
執筆者:辻 光明
代表税理士
過度な節税のリスクと否認例|税務調査で否認されるケースを解説

過度な節税とは?「節税」と「租税回避」「脱税」の境界
過度な節税とは、形式上は取引が成立していても、実態・合理性・証拠が弱く、税務調査で否認(=税務上は認めない)されやすい節税スキームを指します。問題になるのは、税負担を下げたこと自体ではなく、取引の実態と目的が税務上の要件を満たしているかです。
税理士法人 辻総合会計の実務でも、「節税のつもりでやったが、調査で経費が落ちないと言われた」という相談が繰り返し発生します。判断軸は、証拠の有無と、第三者目線で説明できる合理性に集約されます。
| 区分 | 概要 | 典型例 | 主なリスク |
|---|---|---|---|
| 節税 | 法令の想定どおりに要件を満たして税負担を軽減 | 償却資産の取得、役員退職金の適正設計 | 要件不備で否認 |
| 租税回避 | 法形式の選択で課税要件の充足を回避し、税負担を不当に減少させる方向 | 不自然な組織再編、経済合理性の乏しい取引連鎖 | 行為計算否認、否認後の追徴 |
| 脱税 | 事実の隠蔽・仮装により税を免れる | 売上除外、二重帳簿、架空外注 | 重加算税、刑事リスク |
税務調査で否認される典型ケース
否認のされ方は大きく2系統です。ひとつは「経費要件(必要性・関連性・金額の妥当性・証憑)」で落ちるパターン、もうひとつは「行為計算否認(不当に税負担を減少)」など、取引の組み立て自体が問題視されるパターンです。
1) 私的支出の混入(家事関連費の拡大解釈)
- 交際費・会議費の名目だが、実態はプライベート飲食や家族同伴
- 出張旅費だが、観光比率が高く、業務性の説明が弱い
- 自家用車・通信費を「ほぼ全額」経費にしているが、稼働実態が示せない
ポイントは、誰と・何の目的で・何をしたかを客観資料で示せるかです(議事録、アジェンダ、名刺、メール、訪問記録など)。
2) 架空・名義貸し・循環取引(外注費・広告宣伝費に多い)
- 実在しない外注先、成果物がない、検収がない
- 同一人物が実質運営する複数口座を介した資金循環
- インフルエンサー広告等で、投稿・レポート・契約条件が曖昧
証憑が「請求書だけ」になっていると危険です。契約書、仕様書、成果物、ログ、支払根拠まで一連で整備する必要があります。
3) 役員・親族への利益移転(役員報酬、社宅、貸付、賃料)
- 役員報酬の期中変更(損金算入要件を外す)や、対価性の弱い手当
- 親族所有不動産の賃料が相場より高い
- 役員貸付金の長期滞留、利息・返済計画がない
形式的に契約があっても、独立当事者間なら成立する条件か(相場・稼働・返済可能性)が見られます。
4) 実態の乏しい節税商品(保険・リース・権利取引など)
- 収益獲得の合理性が薄く、税効果が主目的に見える
- 複数契約を組み合わせ、損失や繰延べを作る設計
- 解約・転売前提で事業実態が伴わない
経済合理性が説明できない場合、「取引自体は有効でも税務上は引き直す」という議論になり得ます。
税務調査で見られるポイントと「証拠」の作り方
税務調査では、帳簿書類の提示・確認が中心です。調査の進行や帳簿書類の預かり等の手続も公表FAQで整理されています。調査対応は「その場の受け答え」より、平時の記録設計が勝負です。
否認されにくい社内ルール(最低限)
- 支出目的・相手先・参加者・成果を残す(メモで可)
- 契約書・稟議・見積・発注・検収・成果物の導線を作る
- 立替精算の締日・領収書原本・電子データ保存ルールを統一
- 役員・親族取引は、相場資料と第三者比較(周辺賃料、金利等)を保存
否認された場合のペナルティと資金インパクト
否認されると、追徴税額(本税)に加えて附帯税(延滞税、加算税等)が発生し得ます。特に、事実の隠蔽・仮装が認定されると重加算税の対象になり、資金繰りに直撃します。
重加算税の判断では、二重帳簿、帳簿書類の隠匿・改ざん等が例示されており、悪質性があるかが分岐点です。節税のつもりでも、証拠の整合性が崩れると「仮装」に寄ってしまうことがあります。
ケーススタディ(匿名化)
