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中小企業向けコラム
作成日:2025.04.18
更新日:2026.01.02
辻 光明

執筆者:辻 光明

代表税理士

中小企業のM&A入門|売り手・買い手の進め方を解説

11分で読めます
中小企業のM&A入門|売り手・買い手の進め方を解説

中小企業のM&Aとは(全体像・メリット)

中小企業のM&Aとは、会社や事業を第三者へ引き継ぐ手法であり、売り手にとっては「後継者不在・資金繰り・人材不足」の解決策、買い手にとっては「時間を買う成長戦略」です。一方で、当事者の準備不足や支援者選定のミスにより、条件不利・トラブル・統合失敗が起きやすい点が課題です。

中小企業庁は「中小M&Aガイドライン」を公表し、手続・留意点・トラブル回避策を整理しています。近年は仲介・FA(フィナンシャル・アドバイザー)の契約内容や手数料の分かりにくさ、最終契約後の不履行トラブル等が課題となり、ガイドラインが改訂されています。

中小企業のM&Aでよく使うスキーム(方法)と特徴

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スキーム何を引き継ぐか売り手の特徴買い手の特徴実務上の注意
株式譲渡会社まるごと(権利義務を原則承継)会社の「箱」を渡すため手続が比較的シンプル許認可や契約が継続しやすい簿外債務・偶発債務の見落としに注意
事業譲渡事業の一部(資産・契約を個別移転)会社を残して事業だけ譲れる欲しい事業だけ買いやすい契約・許認可・従業員の承継手続が多い
合併・会社分割等組織再編で引継ぎグループ再編に適する統合や事業整理に有効法務・税務設計の難度が上がる
ここがポイント
中小企業のM&Aは「誰が何をどこまで引き継ぐか」を最初に言語化することが重要です。株式譲渡か事業譲渡かで、契約条項・許認可・税務の論点が大きく変わります。

売り手・買い手の進め方(ステップで理解)

ここでは「一般的な流れ」を、売り手・買い手それぞれの実務に落とし込みます。案件の規模やスキームにより前後しますが、全体像は共通です。

売り手(譲渡側)の進め方

Step 1: 目的・優先順位を決める(譲渡の設計)

  • 何を守りたいか(従業員の雇用、取引先、ブランド、譲渡価格、引継ぎ期間など)を整理します。
  • 価格だけでなく「譲渡後の経営方針」「雇用条件」「役員の処遇」など条件面の優先順位を明確にします。

Step 2: 現状の見える化(資料整備・リスク整理)

  • 直近3期の決算、試算表、資金繰り、主要契約、借入一覧、担保・保証の状況を整えます。
  • ここで重要なのが 秘密保持契約(NDA) を締結する前提で「外に出せる情報・出せない情報」を分けることです。

Step 3: 相手探し(仲介・FA・公的マッチングの活用)

  • M&A専門業者(仲介/FA)を使う場合は、契約形態・手数料算定・利益相反管理を確認します(後述)。
  • 事業承継ニーズの場合、日本政策金融公庫の「事業承継マッチング支援」など、無料の公的色の強いマッチングも選択肢になります。

Step 4: 初期交渉(条件のすり合わせ)

  • ノンネーム資料→企業概要書→トップ面談の順で進むことが多いです。
  • 独占交渉権(一定期間他社と交渉しない約束)の有無、価格レンジ、引継ぎ条件を確認します。

Step 5: 基本合意→DD→最終契約

  • 基本合意は「大枠の方向性」。拘束力の範囲(独占交渉・秘密保持・費用負担など)を必ず確認します。
  • その後に デューデリジェンス(DD) を受け、論点があれば価格・条件が調整されます。
  • 最終的に 最終契約(株式譲渡契約等) を締結し、クロージング(対価支払い・株式移転等)へ進みます。

Step 6: 引継ぎとPMI(統合)

  • 経営権が移って終わりではなく、顧客・従業員・取引先の信頼維持が成否を決めます。
  • 引継ぎ期間、権限移譲、会計・人事・ITの整合を計画します。

買い手(譲受側)の進め方

Step 1: 買収戦略を定義する(条件の型を作る)

