
執筆者:辻 光明
代表税理士
相続株式売却の確定申告|取得費計算を税理士が解説

相続した株式を売却したら確定申告は必要?結論と全体像
相続で取得した株式を売却した場合、原則として「株式等の譲渡所得等」として申告分離課税で税金計算を行います。最大のつまずきは、取得費(取得価額)をどう計算するかです。多くのケースで「被相続人が買ったときの取得費を引き継ぐ」のが原則ですが、古い取引で取得費が分からないこともあります。
特に、相続人が「相続税は払った(または申告した)から売却は申告不要」と誤解してしまい、申告漏れ・取得費誤りにつながる相談が少なくありません。当法人(税理士法人 辻総合会計)でも、医療法人・資産家層の相続後の資産整理として株式売却の確定申告を多数支援してきました。ポイントを押さえると、実務は整理できます。
相続株式の譲渡所得とは|相続株式 譲渡所得の基本計算
譲渡所得の計算式(上場株式等・一般株式等 共通の骨格)
株式を売却したときの譲渡所得等は、次の式で計算します。
- 譲渡所得等 = 譲渡価額(売却金額)-(取得費+委託手数料等)
上場株式等と一般株式等は区分され、損益通算の可否など扱いが異なる点があります(区分自体を誤ると、損失の扱いで差が出ます)。税率は、原則として所得税15%+住民税5%(加えて復興特別所得税)で実質20.315%が基本線です。
(上場株式等・一般株式等の区分や税率の考え方は国税庁の解説が基礎になります。)
相続した株でも「相続開始日(死亡日)の時価」ではない?
ここが重要です。相続した株式の取得費は、原則として被相続人の取得費を引き継ぐ扱いです。つまり「相続した日の株価(時価)」が取得費になるわけではありません(例外あり:後述のNISA等)。取得費の誤りが一番多いので、最初に前提を固定しましょう。
相続 株 売却 取得費|取得費はどう計算する?3パターンで整理
国税庁の取扱いを踏まえると、実務上の取得費は概ね次の3パターンに整理できます。
| パターン | 取得費の考え方 | 典型例 | 実務の注意点 |
|---|---|---|---|
| 1. 取得費を引継ぎ(原則) | 被相続人の取得費(購入代金+購入手数料等)を引継ぎ | 生前に証券会社で購入した上場株式 | 被相続人の取引報告書・残高報告書等で取得単価を復元 |
| 2. 取得費不明の「5%ルール」 | 取得費を売却代金の5%として計算可(銘柄ごと) | 取得時期が古い、資料がない | 取得費が実際より小さくなり税額が増えやすい |
| 3. NISA等の例外(みなし取得) | 非課税口座から相続等で払い出された場合、相続開始日等の終値を基準にみなす | NISA口座内の上場株式等を相続 | 「引継ぎ」ではなく「みなし取得」になる点を見落としやすい |
パターン1:被相続人の取得費を引き継ぐ(原則)
相続・遺贈・贈与で取得した株式等は、原則として「被相続人等の取得費を引継ぎ」とされています。取得費には購入代金だけでなく、購入時手数料等も含めて考えます。
この原則が、相続株式の確定申告の起点になります。
パターン2:取得費が分からないときは「売却代金の5%」も選べる
相続した株式は「いつ・いくらで買ったか」が不明になりがちです。その場合、同一銘柄ごとに取得費を売却代金の5%とする方法が認められています。
ただし、実際の取得費が高かった場合でも5%で固定されるため、譲渡益が大きくなり税負担が増える点に注意してください。資料を探す価値があるケースが多いです。
パターン3:NISA口座の株式は「相続開始日の終値」等でみなし取得(例外)
NISA等の非課税口座に入っていた上場株式等が相続等で払い出された場合、原則として相続開始日等の終値相当額で取得したものとみなされます。
ここは「被相続人の取得費を引き継ぐ」という一般原則と異なるため、相続人側の口座区分・移管の経路とセットで確認が必要です。
相続 株 税金|税率・損益通算・特定口座の実務ポイント
税率は実質20.315%が基本(申告分離課税)
株式等の譲渡益は申告分離課税で、所得税15%+住民税5%に加え、復興特別所得税が加算されるため実務上は20.315%で把握するのが一般的です。
特定口座(源泉徴収あり)なら申告不要…とは限らない
特定口座(源泉徴収あり)で売却し、証券会社で税額計算・源泉徴収まで完結している場合、原則として確定申告を省略できる場面があります。一方で、次のような目的がある場合は申告が有利・必要になり得ます。
- 他の特定口座・一般口座の損失と通算したい
- 繰越控除(翌年以後への損失繰越)を使いたい
- 配当との損益通算をしたい(配当の課税方式の選択も絡む)
相続後は口座が分散しやすく、損益の全体最適を逃しがちです。年末時点で各証券会社の年間取引報告書を揃えて判断するのが安全です。
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相続した株式を売却した場合の確定申告|手順(ステップ形式)
