致が焦点 | 定期同額等の要件外が焦点 |
税務上の注意点(失敗しやすいポイント)
注意点1:専従者給与は「届出」と「相当性」が必須
個人事業で配偶者に給与を払って経費化したい場合、青色申告なら「青色事業専従者給与」として必要経費算入が可能ですが、届出期限があります。原則として、その年に必要経費に算入しようとする年の3月15日まで(一定の場合は開業日等から2か月以内)に届出が必要です。また、金額は労務の内容・程度等から「相当」と認められる範囲に限られます。
一方、白色申告では給与を経費にできませんが、「事業専従者控除」として一定額を必要経費として差し引けます(配偶者は最高86万円、その他親族は最高50万円)。この控除額にも計算上の上限があります。
注意点2:法人化した場合、配偶者への「役員報酬」は要件を外すと損金にならない
法人にして配偶者を役員にする場合、役員報酬は原則として「定期同額給与」「事前確定届出給与」等の要件に該当しないものは損金算入されません。途中で気軽に増減すると、税務上の否認リスクが高まります。役員報酬は、株主総会・社員総会等の決議、議事録整備、支給方法の一貫性まで含めて設計してください。
注意点3:経費按分(家事関連費)はルールと根拠が必要
自宅兼事務所、車両費、通信費などは、私的利用が混在しやすい典型です。按分割合は「面積」「利用時間」「通話明細」等、第三者に説明できる根拠で設定し、毎期同じ基準で運用します。夫婦間で「片方に寄せる」処理は、税務調査で論点化しやすいので避けるのが無難です。
注意点4:名義・契約・入金口座が実態とズレると“共同経営”が崩れる
夫婦それぞれが事業主として利益配分を狙う場合、取引の帰属(誰が契約当事者か、誰がリスクを負うか、誰の口座に入金されるか)を揃えないと、実態は「片方の事業」だと判断されかねません。契約書・請求書・入金口座の整合は最優先で整備してください。
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夫婦起業の税務設計:実務の進め方(手順)
Step 1: 事業形態を決める(個人事業/夫婦それぞれ/法人)
利益規模、取引先要件(法人必須か)、融資、社会保険、将来の事業承継まで含めて型を決めます。
Step 2: 配偶者の立場を決める(専従者/従業員/役員/外注)
同じ「働く」でも、税務・社保・手続きが変わります。給与にするなら源泉徴収・年末調整の運用までセットで検討します。
Step 3: 金額設計(専従者給与・役員報酬・給与)と根拠作り
職務内容、勤務実態、同業水準を踏まえ、金額の妥当性を説明できるようにします。規程(給与規程等)や議事録を整備します。
Step 4: 必要な届出・台帳を整える
青色の専従者給与は届出期限があるため、年初・開業時点で手続きします。法人なら役員報酬の決議・源泉・年末調整等を運用します。
よくある質問
Q: 夫婦で起業すると、必ず節税になりますか?
A:
必ずではありません。利益規模、配偶者の稼働実態、社会保険、配偶者控除の可否などの条件で結果が変わります。形式だけの所得分散は否認リスクがあるため、実態に沿った設計が前提です。Q: 個人事業で妻(夫)に給料を払えば、全部経費になりますか?
A:
原則として生計を一にする配偶者等への給与は経費になりません。ただし青色申告で要件を満たす場合は「青色事業専従者給与」として必要経費算入が認められます。白色申告は給与の経費算入はできませんが、一定要件で「事業専従者控除」があります。Q: 法人化して配偶者を役員にすれば、報酬は自由に増減できますか?
A:
自由ではありません。役員給与は損金算入に要件があり、要件に該当しない部分は損金不算入となる可能性があります。決議・支給方法・金額変更のタイミングなどを含めて運用設計が必要です。まとめ
- 夫婦起業は意思決定の速さと役割分担により、固定費を抑えつつ成長を狙える
- 税務は「事業形態」により論点が変わるため、最初に型(個人/夫婦それぞれ/法人)を決める
- 個人事業で配偶者に支払う場合、青色は専従者給与、白色は専従者控除が基本線
- 法人の役員報酬は要件外だと損金にならないため、決議・議事録・運用の整合が重要
- 経費按分、契約名義、入金口座の整合を取り、実態に沿った証憑を残す
参照ソース
- 国税庁「青色事業専従者給与に関する届出手続」: https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/12.htm
- 国税庁「No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2075.htm
- 国税庁「No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5211.htm
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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