  • 目的(地域拡大、機能獲得、人材確保、仕入先確保など)を明確にし、業種・規模・地域・予算・必須条件を定義します。
  • 「買ってから何を実現するか」が曖昧だと、DDで論点が出た際に判断できなくなります。

Step 2: ソーシング(案件探索)

  • 仲介/FAからの紹介、金融機関ルート、同業ネットワーク、公的マッチング等を併用します。
  • 日本政策金融公庫のマッチングのように「譲り渡したい側」と「譲り受けたい側」をつなぐ仕組みもあります。

Step 3: 初期検討(相性・再現性の確認)

  • 強みが自社に移転可能か(キーマン依存、属人性、主要取引先の継続性)を見ます。
  • 引継ぎ後の人材配置や管理体制も同時に検討します。

Step 4: DD設計(見る範囲を決める)

  • 財務・税務・法務・労務・IT・ビジネスDDの範囲と深さを、案件規模に合わせて設計します。
  • DDの結果を踏まえ、価格調整条項、表明保証、補償上限など契約設計に反映します。

Step 5: 最終条件の詰めと資金調達

  • 自己資金だけでなく、金融機関借入、制度融資等を検討します。
  • 重要なのは「買収資金」だけでなく、PMI(統合)に必要な運転資金・投資資金まで含めて資金計画を持つことです。

Step 6: クロージング後のPMI

  • 統合初期(100日プラン等)で、会計方針、権限、稟議、人事評価、システムを整えます。
  • 退職や取引解消など“見えないリスク”が顕在化しやすいフェーズのため、コミュニケーション設計が重要です。

価格・条件交渉の考え方(企業価値評価とデューデリジェンス)

M&Aの交渉は「価格」だけでなく「条件(リスクの配分)」を決める作業です。特に中小企業では、決算書に出ない論点(将来の訴訟、契約解除、未払残業、在庫評価、キーマン退職など)が結果に直結します。

企業価値評価(バリュエーション)の基本

実務では、次の考え方を組み合わせます。

  • 収益力ベース:将来キャッシュフローや利益水準から評価(中小企業では簡便法が多い)
  • 純資産ベース:資産負債を時価評価して算定
  • 類似取引・倍率:EBITDA倍率等を参考にレンジを作る

価格交渉では「評価額の一点」を当てにいくよりも、DDで確認すべき仮説を置き、レンジで合意形成する方が現実的です。企業価値評価(バリュエーション) は“計算”であると同時に“説明”でもあります。

デューデリジェンス(DD)で何を確認するか

  • 財務:売上の実在性、在庫・売掛、実態運転資金、簿外債務
  • 税務:申告リスク、役員報酬・交際費・消費税区分、繰越欠損金の扱い
  • 法務:契約条項(チェンジ・オブ・コントロール等)、許認可、訴訟・紛争
  • 労務:未払残業、社会保険、雇用契約、キーマンの処遇
  • ビジネス:顧客集中、競争環境、収益構造、主要取引先との関係

DDは「買い手のため」だけではありません。売り手側も、事前に論点を洗い出しておくことで、価格下落や交渉の長期化を避けやすくなります。

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失敗を防ぐ注意点(仲介/FA選び・経営者保証・契約)

中小M&Aのトラブルは、手続の難しさそのものより「不透明さ(情報・手数料・責任範囲)」から起きがちです。ここは、ガイドラインの考え方を踏まえて設計することが重要です。

仲介とFAの違い、選び方の要点

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支援形態立ち位置主なメリット主な注意点確認すべき事項
仲介売り手・買い手双方の間に入るマッチング力、手続の推進利益相反が起こり得る手数料算定基準、利益相反管理、重要事項説明
FA依頼者側(売り手または買い手)に専属依頼者利益に寄せやすい片側のため交渉が硬直する場合業務範囲、成功報酬条件、交渉方針
直接交渉当事者同士コストを抑えやすい交渉・契約リスクが高い専門家レビューの有無、契約条項の整備

