
執筆者:辻 光明
代表税理士
株 確定申告|FX・仮想通貨の損失年対策3つ|税理士が解説

損失が出た年こそ確定申告すべき結論
株・FX・仮想通貨の取引で赤字だった年でも、確定申告をすることで将来の節税や税金の取り戻しにつながる可能性があります。問題は「利益が出たときだけ申告すればよい」と思い込み、損失年の申告をスキップしてしまうことです。損失の繰越や損益通算は、原則として“申告した人だけ”が使える仕組みで、後から気づいても取り返しがつかないケースが少なくありません。
以下では、損失が出た年に申告すべき理由を「株」「FX」「仮想通貨」に分けて、税務の実務に即して整理します。
理由1:株は「損失の繰越控除」で将来の税金が下がる
株式(とくに上場株式等)の譲渡損失は、一定の要件のもとで最大3年間の繰越控除が可能です。さらに、条件を満たせば配当等との損益通算も視野に入ります。ポイントは「損失が出た年に確定申告をして、翌年以降も連続して申告すること」です。損失年に申告しないと、繰越の権利がスタートしません。
「株 確定申告」で損失年に見落としやすい場面
- 年末に損切りしたが、翌年は取引しなかった(それでも繰越のために申告が必要)
- 特定口座(源泉徴収あり)で損が出て、申告が不要だと思っていた
- 配当金や分配金があり源泉徴収されている(通算の結果、還付が出る可能性)
NISAの損失は「なかったこと」になる点に注意
NISA口座内の譲渡損失は、課税口座の利益と損益通算・繰越控除の対象になりません。損失年の申告を検討する際は、まず「損失がどの口座で生じたか」を切り分けるのが実務の第一歩です。
理由2:FXは「先物取引に係る雑所得等」の損失繰越が狙える
FX(外国為替証拠金取引)の損益は、一定の要件を満たす場合「先物取引に係る雑所得等」として申告分離課税の枠に入り、損失についても翌年以後3年間の繰越控除が認められます。ここでも重要なのは、損失が出た年に申告して繰越を開始し、その後も連続して所定の申告を行うことです。
FX 確定申告 損失:損益通算できる範囲が限定される
FXの損失は、給与所得や事業所得など「他の所得」とは損益通算できません。あくまで同じ「先物取引に係る雑所得等」の範囲で相殺・繰越する設計です。たとえば、同じ分類に入る取引(該当するCFD等)があれば通算対象になる一方、暗号資産の損益や株の譲渡損益とは基本的に別枠で管理します。
年間損益がマイナスでも申告価値が高い人
- 今年は負けたが、来年以降も同じ口座・同種取引を続ける見込みが高い
- 複数口座・複数業者で取引しており、集計すると通算で差が出る
- 申告漏れ・計算誤りを避けるため、損失年から帳尻を合わせておきたい
理由3:仮想通貨は「損益通算の範囲」と“証拠”の管理が決定的に重要
仮想通貨(暗号資産)の所得は、ケースにより事業所得等となる場合もありますが、一般的には雑所得として整理されることが多い領域です。雑所得の場合、損失の扱いは「どの雑所得と通算できるか」が焦点になり、帳簿性(計算の根拠)が問われます。
仮想通貨 確定申告 やり方:損失年でも“計算”を残す意味
仮想通貨は、売却だけでなく「他の暗号資産へ交換」「決済に利用」「レンディング・ステーキング等の収益」など、課税関係の判断が複雑化しがちです。損失年に申告(または申告に耐える計算書を作成)しておくことで、次のような実務メリットがあります。
- 取引履歴が後日取得できなくなるリスクに備えられる(取引所の仕様変更・統廃合等)
- 税務調査対応として、取得単価計算(移動平均法/総平均法など)の整合性を説明しやすい
- 雑所得内で相殺できる収益(例:補償金等を含む雑所得)がある場合、損失の位置づけを整理できる
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株・FX・仮想通貨の税務上の違い(比較表)
損失年の判断を誤らないために、まずは“税務上の枠組み”を並べて確認します。
| 項目 | 株(上場株式等の譲渡) | FX(外国為替証拠金取引) | 仮想通貨(暗号資産) |
|---|---|---|---|
| 所得区分の典型 | 譲渡所得(申告分離) | 先物取引に係る雑所得等(申告分離) | 雑所得(ケースにより事業等も) |
