
執筆者:辻 光明
代表税理士
過度な節税は危険?税務調査で否認される典型例|税理士が解説

過度な節税が問題になる理由(結論)
過度な節税が問題になるのは、支出や取引の「形」だけを整えても、税務調査では取引の目的・合理性・証拠の整合性まで含めて検証され、結果として経費(損金)や税額計算が否認され得るためです。特に同族会社では、第三者取引では起きにくい条件設定(高額な役員報酬、名義だけの外注、私的支出の混在など)が疑われやすく、形式より実質で判断されます。税理士法人 辻総合会計でも、節税提案の段階から「税務調査で説明できるか」を最優先に設計することが、結果的にリスクとコストを最小化すると実感しています。
過度な節税とは何か:節税・租税回避・脱税の違い
「節税」は、法令が予定する範囲で税負担を適正化する行為です。一方「租税回避」は、法形式の選択や組み合わせで課税要件の充足を外し、税負担を減少させようとする行為で、場合によっては否認規定により課税関係が引き直されます。さらに「脱税」は、売上除外や架空経費などの隠ぺい・仮装を伴い、加算税・刑事リスクも大きくなります。
| 区分 | 典型例 | 税務上の評価 | 税務調査でのリスク |
|---|---|---|---|
| 節税(適正) | 少額減価償却資産の活用、要件を満たす役員給与設計 | ルールどおりなら認容 | 低い(証憑が重要) |
| 租税回避(グレー) | 実態の薄い取引を重ねて税負担を回避 | 否認される可能性 | 中〜高(合理性が鍵) |
| 脱税(違法) | 架空外注、売上除外、二重帳簿 | 隠ぺい・仮装として重い措置 | 高い(重加算税等) |
ポイントは、税務調査では「取引の目的が税負担の減免に偏りすぎていないか」「通常の取引として不自然ではないか」が見られることです。ここが崩れると、節税のつもりでも“過度”と評価されます。
税務調査で否認される仕組み:行為計算否認と損金否認の基本
税務調査での否認は、大きく次の2系統に分かれます。
- 個別規定による否認(損金不算入・要件不充足)
- 例:役員給与が「定期同額給与」「事前確定届出給与」等の要件を満たさない、または不相当に高額と判断される場合、損金算入が制限されます。
- 包括的な否認(行為計算否認)
- 同族会社等の取引で、税負担を不当に減少させる結果となる場合に、課税庁が通常の行為計算に引き直して課税する考え方です。研究論文でも、行為計算否認は「現実に行われた行為計算を通常の行為計算に引き直して課税する」趣旨で整理されています。
つまり、「法律上の形式が整っている」だけでは足りず、取引実態と証憑が伴わない場合に、計算自体が差し替えられる(=否認される)可能性があります。
税務調査で否認されやすい典型ケース7選
ここでは現場で特に論点化しやすい類型を、チェックリストとして整理します。
1. 役員給与のルール違反・高額化
月途中の増減、期中の頻繁な改定、届出を要する給与形態の未対応などは定番論点です。さらに要件を満たしていても、職務内容や会社規模に比して高額な場合は「不相当に高額」部分が問題になります。
2. 期末だけの“駆け込み”役員退職金・功績倍率の過大設定
退職の実態、決議の時期、算定根拠(功績倍率、最終報酬月額等)を欠くと、適正額性が争点になります。期末対策としての一発支給は、特に説明設計が重要です。
3. 私的支出の混在(車・旅行・自宅関連・交際)
法人カードでの決済は便利ですが、私的要素が混じると一気にリスクが上がります。税務調査では「誰と」「何の目的で」「事業にどう必要か」を問われ、証憑の整合性が崩れると否認されやすくなります。
4. 交際費・会議費・広告宣伝費の付け替え
勘定科目の付け替え自体は違法ではありませんが、実態が伴わない場合は否認されます。たとえば飲食代は一定要件で交際費から除外され得る一方、要件となる書類保存(年月日、参加者、人数、金額、店舗情報等)が欠けると否認に直結します。
5. 親族・関係会社への外注費、業務委託費(実態不明)
「契約書はあるが成果物がない」「作業ログがない」「単価が相場から乖離」などは典型的に狙われます。第三者への説明ができない取引は、租税回避と見られやすい領域です。
6. 名義だけの役員・従業員(給与の実態なし)
勤怠、職務内容、指揮命令系統が曖昧だと、給与の必要性が否定されやすくなります。特に家族従業員は、業務実態の可視化が重要です。
7. 赤字法人の“節税商品”の過度な利用(保険・リース等)
