
執筆者:辻 光明
代表税理士
顧問税理士トラブル事例と解決方法|税理士が解説

顧問税理士とのトラブルは、多くの場合「どこまでが税理士の業務で、どこからが会社側の責任か」が曖昧なまま運用が進み、期限やお金、コミュニケーションのズレとして表面化します。経営者にとっての問題は、単なる不満ではなく、申告期限・資金繰り・税務調査対応など経営インフラに直結する点です。本記事では、典型的なトラブル事例と原因を整理したうえで、予防策と解決の手順、税理士変更の実務までをまとめます。
顧問税理士トラブルとは(定義と起こりやすい背景)
顧問税理士トラブルとは、税務・会計の委託関係において、期待値や契約条件の不一致が原因で、業務品質・納期・費用・情報共有・引継ぎ等で対立が生じる状態を指します。
起こりやすい背景は次の3つです。
- 業務範囲(スコープ)が口約束で、追加作業の線引きがない
- 記帳代行・給与計算・年末調整・償却資産・各種届出など、周辺業務が増えやすい
- 会社側の資料提出が遅れ、結果として申告直前に負荷が集中する
税理士法人 辻総合会計でも、トラブル相談の多くは「当初は小さな違和感だったが、繁忙期に一気に不信へ転じた」という経過をたどります。
トラブル事例:顧問税理士と揉める典型パターン
事例1:連絡が遅い・報告がない(レス遅延、月次が出ない)
- 月次試算表が翌々月以降になる
- 資金繰り判断に必要な数字が揃わない
- 質問への回答が遅く、意思決定が止まる
原因は、担当者のキャパシティ、資料受領の遅れ、業務フロー未整備のいずれか(または複合)であることが大半です。
事例2:ミスが多い・税務リスクが顕在化(追徴・加算税の不安)
- 勘定科目の誤り、消費税区分の誤り、固定資産計上漏れ
- インボイス対応・電子帳簿保存法対応が後手になる
- 税務調査で指摘を受け、社内から不満が噴出する
このタイプは「品質管理の仕組みがあるか(レビュー体制、チェックリスト、論点管理)」が分岐点です。
事例3:費用が想定より高い(顧問料と追加報酬の衝突)
- 「年末調整は別料金」「税務調査立会は日当」などが後出しに見える
- 決算前に追加請求が発生し、追加報酬の妥当性で揉める
本質は、見積条件と前提(仕訳量、資料の整い具合、訪問回数、オプション業務)が共有されていないことです。
事例4:申告期限・納税管理の責任が曖昧(期限直前のバタつき)
- 会社側の資料不足を理由に、申告が直前まで確定しない
- 延長申請や修正申告の提案が遅い
- 「誰が何をいつまでにやるか」が曖昧で、期限管理が崩れる
会社側に必要なのは「資料提出期限」と「論点確定の締切」を税理士と合意して運用することです。
事例5:税務調査対応の方針が合わない(守りと攻めの不一致)
- 争点に対する説明方針(保守的/主張する)が合わない
- 事前準備(資料整備、想定問答、修正見込み)に温度差がある
税務調査は、税理士の技術だけでなく経営者のリスク許容度も反映されるため、事前の方針共有が不可欠です。
事例6:解約時に資料・データが返ってこない(引継ぎトラブル)
- 会計データ、証憑、決算書一式、届出控えが揃わない
- 後任税理士への受け渡しが進まず、業務が止まる
- 「どこまでが顧問先の所有物か」で揉める
トラブル原因の整理:契約・運用・体制の3層
トラブルは「相性」ではなく、構造の問題として整理すると解きやすくなります。
| 層 | 典型的な原因 | 会社側の打ち手 | 税理士側に求めること |
|---|---|---|---|
| 契約 | 業務範囲・成果物・費用条件が曖昧 | 顧問契約書/業務一覧を文書化 | 追加業務の定義・単価表の提示 |
| 運用 | 月次締め・資料提出・連絡ルールがない | 期限と担当を固定し、定例化 | レビュー工程・論点管理の可視化 |
| 体制 | 担当者依存・引継ぎ不全 | 会社側の窓口一本化 | 担当変更時の引継ぎ手順 |
また、制度面では税理士には法律上の義務や懲戒処分があり、一定の規律が働く点も押さえておくと、冷静に交渉できます。以下は公表されている「税理士・税理士法人に対する懲戒処分等件数」の推移例です(会計年度)。
| 会計年度 | 処分等件数 |
|---|---|
| 令和2 | 22 |
| 令和3 | 21 |
| 令和4 | 13 |
| 令和5 | 38 |
