
執筆者:辻 光明
代表税理士
前払費用と未払費用の違い|期末処理仕訳を税理士が解説【2026年版】

前払費用・未払費用とは(定義と基本)
前払費用と未払費用は、どちらも決算で「当期の費用を正しくする」ために使う科目です。結論から言うと、前払費用は「払ったが、まだ受けていないサービス分」、未払費用は「受けたが、まだ払っていないサービス分」です。
会計の基本は発生主義(サービス提供を受けた時点で費用計上)で、これを月次・決算で実現する技術が期間対応です。期末(決算日)では、現金の動きと費用計上がズレやすく、調整が必要になります。
税理士法人 辻総合会計では、クリニックや中小企業の記帳・決算支援を継続的に行う中で、前払・未払の誤りが損益と税額に直結するケースを多数見てきました。特に「保険料」「家賃」「外注費」「社会保険料」は頻出です。
前払費用と未払費用の違い(比較表)
前払費用と未払費用は、同じ“調整”でも向きが逆です。以下の表で整理すると判断が早くなります。
| 項目 | 前払費用 | 未払費用 |
|---|---|---|
| 期末時点の状態 | 支払済だが未経過(未提供) | 経過(提供済)だが未払 |
| 貸借対照表の表示 | 資産(繰延べ) | 負債(計上漏れ防止) |
| 典型例 | 火災保険料、家賃の前払い、年額サブスク | 電気・ガス等、外注費、給与・賞与、社会保険料 |
| 目的 | 当期費用を減らし、翌期へ繰延べ | 当期費用を増やし、負債を立てる |
| 関連する税務論点 | 短期前払費用(1年以内なら損金処理可の場合あり) | 債務確定(当期損金に入れる要件) |
期末処理の仕訳パターン(前払費用)
よくあるケース1:年払い保険料(期末に未経過分が残る)
例:4月1日に1年分の火災保険料120,000円を支払(期末:12月31日)。未経過期間は1〜3月の3か月分=30,000円。
- 支払時(4/1)
- (借)保険料 120,000 /(貸)普通預金 120,000
- 期末整理(12/31)
- (借)前払費用 30,000 /(貸)保険料 30,000
翌期首に振戻し(翌期の費用計上を簡便にする場合)を行うこともありますが、運用は会計方針として統一してください。
よくあるケース2:家賃の前払い(翌月分を当月末に支払う)
12月末に1月分家賃を支払っている場合、期末は未経過なので前払費用に振替えます。
期末処理の仕訳パターン(未払費用)
よくあるケース1:水道光熱費(検針〜請求が翌月)
例:12月利用分の電気代が翌年1月に確定・請求される。12月末時点で利用(原因事実)が発生しているため、当期費用に含めるのが原則です。
- 期末整理(12/31)
- (借)水道光熱費 XX /(貸)未払費用 XX
- 支払時(翌年1月)
- (借)未払費用 XX /(貸)普通預金 XX
よくあるケース2:外注費(作業完了だが請求書が未着)
外注先の作業が期末までに完了しており、金額も見積書・契約等で合理的に算定できる場合、未払費用(または未払金)で計上します。
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期末処理の手順(決算整理の進め方)
「何を前払・未払にするか」を属人的にせず、決算整理仕訳として型化するとミスが減ります。
Step 1: 年払い・前払い契約を棚卸する
保険、家賃、サブスク、保守契約、リース付帯サービスなど「支払は先、役務は後」の契約を一覧化します。
Step 2: 期末時点の未経過期間を計算する
「支払対象期間」「決算日」「月割・日割」を決め、未経過分を算出します(重要性が低ければ月割で統一)。
Step 3: 請求未着・支払未了の費用を洗い出す
水道光熱費、外注費、通信費、給与・賞与、社会保険料など「役務は当期、支払は翌期」を抽出します。
Step 4: 債務確定の証憑を揃える
契約書、検収書、作業完了報告、見積書、計算根拠メモを保管し、金額の合理性を説明できる状態にします。
Step 5: 翌期の処理(振戻し・支払消込)までセットで設計する
翌期に二重計上・計上漏れが起きないよう、振戻しの有無と運用ルールを統一します。
注意点・税務調査で見られるポイント
- 前払費用の「繰延べ漏れ」
年払い保険やサブスクを全額当期費用にしてしまうと、利益が過小になります。短期前払費用の取扱いを使う場合でも、要件と継続適用が重要です。 - 未払費用の「過大計上」
期末時点で原因事実が未発生(作業未完了等)なのに、見込みで費用化すると否認リスクがあります。債務確定の要件を満たすかを確認してください。 - 「未払金」と「未払費用」の混同
実務上はどちらでも決算書に大差が出ないこともありますが、科目の定義を社内で統一するとレビューが容易になります。一般に、継続的・経常的な費用は未払費用、単発の取引は未払金、と整理されることが多いです(会計方針として一貫性が重要)。 - 消費税(課税仕入れ)の期ズレ
課税仕入れの計上時期は、請求書受領・検収・支払条件など実態に左右されます。前払・未払の調整とあわせて、証憑整備を推奨します。
当法人の現場感として、期末に「請求書が来ていないから計上しない」「とりあえず概算で未払計上する」が混在すると、翌期に二重計上・計上漏れが連鎖しやすくなります。決算対応だけでなく、月次から“型”を作ることが最もコスト効率的です。
よくある質問
Q: 前払費用と前払金はどう違いますか?
A:
前払費用は「継続的な役務提供に対応する未経過分(費用の繰延べ)」という性質が強いのに対し、前払金は「商品やサービス購入の手付・前渡し」など取引形態が広い概念です。社内で科目運用を決め、継続的役務は前払費用に寄せると管理しやすくなります。Q: 未払費用は見積りでも計上できますか?
A:
条件付きで可能です。期末までに原因事実が発生し、債務が成立し、金額を合理的に算定できる場合に限られます。作業未完了や検収未了の段階での概算計上は、債務確定を満たさず否認リスクが高まります。Q: 短期前払費用の特例は、何でも使えますか?
A:
使える範囲は限定されます。1年以内に提供を受ける役務で、継続して支払時損金処理しているなどの要件があります。また、収益との厳密な対応が必要な支払利子等は対象外とされる点に注意してください。まとめ
- 前払費用は「支払済だが未経過」のため、期末に資産計上して当期費用を調整する
- 未払費用は「経過済だが未払」のため、期末に負債計上して当期費用を調整する
- 前払は短期前払費用の取扱い、未払は債務確定(成立・原因事実・合理的算定)が税務の要点
- 期末だけでなく月次から棚卸リストを作り、決算整理仕訳を型化するとミスが減る
- 証憑(契約・検収・見積・計算根拠)を残し、翌期の消込・振戻しまで運用設計する
参照ソース
- 国税庁「No.5380 短期前払費用として損金算入ができる場合」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5380.htm
- 国税庁「No.5387 販売費、一般管理費その他の費用における債務確定の判定」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5387.htm
- 国税庁「短期前払費用の取扱いについて(質疑応答事例)」: https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/02/03.htm
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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