
執筆者:辻 光明
代表税理士
インボイス確定申告の関係|免税登録後の注意点を税理士が解説

インボイス制度と確定申告の関係とは
インボイス登録後に押さえるべき結論は、「所得税(または法人税)の確定申告」と「消費税の申告」は別物で、インボイス登録をすると消費税の申告が必要になる、という点です。特に免税事業者だった方は、登録により「これまで不要だった消費税申告」が増えるため、申告方法(本則・簡易・2割特例)を早めに設計しないと資金繰りと手間が膨らみます。
税理士法人 辻総合会計では、医療系を含む小規模事業者の消費税申告を継続的に支援してきましたが、登録後の初回申告で多いのが「課税開始日の勘違い」「2割特例の誤用」「売上・仕入の集計軸が所得税とズレる」などの実務ミスです。この記事では、インボイス登録後の消費税申告を、確定申告(所得税)との関係も含めて整理します。
免税事業者がインボイス登録したら何が変わるか
「確定申告が増える」の正体:所得税+消費税の二本立て
個人事業者の場合、従来の確定申告(所得税・住民税)はそのまま続きます。インボイス登録後に増えるのは、原則として消費税及び地方消費税の確定申告です(課税期間は通常、個人は暦年、法人は事業年度)。
- 所得税の確定申告:利益(所得)に対する税
- 消費税の確定申告:課税売上・課税仕入に基づく税
同じ「売上」でも、所得税は売上計上時点・費用の考え方が中心、消費税は課税区分(課税・非課税・不課税・免税)と税率(標準・軽減)を分けて集計する必要があり、帳簿の見方が変わります。
いつから課税事業者になる?(登録日が重要)
免税事業者が適格請求書発行事業者(インボイス発行事業者)として登録を受ける場合、一定の期間では「登録希望日」から登録を受けられる取扱いが示されています。つまり、登録日=消費税の納税義務が発生する起点になり得ます。
年の途中で登録した場合は、その年(課税期間)の中で「免税だった期間」と「課税になる期間」が混在し、申告実務が一段複雑になります。初年度ほど、登録日と課税売上の範囲(どこから消費税計算の対象に入るか)を必ず確認してください。
インボイス登録後の「消費税申告」の全体像
申告書はどこで入手・作成する?
消費税申告書・付表などの様式や手引きは、国税庁のページにまとまっています。紙提出も可能ですが、e-Taxや作成コーナーを使うと税額計算ミスを減らせます。
また、適格請求書発行事業者の登録手続自体も国税庁に案内があります。登録後は、請求書の記載要件だけでなく、申告のための帳簿・証憑(適格請求書等)の保存が実務上の基礎になります。
申告期限の基本(個人・法人)
- 個人事業者:原則、翌年3月31日が消費税の申告・納付期限(年により曜日等で変動)
- 法人:原則、課税期間(事業年度)終了後2か月以内(延長特例もあり)
登録直後は「所得税の確定申告(通常3月15日)」と「消費税(3月31日)」の期限が近く、キャッシュアウトが重なりやすい点も注意です。
2割特例・簡易課税・本則課税の選び方(比較表つき)
免税事業者がインボイス登録した場合、負担軽減として2割特例を選べる期間があります。2割特例は「売上税額の2割を納税額とみなす」イメージで、仕入税額控除の集計負担を抑えやすいのが特徴です。ただし適用できる期間・対象者要件があるため、登録しただけで常に使えるわけではありません。
| 項目 | 2割特例 | 簡易課税 | 本則課税(一般) |
|---|---|---|---|
| 計算の考え方 | 売上税額の一定割合で納税額を計算 | みなし仕入率で仕入税額控除を計算 | 実際の仕入税額控除を積み上げ |
| 事前届出 | 原則不要(申告書で選択) | 原則必要(届出期限に注意) | 不要 |
| 向いているケース | 仕入が少ない/集計負担を減らしたい/初年度 | 業種のみなし仕入率が高い/仕入管理を簡略化したい | 仕入・設備投資が多い/還付可能性がある |
| 注意点 | 適用期間・対象外となる課税期間がある | 届出の期限と原則2年継続など制度制約 | 証憑・区分経理の精度が要求される |
2割特例の適用期間は「令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間」とされ、申告時に申告書へ付記して適用します。課税期間ごとに適用するかを判断できる一方、適用できない課税期間もあるため、初回申告前に要件確認が必須です。
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インボイス登録後の消費税申告:実務の進め方(Step形式)
Step 1: 登録日(課税開始日)と課税期間を確定する
- 登録通知(登録番号が付与される書面・情報)で登録日を確認
- 年途中登録なら、課税対象となる売上・仕入の範囲を区切る
Step 2: 売上・仕入を「消費税の課税区分」で集計する
- 課税売上(10%・8%)/非課税/不課税/免税を分ける
- 仕入は適格請求書等の保存要件を意識して整理する
※会計ソフトの税区分が所得税用の勘定科目集計とズレるのが典型的な落とし穴です。
Step 3: 申告方式(2割特例・簡易課税・本則)を選ぶ
