
執筆者:辻 光明
代表税理士
収用 確定申告の実務|5,000万円控除条件を税理士が解説

収用・立退きの確定申告は何が問題になるか
公共事業で土地や建物を「収用(しゅうよう)」「買取り」「立退き」した場合、受け取るお金の多くは譲渡所得(不動産を売った利益)として課税対象になります。一方で、一定の条件を満たすと譲渡所得から最高5,000万円を控除できる特例があり、税負担が大きく変わります。
ただし実務では、「補償金は全部同じ扱い」と誤解して申告漏れになったり、5,000万円控除の“6か月要件”を外して適用できなかったりします。とくに、個人地主・家主の方にとっては、手続きの遅れがそのまま税負担増につながりやすい点が核心です。
本記事では、収用 確定申告で押さえるべき全体像と、収用 5,000万円控除の条件・必要書類・注意点を、税理士実務の観点から整理します。
収用・公共事業で土地を売却したときの税金の基本
「収用」と「任意売却」でも税務上の特例が問題になる
税務上は「収用で強制的に手放したか」「公共事業の施行者へ売ったか」により、租税特別措置法の特例を検討します。代表的には次の2つがあり、同じ公共事業に対しては原則としてどちらか一方を選択します。
- 代替資産(買換え)による課税の繰延べ(譲渡がなかったものとする扱い)
- 譲渡所得から最高5,000万円までの特別控除
国税庁は、収用等で土地建物を売った場合の特例として上記2類型を整理し、それぞれ要件と添付書類を示しています(令和7年4月1日現在法令等)。
立退きで受け取る「補償金」は中身ごとに税区分が分かれる
立退きの場面では、売買代金以外に様々な補償金が支払われます。ここを一括で「非課税」と誤認するのが典型的なミスです。国交省の公共用地取得の説明でも、補償金は所得区分(譲渡所得・一時所得・事業所得・不動産所得など)に応じて課税関係が異なる旨が整理されています。
収用 5,000万円控除の条件(特別控除)をチェック
ここからが実務の要点です。5,000万円特別控除は強力ですが、要件が明確に定められています。国税庁の整理に基づき、主要条件を噛み砕いて説明します。
条件1:売った資産が固定資産であること
対象は、個人が保有する土地・建物等のうち「固定資産」です。たとえば不動産業者が販売目的で持つ棚卸資産は対象外になり得ます。一般の個人地主の居住用・賃貸用・遊休地等であれば固定資産に該当するケースが多い一方、事業形態により判定が必要です。
条件2:同一年に「代替資産の繰延べ特例」を使っていないこと
同じ年に、公共事業で売った資産の全部について「代替資産を取得した場合の課税の特例(繰延べ)」を選択していると、5,000万円控除は使えません。
つまり、5,000万円控除か、買換え繰延べかの選択問題になります。
条件3:最初の「買取り等の申出」から6か月経過日までに売ること(重要)
実務で一番落とし穴になるのが、この“6か月要件”です。
「最初に買取り等の申出があった日」から6か月を経過する日までに譲渡(契約・引渡しの関係も含め、個別に確認)していることが必要です。補償交渉が長引くと要件を外し、控除不可となるリスクがあります。
条件4:申出を受けた本人(または相続人等)が譲渡していること
公共事業の施行者から最初に申出を受けた本人が譲渡することが原則です。ただし、その者の死亡に伴う相続・遺贈で資産を取得した者が譲渡する場合も含まれます(国税庁の要件整理)。
同一公共事業で複数年に分けて売るときの注意
同じ公共事業で2年以上にまたがって資産を譲渡する場合、5,000万円特別控除は最初の年だけとされます。分筆して年をまたぐ場合や、土地と建物で契約年が分かれる場合は、計画段階から税務の影響確認が必要です。
収用と買換え(繰延べ)・5,000万円控除の違い
「収用 5000万円控除」と並んで検索されるのが、「買換え(代替資産)」「繰延べ」です。どちらが得かは、譲渡益の大きさ、将来の売却予定、資金繰りで変わります。
| 比較項目 | 5,000万円特別控除 | 代替資産の繰延べ(買換え) |
|---|---|---|
| 効果 | 譲渡所得から最大5,000万円控除(即効性) | 課税を将来に繰り延べ(当年の課税を抑える) |
| 要件の山場 | 申出から6か月要件、添付書類 | 取得資産の同種性、取得時期(原則2年以内等) |
| 向くケース | 譲渡益が大きい/買換え予定がない | 代替地・代替建物を取得する予定がある |
| 将来の影響 | 控除後は通常の取得費引継ぎなし | 取得費調整で将来売却時に課税が出やすい |
当法人(税理士法人 辻総合会計)でも、公共事業での立退き相談では「控除を取りに行くか、繰延べで資金繰りを優先するか」が論点になりやすく、契約スケジュールの設計が実務の勝負所になります。
収用 確定申告の手順(必要書類・書き方の流れ)
まず揃える書類(代表例)
国税庁は、特例適用のために確定申告書へ添付すべき書類を示しています。5,000万円控除を使う場合、代表的には次のような書類が挙がります(案件により追加あり)。
- 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)
- 公共事業用資産の買取り等の申出証明書