制度上認められる枠内でも、導入目的が税負担の繰延べだけに偏り、キャッシュフローや事業計画と整合しない場合は、否認以前に資金繰り・金融機関評価で問題化します。税務上の可否と、経営上の合理性は別物です。
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否認リスクを下げる実務:税務調査に耐える整備手順
「否認されない」ために最も効果が高いのは、スキーム探しではなく、日常の証憑と意思決定の整備です。実務では次の順で確認してください。
Step 1: 目的と合理性を文章化する
- 取引の目的(事業上の必要性)
- 代替案と比較して当該手段を選ぶ合理性
- 期待効果(売上・効率化・リスク低減など)
ここが薄いと、税務上は「税負担の減少が主目的」と疑われやすくなります。
Step 2: 契約・稟議・議事録を整える
- 外注:契約書、仕様、成果物、検収、支払条件
- 役員:株主総会・取締役会の決議、規程、算定根拠
- 取引先:見積、相見積、相場資料
“いつ・誰が・何を根拠に決めたか”の証拠が重要です。
Step 3: 証憑と帳簿を突合できる状態にする
- 領収書だけでなく、参加者・目的・業務関連性のメモ
- クレジット明細と利用内容の紐付け
- 私用混在は按分ルールを固定し、毎期同じ基準で運用
税務調査は「点」ではなく「線」で見ます。継続性のない処理は疑念を呼びます。
Step 4: “第三者目線”で説明リハーサルをする
社内では当然に見える支出でも、調査官には前提が共有されません。税務調査で問われるのは、第三者への説明可能性です。説明が難しい取引は、実行前に止める判断も含めて検討します。
否認された場合の影響:追徴税だけでは終わらない
否認が起きると、追加の法人税・所得税だけでなく、過少申告加算税等が付く可能性があります。加えて、修正申告に伴う納税資金の手当て、役員や株主との調整、場合によっては金融機関への説明も必要になります。
実務上のダメージは「税額」だけではありません。意思決定の履歴や証憑が薄い会社ほど、調査対応の工数が増え、通常業務が停滞しがちです。否認リスクの管理は、コスト管理そのものでもあります。
よくある質問
Q: 「節税」と言われた商品やスキームなら、否認されないですか?
A:
名称だけで安全性は判断できません。税務調査では取引の目的・実態・証拠が確認されます。制度の要件を満たしていても、実態や証憑が伴わないと否認リスクが上がります。Q: 税務調査で「経費にならない」と言われたら、必ず従うべきですか?
A:
事実関係と根拠によります。まずは証憑・契約・業務実態を提示し、論点を整理した上で対応します。見解相違の場合でも、説明資料が整っていれば主張の余地が残ります。Q: 交際費や飲食代は、どこまでなら問題になりませんか?
A:
金額基準だけでなく、参加者・目的・業務関連性の記録が重要です。一定要件を満たす飲食費は交際費から除外できる場合がありますが、要件となる書類保存が欠けると争点化します。まとめ
- 過度な節税は「形だけ整える」ほど否認リスクが上がり、税務調査では形式より実質で判断される
- 否認は、個別規定(要件不充足・高額性)と包括的な否認(行為計算否認)で起こり得る
- 否認されやすいのは、役員給与・退職金・私的混在・実態不明の外注・科目付け替えなど
- 対策は、目的と合理性の文章化、契約・議事録、証憑と帳簿の突合、第三者目線での説明設計
- 影響は追徴税だけでなく、加算税・資金繰り・対外説明コストまで広がる
参照ソース
- 国税庁「No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5211.htm
- 国税庁「No.5265 交際費等の範囲と損金不算入額の計算」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5265.htm
- 国税庁・税務大学校 論叢「租税回避に対する法人税法132条等の行為計算否認規定のあり方(要約)」: https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/51/07/hajimeni.htm
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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