
執筆者:辻 光明
代表税理士
消費税確定申告の手順と簡易・本則比較|税理士が解説 個人事業主

消費税の確定申告とは|個人事業主がやるべきこと
個人事業主の消費税の確定申告は、課税期間(原則1月1日〜12月31日)の取引を集計し、「消費税及び地方消費税」の申告書を提出して納税(または還付申告)する手続です。課税方式(簡易課税か本則課税か)で税額と作業負担が大きく変わるため、申告のやり方と同時に「方式選択」まで押さえるのが実務的な近道です。
特に個人事業主は、インボイス対応、経費の科目設計、売上区分(標準税率・軽減税率等)の影響が積み重なると、年末になって「集計が追いつかない」「思ったより納税が重い」となりがちです。税理士法人 辻総合会計でも、申告直前に帳簿の税区分が崩れているケースはよくあります。まずは全体像から整理しましょう。
消費税申告のやり方|必要書類・期限・e-Taxの流れ
課税期間と申告期限(個人事業主)
個人事業主の課税期間は原則として毎年1月1日〜12月31日です。消費税の確定申告書は、原則として課税期間終了後「翌日から2か月以内」、個人事業主(12月31日終了)は原則「翌年3月31日まで」に提出・納付します。期限は所得税の確定申告(通常3月15日)とは別なので注意が必要です。
申告に必要になりやすいもの
- 売上台帳(課税売上・非課税売上・不課税取引の区分)
- 仕入・経費台帳(課税仕入の税区分、適格請求書等の管理)
- 領収書・請求書(紙・電子いずれも)
- 固定資産・設備投資の明細(本則課税で影響が大きい)
- 「消費税及び地方消費税の確定申告書」各様式・計算表(国税庁の手引き・様式を参照)
e-Taxでの提出(概要)
e-Taxを使うと、申告書の作成・送信・納付まで一連で完結しやすくなります(PC・スマホ、マイナンバーカード方式等)。帳簿集計が固まったら、申告書作成画面で課税方式(簡易/本則)を選び、税額計算→送信→納付へ進みます。
Step 1: 集計の前提を確定する(課税方式・課税期間)
課税期間(原則1/1〜12/31)を確認し、課税方式が「簡易課税」なのか「本則課税」なのか、届出状況も含めて確定させます。
Step 2: 売上・仕入の税区分を整理する
標準税率・軽減税率・非課税・不課税・免税等を区分し、課税売上割合や控除対象外が出る取引がないかを点検します。
Step 3: 申告書を作成し、e-Taxで送信する
国税庁の申告書様式・手引きを参照しつつ作成します。e-Taxなら送信後の控え管理も容易です。
Step 4: 納付(または還付申告の手続)を行う
納税額がある場合は期限までに納付します。還付となる場合も、要件や添付関係を確認して提出します。
消費税の簡易課税と本則課税|違いと基本ルール
簡易課税は、売上に係る消費税額をベースに、業種区分ごとの「みなし仕入率」を掛けて仕入税額控除相当額を算定する方式です。中小事業者の事務負担軽減が目的で、適用には「簡易課税制度選択届出書」の提出等が必要です。基準期間(個人は前々年)の課税売上高が5,000万円以下の課税期間で適用できます。
一方、本則課税(原則課税)は、実際の課税売上に係る税額から、実際の課税仕入に係る税額(仕入税額控除)を控除して計算します。設備投資や外注費が多い年は本則が有利になりやすい反面、請求書・税区分管理が重くなります。
| 項目 | 簡易課税 | 本則課税(原則課税) |
|---|---|---|
| 税額計算の考え方 | 売上税額×みなし仕入率で控除額を推計 | 実際の仕入・経費の税額を控除 |
| 事務負担 | 比較的軽い(ただし売上区分は必要) | 重い(仕入税額控除の根拠管理が重要) |
| 有利になりやすい例 | 経費率が低い、業種のみなし仕入率が高い | 設備投資・外注・仕入が多い、課税仕入が厚い |
| リスク | 実際の経費が多くても控除は増えない | 証憑不備・税区分ミスで控除否認リスク |
| 選択の実務 | 届出の提出タイミングが重要 | 原則はこちら(届出不要) |
消費税「簡易課税・本則課税」の選択ポイント|有利不利の判断軸
1) 基準期間5,000万円の判定(簡易課税の入口)
簡易課税は、基準期間(個人は前々年)の課税売上高が5,000万円以下の課税期間で適用できます。まずは「前々年の課税売上高」を、免税売上・非課税等の区分を踏まえて判定します。ここが外れると、そもそも簡易課税は使えません。
2) みなし仕入率と「実際の経費率」のズレ
簡易課税は業種ごとにみなし仕入率が定められており、あなたの実際の経費率(課税仕入割合)と差が出ます。判断はシンプルで、概ね次の見方になります。
- 実際の課税仕入(仕入・外注・経費)が少ない → 簡易課税が有利になりやすい
- 実際の課税仕入が多い(仕入販売、外注型、設備投資が多い)→ 本則課税が有利になりやすい