- 公共事業用資産の買取り等の証明書
- 収用等の証明書
申告までのステップ(実務の流れ)
Step 1: 契約書・補償明細を分解する
売買代金、移転料、営業補償、家賃減収補償などを内訳ごとに整理します。ここで所得区分が混在していると、譲渡所得の計算が崩れます。
Step 2: 譲渡所得の基本計算を行う
原則は「収入金額(対価)-(取得費+譲渡費用)」で譲渡益を算定します。取得費が不明な古い土地は、売買契約書・登記簿・過去の固定資産税資料などから復元を試みます。
Step 3: 特例(5,000万円控除 or 繰延べ)の適用可否を判定する
- 申出日と契約日(6か月要件)
- 固定資産該当性
- その年に繰延べ特例を使っていないか
- 同一公共事業で年をまたいでいないか
などをチェックします。
Step 4: 申告書類を作成し、添付書類を揃えて提出する
譲渡所得の内訳書(付表・明細書)を作成し、証明書類を添付して所轄税務署へ提出します。電子申告でも添付書類の提出方法(PDF添付や別送)が論点になるため、提出形態に応じて段取りします。
中小企業の税務・経営相談
創業から成長期まで、企業のフェーズに合わせた税務・経営サポートを提供しています。
平日 9:15〜18:15(土日祝休業)
立退き 税金でよくある相談(ケーススタディ)
ケース:土地建物を売却+移転料+営業補償を受け取った
- 土地建物の対価補償金:譲渡所得(5,000万円控除の検討対象)
- 移転雑費・仮住居費:一時所得等になり得る(内容精査)
- 営業補償:事業所得になり得る(事業継続・休業の状況で判断)
現場では、施行者から提示される明細が「補償金一式」のように大括りのこともあります。その場合、あとから税務上の区分に耐えるよう、内訳資料を追加でもらう交渉が必要になることがあります。申告直前では間に合わないため、早期に動くのが鉄則です。
収用の申告で多いミスと注意点
- 「最初の買取り申出日」を勘違いし、6か月要件を外す
- 土地と建物、または複数筆の契約が年をまたぎ、控除の適用年がズレる
- 補償金の税区分を誤り、譲渡所得・事業所得・一時所得が混在したまま申告する
- 取得費資料が不足し、概算取得費(5%)で不利な計算になる
- 特例を使う前提で予定納税や資金繰りを組み、後で控除不可と判明して納税資金が不足する
収用案件は「契約実務」と「税務要件」が密接です。税金だけでなく、契約日程や証明書の発行スケジュールも含めて設計する必要があります。
よくある質問
Q: 収用で受け取った補償金は非課税ですか?
A:
一律に非課税ではありません。土地・建物の対価は原則として譲渡所得の対象になり、移転雑費や営業補償などは内容により一時所得・事業所得等として課税関係が分かれます。補償明細の内訳で税区分を確認します。Q: 収用 5,000万円控除は、居住用の3,000万円控除と併用できますか?
A:
どの特例を適用できるかは、譲渡資産の内容や適用関係(重複適用の可否)で変わります。収用の5,000万円控除は「収用等の特例」として要件が別枠で定められているため、居住用財産の特例との関係は個別判定が必要です。複数特例が想定される場合は、申告前に適用関係を整理するのが安全です。Q: 「買取りの申出日」はどこで確認できますか?
A:
多くの場合、施行者から交付される「公共事業用資産の買取り等の申出証明書」等で確認します。口頭説明だけで判断せず、日付が明記された書面で管理してください。Q: 同じ公共事業で土地を2年に分けて売ると、控除は2回使えますか?
A:
原則として使えません。国税庁の注意事項として、同一公共事業で複数年にまたがって譲渡する場合、5,000万円特別控除は最初の年のみとされています。分筆・契約分割がある場合は、計画段階で税務影響を確認してください。まとめ
- 公共事業の収用・立退きは、補償金の多くが課税対象になり得るため確定申告が重要
- 譲渡所得は原則計算のうえ、5,000万円特別控除または買換え繰延べの選択を検討する
- 5,000万円控除の要件では「最初の申出から6か月」が最大の落とし穴
- 補償金は内訳ごとに税区分が分かれるため、契約書・明細の整理が必須
- 証明書類の発行依頼や契約日程の設計を早めに行うと、適用漏れを防げる
参照ソース
- 国税庁「No.3552 収用等により土地建物を売ったときの特例」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3552.htm
- 国土交通省(九州地方整備局)「公共用地取得に係る税制に関する情報」: https://www.qsr.mlit.go.jp/n-youchi/kokyo-youchi/about/youchi03.html
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
ご注意事項
本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。
税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。
記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。