- 2割特例:対象課税期間か、要件に当てはまるか確認
- 簡易課税:届出提出の有無、基準期間売上など要件を確認
- 本則:設備投資や高額仕入があるなら還付可能性も含め比較
Step 4: 申告書と付表を作成し、期限までに提出・納付する
- 国税庁の申告書様式・手引きに沿って作成
- e-Tax利用なら入力ガイドで計算ミスを減らす
- 納税資金(消費税分)を別管理しておくと資金繰り事故を避けやすい
免税事業者が登録した場合の注意点(よくあるミス)
1) 「2割特例なら何もしなくていい」と誤解する
2割特例は便利ですが、申告自体は必要です。さらに、適用できる課税期間・できない課税期間があるため、「初回申告で適用できなかった」「想定より納税が増えた」が起こり得ます。
2) 年途中登録で、集計範囲が崩れる
年の途中から課税事業者になると、売上・仕入の範囲が「登録日以前/以後」で分かれます。結果として、
- 所得税の売上は1年分
- 消費税の課税売上は年の一部(または区分集計) というズレが生じ、帳簿と申告書の突合が難しくなります。
3) 課税事業者選択届出の「2年縛り」を見落とす
インボイス対応で課税事業者選択を絡めた場合、原則として一定期間は不適用に戻せないなど、届出には制約があります。登録前後で提出した届出書の種類と効力発生日を必ず棚卸ししてください。
よくある質問
Q: インボイス登録すると、所得税の確定申告のやり方も変わりますか?
A:
所得税の計算ロジック自体(売上−経費=所得)は変わりません。ただし、消費税申告のために「課税区分」「税率」「適格請求書の保存」を意識した入力が必要になり、会計処理の粒度が上がるケースが多いです。結果として、所得税申告の元データ(帳簿)の作り方が実務的に変わる、と考えるのが現場感に近いです。Q: 2割特例はいつまで使えますか?
A:
2割特例を適用できる期間は、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間です。申告時に消費税の確定申告書へ付記して適用します。対象外となる課税期間もあるため、登録日・基準期間売上などの要件確認が前提です。Q: 年の途中でインボイス登録した場合、消費税の申告はどうなりますか?
A:
年途中登録では、課税期間内で「免税だった期間」と「課税となる期間」が混在し、消費税の計算対象となる売上・仕入の範囲を区切って集計する必要があります。国税庁のQ&Aでも個別論点として整理されているため、登録日と課税売上の範囲を確定したうえで申告書・付表を作成してください。Q: 消費税の申告書はどこで入手できますか?
A:
国税庁サイトに、消費税及び地方消費税の申告書・添付書類の様式、手引き、計算表が掲載されています。e-Taxや作成コーナーの利用も含め、該当課税期間(令和5年10月1日以後終了分など)に合う様式を選びます。まとめ
- インボイス登録後は、所得税(法人税)の確定申告とは別に、消費税申告が原則必要になる
- 免税事業者が登録すると、登録日を起点に課税事業者となる場面があり、初年度は集計範囲が複雑になりやすい
- 2割特例は負担軽減になるが、適用期間・対象外となる課税期間があるため要件確認が必須
- 申告方式(2割特例・簡易課税・本則)は、仕入割合・設備投資・事務負担・資金繰りで比較して選ぶ
- 届出書(課税事業者選択など)を絡めた場合は制約があるため、提出内容と効力発生日の棚卸しを行う
参照ソース
- 国税庁「2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要」: https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shohi/kaisei/202304/01.htm
- 国税庁「インボイス制度に関するQ&A目次一覧」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/zeimokubetsu/shohi/keigenzeiritsu/qa_invoice_mokuji.htm
- 国税庁「消費税及び地方消費税の申告書・添付書類等」: https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/shinkoku/shohi/06.htm
- 国税庁「適格請求書発行事業者の登録申請手続(国内事業者用)」: https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/annai/invoice_01.htm
- 国税庁「消費税・地方消費税(個人事業者)の確定申告と納税は正しくお早めに」: https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/campaign/r8/Mar/01.htm
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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