相続株式の売却申告は、書類さえ揃えば流れはシンプルです。ポイントは「取得費の根拠」と「口座区分」です。
Step 1: 売却した口座区分を確認する(特定口座/一般口座)
- 特定口座なら「年間取引報告書」が基本資料
- 一般口座なら売却明細に加え、取得費の根拠資料がより重要
Step 2: 取得費を確定する(引継ぎ/5%/NISA例外)
- 取得費が分かる:被相続人の取得費を引継ぎ
- 分からない:銘柄ごとに5%ルールを検討
- NISA由来:相続開始日等の終値でみなし取得か確認
Step 3: 「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」を作成
- 銘柄ごとに、譲渡価額・取得費・手数料を整理
- 同一銘柄を複数回取得していた場合は、平均単価の考え方が絡むため注意(証券会社資料に基づくのが実務的)
Step 4: 確定申告書に転記して提出(e-Tax可)
- 国税庁の「株式等の譲渡所得等の申告のしかた」や作成コーナーの手順に沿うとミスが減ります
- 添付書類(年間取引報告書等)の要否は提出方法で異なることがあるため、最新の案内を確認
Step 5: 住民税・国保等への影響も俯瞰する(必要に応じて)
- 譲渡益が大きい年は、翌年度の住民税・各種負担に波及することがあります
- 相続人の所得状況(給与・年金・事業)と合わせた年次設計が実務上重要です
ケースで理解|取得費の差で税額はどれくらい変わる?
例:相続したA社株を300万円で売却、手数料3万円
-
ケース1:取得費が200万円と復元できた
譲渡益=300万-(200万+3万)=97万円
税額目安=97万×20.315% ≒ 19.7万円 -
ケース2:取得費不明で5%ルール(取得費15万円)
譲渡益=300万-(15万+3万)=282万円
税額目安=282万×20.315% ≒ 57.3万円
同じ売却でも、取得費の把握だけで税額が大きく変わります。「取得費の探索=節税」になり得る典型例です(もちろん、事実に基づく範囲での確認が前提です)。
よくある質問
Q: 相続した株を売ったのに「確定申告はいりません」と言われました。本当ですか?
A:
売却口座が特定口座(源泉徴収あり)で、証券会社の源泉徴収で完結している場合は申告を省略できる場面があります。ただし、損益通算・損失繰越・配当との通算を狙う場合は申告した方が有利なこともあります。年間取引報告書を揃えたうえで判断してください。Q: 取得費が全く分かりません。どうするのが正解ですか?
A:
まず証券会社の取引履歴の照会や被相続人の資料探索を行い、それでも不明なら、銘柄ごとに売却代金の5%を取得費とする方法が認められます。5%ルールは税額が増えやすいので、可能な限り復元を試す価値があります。Q: NISA口座で持っていた株を相続した場合、取得費はどうなりますか?
A:
非課税口座(NISA等)に入っていた上場株式等が相続等で払い出された場合、原則として相続開始日等の終値相当額で取得したものとみなされます。一般の相続(取得費引継ぎ)と扱いが異なるため、移管経路と口座区分を確認して処理します。Q: 相続税を払っています。株を売ったときの税金と二重課税になりませんか?
A:
相続税は「財産の移転」に対する課税、譲渡所得は「売却益」に対する課税で、課税対象が異なります。そのため、相続税の申告・納付があっても、売却益が出れば譲渡所得として別途申告が必要になるのが基本です(個別事情で例外的な調整があり得るため、具体的には専門家確認が安全です)。まとめ
- 相続した株式を売却すると、原則として株式等の譲渡所得等として申告分離課税で計算する
- 取得費は原則「被相続人の取得費を引き継ぐ」ため、相続日の時価で計算しない
- 取得費不明なら売却代金の5%を取得費とする方法もあるが、税負担が増えやすい
- 税率は実務上20.315%を基準に見積もる
- 特定口座(源泉徴収あり)でも、損益通算や繰越控除目的で申告が有利な場合がある
参照ソース
- 国税庁「No.1464 譲渡した株式等の取得費」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1464.htm
- 国税庁「No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1463.htm
- 国税庁「令和7年分 株式等の譲渡所得等の申告のしかた」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki/2025/kisairei/kabushiki/index.htm
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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