中小企業庁のガイドラインでは、契約前の書面交付による重要事項説明、手数料(レーマン方式等)の基準価額の考え方の確認など、当事者が押さえるべき点が整理されています。

ここがポイント
支援者選定では「手数料の安さ」より、「業務範囲」「説明責任」「トラブル時の対応」「担当者の経験」を重視した方が、結果として総コスト(時間・条件不利・追加対応)を抑えやすくなります。

経営者保証(個人保証)の扱いは最重要論点

中小M&Aでは、売り手経営者が金融機関借入の経営者保証を付けていることが多く、譲渡後も保証が外れないと「売ったのに終わらない」状態になります。近年は、M&A後に資金流出等を行いながら保証解除をしない不適切な譲受側が問題視されており、当事者・支援者・金融機関で早期に協議する必要性が示されています。

  • 経営者保証の解除等 は、可能な限りM&A成立前から金融機関と相談を開始する
  • 手続上、成立と同時に解除が難しい場合でも、解除までの条件・期限・手順を契約・合意書で具体化する
  • 保証解除が成立しないリスクを織り込んだ条件設計(支払方法、留保金、解除条件等)を検討する

最終契約で揉めやすいポイント(最低限の論点)

  • 表明保証:財務数値、税務申告、法令遵守、紛争有無などの範囲と期間
  • 補償条項:補償上限、免責金額、請求期限、手続
  • 解除条件:重大な悪化、許認可、主要契約解除、融資実行など
  • 競業避止・引抜禁止:売り手の再参入や人材流出の防止
  • 引継ぎ支援:売り手の関与期間、役割、報酬

税理士法人 辻総合会計でも、M&Aの相談では「基本合意で安心してしまい、最終契約で揉める」ケースをよく見ます。基本合意は“入口”であり、DDと契約条項が実質的な勝負所です。

よくある質問

Q: 中小企業のM&Aは、まず何から始めるべきですか? ▼

A:

売り手は「譲渡の目的と優先順位(雇用・価格・引継ぎ期間など)」の整理が最初です。買い手は「買収戦略(業種・地域・規模・予算・必須条件)」を言語化し、案件探索の軸を作ることが重要です。どちらも資料整備と秘密保持の設計(NDA)が初動の品質を決めます。
Q: 価格はどのように決まりますか? ▼

A:

企業価値評価(収益力・純資産・倍率等)でレンジを作り、DDで見つかったリスク(簿外債務、契約解除、労務リスク等)を踏まえて条件が調整されるのが一般的です。価格だけでなく、補償や留保金、支払方法など「リスク配分」も同時に交渉します。
Q: 経営者保証は必ず外れますか? ▼

A:

必ず外れるとは限りません。金融機関の審査・保証協会の関与・買い手の信用力等により判断されます。したがって、早期に金融機関と協議し、保証解除の方針と手順を具体化した上で契約条件に反映することが重要です。

まとめ

  • 中小企業のM&Aは、売り手は「事業の出口」、買い手は「時間を買う成長戦略」だが、準備不足で条件不利になりやすい
  • 売り手・買い手とも、初動で「目的・優先順位/戦略」を言語化し、資料整備とNDAで情報管理を設計する
  • 価格交渉は評価額だけでなく、DD結果を踏まえたリスク配分(補償・留保金・解除条件)が重要
  • 支援者(仲介/FA)の契約・手数料・利益相反管理は必ず確認し、重要事項説明を受ける
  • 経営者保証は最重要論点であり、成立前から金融機関と協議し、解除までの手順を条件化する

参照ソース

  • 中小企業庁「中小M&Aガイドライン」: https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/m_and_a_guideline.html
  • 中小企業庁「M&A時の経営者保証(資料)」: https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/ma_shijou/003/004.pdf
  • 日本政策金融公庫「事業承継マッチング支援」: https://www.jfc.go.jp/n/finance/jigyosyokei/matching/index.html

この記事を書いた人

辻 光明

辻 光明

代表税理士

税理士 / 認定経営革新等支援機関

税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。

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