A社(同族会社)が「外注費」を増やして利益を圧縮。請求書は揃っていたが、契約条件・成果物・やり取りの記録がなく、外注先の実態も不明確だったため、外注費の一部が否認。さらに、説明の途中で帳簿データ修正が発覚し、調査官の心証が悪化。結果として追徴に加え附帯税負担が拡大し、翌期の資金繰りに影響が出ました。
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過度な節税を避ける方法・手順(事前セルフチェック)
過度な節税を避ける最短ルートは、「合法性」より先に「実態・合理性・証拠」を点検することです。導入前に次の順で確認してください。
Step 1: 目的を税効果から切り離して言語化する
「なぜ今それをするのか」を、税以外の目的(人材確保、販路拡大、資金調達、リスク分散)で説明します。税目的しか出ない場合は赤信号です。
Step 2: 第三者条件で成立するかを検証する
同族・親族・関連会社取引は特に、相場・条件・代替手段を比較し、「独立当事者間でも選ぶか」を検討します。
Step 3: 証拠の導線を設計する
契約書、稟議、見積、発注、検収、成果物、支払根拠、議事録・メールなどを、後から追える形で保存します。電子保存の場合は運用ルールも整備します。
Step 4: 税務上の要件を最終確認し、出口(解約・売却・解散等)まで試算する
短期の税効果だけでなく、解約時課税・否認時の追徴・キャッシュフローを含めて試算します。
よくある質問
Q: 「節税になる」と言われたスキームは、どこまで信じてよいですか?
A:
節税提案は「要件」と「証拠設計」がセットで初めて実務に耐えます。税効果の説明に偏り、取引目的や成果物、相場比較、出口の課税まで説明できない場合は過度な節税になりやすいので、導入前に専門家レビューを推奨します。Q: 税務調査で否認されやすい勘定科目はありますか?
A:
実務上は、外注費、広告宣伝費、交際費・会議費、旅費交通費、地代家賃、雑費など「実態の説明が必要な科目」が論点化しやすい傾向があります。科目よりも、支出目的と証憑の強さが重要です。Q: 調査で指摘されたら、その場で修正に応じるべきですか?
A:
その場で結論を急がず、事実関係・証拠・法令要件を整理してから判断するのが基本です。説明資料の追加で見解が変わることもあります。早期に税理士へ相談し、反論可能性とコストを比較して方針決定してください。Q: 重加算税を避けるために、最低限やってはいけないことは?
A:
売上除外、架空計上、二重帳簿、証憑の改ざん・隠匿など、隠蔽・仮装に該当し得る行為は厳禁です。意図がなくても、後追いの整合取り(事後の書類作成・改変)が疑念を招きやすいため、記録は「事前・同時点」で残してください。まとめ
- 過度な節税は、実態・合理性・証拠が弱いほど否認リスクが高まる
- 否認論点は「経費要件で落ちる」か「取引自体を引き直される」に大別される
- 同族・親族・関連会社取引は相場比較とストーリー設計が不可欠
- 隠蔽・仮装と評価されると重加算税など附帯税負担が重くなる
- 導入前に目的・第三者条件・証拠導線・出口課税まで試算し、専門家レビューを行う
参照ソース
- 国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」: https://www.nta.go.jp/information/other/data/h24/nozeikankyo/ippan02.htm
- 国税庁「法人税の重加算税の取扱いについて(事務運営指針)」: https://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/hojin/100703_02/00.htm
- 国税庁「租税回避に対する法人税法132条等の行為計算否認規定のあり方」: https://www.nta.go.jp/about/organization/ntc/kenkyu/ronsou/51/07/hajimeni.htm
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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