税理士法人 辻総合会計での相談でも、「売上は増えたが外注比率も高い」「医療周辺ビジネスで課税売上はあるが設備投資が重い」など、年によって最適解が入れ替わるケースがあります。方式選択は“税額”だけでなく“管理コスト”も含めて最適化するのが現実的です。
3) 設備投資・高額仕入がある年は本則課税を優先検討
本則課税は実額控除なので、設備投資(PC、機器、内装、車両など)や高額な外注がある年は有利になりやすいです。反対に簡易課税は、実際に多額の課税仕入があっても控除額はみなし計算の範囲に留まります。
4) インボイス・証憑管理体制の成熟度
本則課税は、仕入税額控除の根拠が重要になります。請求書・領収書の保存、税区分、適格請求書の管理が弱いと、申告は作れても税務調査で苦しくなります。体制が未整備なら、事務負担の観点で簡易課税を選びたくなりますが、税額面の差額が大きいなら整備投資(会計ソフト、スキャン運用)を先に検討する価値があります。
ケーススタディ(匿名化)
- 例:個人事業主A(コンサル系、課税売上2,800万円、外注・経費は少なめ)
簡易課税の方が申告作業が軽く、税額も本則と同等か有利になりやすい傾向。 - 例:個人事業主B(EC、課税売上4,500万円、仕入が厚い)
本則課税で実額控除を取りに行かないと、簡易課税では控除不足になりやすい。
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方式選択でつまずく注意点|届出・集計・よくあるミス
- 「簡易課税制度選択届出書」を出していないのに、簡易課税のつもりで集計を進めてしまう
- 売上の税区分(軽減・標準・非課税等)が混在しているのに、まとめて集計してしまう
- 本則課税で、証憑の保存・適格請求書の確認が不足して控除が崩れる
- 期中に事業形態や取引が変わり、業種区分(簡易課税の事業区分)が複合化しているのに放置する
特に複数事業(物販+役務、オンライン+対面など)を跨ぐ場合、簡易課税の事業区分ごとの売上計上を誤ると、みなし仕入率の適用がズレます。売上データの段階で区分できる形(商品マスタ・取引先マスタ・税区分ルール)にしておくのが安全です。
よくある質問
Q: 消費税の確定申告は、所得税の確定申告と同じ期限ですか?
A:
同じではありません。個人事業主の消費税申告は、原則として課税期間(12月31日)終了後の期限までに行い、一般に翌年3月31日が目安です(詳細は制度ルールを確認してください)。Q: 簡易課税は誰でも選べますか?
A:
誰でもではありません。基準期間(個人は前々年)の課税売上高が5,000万円以下などの要件があり、所轄税務署長へ「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出していることが前提になります。Q: 簡易課税と本則課税、どちらが有利かはどう判断しますか?
A:
目安は「実際の課税仕入の厚さ」と「みなし仕入率の水準」です。設備投資・仕入・外注が多い年は本則が有利になりやすく、経費が少ない業態は簡易が有利になりやすい傾向があります。加えて、証憑管理の体制や作業コストも含めて判断します。まとめ
- 個人事業主の消費税申告は、課税期間(原則1/1〜12/31)を集計し、期限までに申告・納付する
- 申告実務は「方式(簡易/本則)確定→税区分整理→申告書作成→送信・納付」の順で進める
- 簡易課税は基準期間5,000万円以下など要件があり、みなし仕入率で控除額を計算する
- 本則課税は実額控除で、設備投資・外注・仕入が厚い場合に有利になりやすい
- 有利不利だけでなく、証憑管理体制と作業負担も含めて最適化する
参照ソース
- 国税庁「消費税及び地方消費税の申告書・添付書類等」: https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/shinkoku/shohi/06.htm
- 国税庁「No.6505 簡易課税制度」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6505.htm
- 国税庁「No.6137 課税期間」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6137.htm
- e-Tax「申告手続(消費税確定申告等)」: https://www.e-tax.nta.go.jp/tetsuzuki/shinkoku/shinkoku03.htm
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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