| 損益通算の相手 | 上場株式等の範囲で配当等と通算余地 | 先物取引に係る雑所得等の範囲のみ | 原則、雑所得内での整理(範囲の判断が重要) |
| 損失の繰越 | あり(要件あり・連続申告が前提) | あり(要件あり・連続申告が前提) | 原則、制度設計が異なり要注意(取引態様で変動) |
| 典型的な添付・根拠資料 | 特定口座年間取引報告書等 | 年間損益報告・明細書等 | 取引履歴CSV・取得単価計算表等 |
当法人(税理士法人 辻総合会計)でも、投資損益の申告相談で多いのは「分類が違うものを一緒に相殺できると思っていた」「損失年の申告を飛ばして繰越が途切れた」というケースです。損失を“資産”に変えるには、制度ごとのルールに沿って申告をつなぐことが前提になります。
申告手順の全体像(損失年の実務フロー)
損失年の申告は「税額がゼロだから簡単」というより、翌年以降のための“台帳づくり”に近い作業です。手順を固定するとミスが減ります。
Step 1: 取引の区分を分けて資料を集める
- 株:特定口座年間取引報告書、配当の支払通知書等
- FX:年間損益報告書、取引明細(スワップ含む)等
- 仮想通貨:全取引履歴(売買・交換・送金・手数料)、期首期末残高
Step 2: 税務上の“利益/損失”を再計算する
- 株:口座区分(一般/特定)と対象(上場株式等か)を確認
- FX:取引が「先物取引に係る雑所得等」に該当するかを確認
- 仮想通貨:取得単価の計算方法を統一し、手数料の扱いも整合させる
Step 3: 繰越・通算を前提に申告書を作成する
- 株:損失繰越を使うなら、損失年から申告し、翌年以降も連続して手続
- FX:繰越を使うなら、損失年から申告し、翌年以降も連続して手続
- 仮想通貨:雑所得の内訳が説明できる形で作成(根拠資料を保存)
よくある質問
Q: 株で損した年、取引がなかった翌年も申告が必要ですか?
A:
損失の繰越控除を継続して使うためには、原則として連続した手続が必要です。翌年に譲渡がなくても、繰越を維持するための申告が求められる場面があります。Q: FXの損失は給与所得と相殺できますか?
A:
一般に、FXの損失は「先物取引に係る雑所得等」以外の所得とは損益通算できません。相殺できる範囲が限定されるため、同分類の損益の集計が重要です。Q: 仮想通貨で赤字なら確定申告は不要ですか?
A:
“税額が出ない”ことと“申告・整理が不要”は別問題です。暗号資産は取引履歴の保存、取得単価計算の一貫性が重要で、損失年の整理が翌年以降の計算の土台になります。雑所得内の通算可否など、状況により判断が分かれるため注意してください。Q: 特定口座(源泉徴収あり)なら損失年は放置で大丈夫ですか?
A:
繰越控除や通算を使いたい場合は、放置すると不利になることがあります。源泉徴収の有無ではなく「何を実現したいか(繰越・還付・通算)」から逆算して判断してください。まとめ
- 損失年の確定申告は、翌年以降の節税(繰越控除)の起点になる
- 株は損失の繰越や、条件次第で配当等との通算が視野に入る
- FXは「先物取引に係る雑所得等」の枠内で損失の繰越が可能だが、他所得との通算は不可
- 仮想通貨は雑所得として整理されるケースが多く、損失年でも計算根拠の保存が重要
- 迷ったら「所得区分」「通算できる相手」「繰越の要件(連続申告)」の3点を先に確認する
参照ソース
- 国税庁「No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1474.htm
- 国税庁「No.1521 外国為替証拠金取引(FX)の課税関係」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1521.htm
- 国税庁「No.1525 暗号資産交換業者から暗号資産に代えて金銭の補償を受けた場合」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1525.htm
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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