| 令和6 | 64 |
解決方法:揉める前の予防策と、揉めた後の収束手順
予防策:顧問契約で必ず明確化したい項目
- 業務範囲(スコープ):記帳、申告、年末調整、給与計算、届出、相談回数など
- 成果物と納期:月次試算表の提出日、決算スケジュール、面談頻度
- 追加業務の定義と追加報酬:税務調査立会、融資資料、株価算定、M&A支援等
- 会社側の責任:資料提出期限、承認フロー(役員会承認など)
- データの帰属と引継ぎ:会計ソフトの名義、バックアップ、資料返却期限
ポイントは「揉めたときに判断できる文章」があるかどうかです。期待値を“運用ルール”に落とし込みます。
揉めた後の収束手順(実務の進め方)
Step 1: 事実と論点を分解して整理する
感情ではなく、(1)出来事、(2)合意内容、(3)証拠(メール・議事録・請求書)に分けます。特に「いつまでに何を出す約束だったか」を時系列で作ると交渉が前進します。
Step 2: 要求を3段階に落とす(最低限/妥協案/理想)
例:月次の納期を固定したい、追加請求の根拠を明示してほしい、担当変更してほしい、など。ゴールを曖昧にしないことが重要です。
Step 3: 面談で合意形成し、議事メモを残す
口頭合意で終わらせず、決まったこと(期限、担当、費用)をその日のうちにメールで確認します。期限管理はここで再設計します。
Step 4: 改善が見込めない場合は、段階的に解約準備へ
- 会計データのバックアップ取得
- 届出控え・申告書一式・総勘定元帳等の受領
- 後任税理士の選定(引継ぎが得意か、業界理解があるか)
Step 5: 必要に応じて第三者を介在させる
当事者間で平行線の場合、後任税理士による引継ぎ会議、弁護士への相談(契約・損害の論点整理)など、争点を「技術論」と「契約論」に切り分けると収束しやすくなります。
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税理士変更の進め方と注意点(権限証書・データ移管)
税理士を変更する場合、実務上の要所は「税務代理の委任関係」と「データ・書類の移管」です。
- 税務署対応で税理士が代理する場合、税務代理権限証書等の手続が関係します。新旧の税理士でどの範囲を委任しているかを整理し、提出状況を確認します。
- 会計ソフトの名義(会社名義か税理士名義か)で移管の難易度が変わります。会社名義に寄せ、閲覧権限を税理士に付与する形が、将来の変更にも強い運用です。
- 引継ぎの最低限セット:直近2期分の申告書・総勘定元帳・固定資産台帳・消費税集計・届出控え・電子申告関連(利用者識別番号等)を揃えます。
税理士変更は「揉めてから」ではなく、「業務が安定している時期」に着手する方がリスクとコストを抑えられます。
よくある質問
Q: 顧問税理士に不満がある場合、まず何から始めるべきですか?
A:
まずは不満を「事実」と「要望」に分け、(1)遅延している成果物、(2)費用の論点、(3)ミスの内容を時系列で整理します。そのうえで、月次納期・追加報酬・担当体制など、改善してほしい項目を具体的に提示すると建設的に進みます。Q: 税理士を変えると税務署対応で不利になりますか?
A:
通常、税理士変更それ自体が不利になることは一般的ではありません。ただし、申告直前や税務調査中は引継ぎ不足が実害になり得ます。変更時は税務代理権限証書の範囲確認と、申告・届出・電子申告関連情報の移管を優先してください。Q: 解約時に会計データや資料を渡してもらえない場合はどうすればよいですか?
A:
まず契約書やメールで合意した範囲を確認し、返却対象(原本・コピー・データ形式)と期限を文書で指定します。並行して、会社側で入手可能なデータ(銀行明細、請求書控え、クラウドの閲覧権限)を確保し、後任税理士と復旧計画を立てるのが現実的です。Q: 税理士に重大な不正や背任が疑われる場合の相談先は?
A:
個別事案は証拠の整理が前提となるため、まず弁護士等へ相談し、契約・損害・刑事の論点を切り分けることを推奨します。税理士には法律上の規律があり、行政側で公表される懲戒処分等もありますが、実務では「証拠に基づく整理」が最優先です。まとめ
- 顧問税理士トラブルの多くは、業務範囲(スコープ)と運用ルールの曖昧さが原因
- よくある火種は、レス遅延、品質問題、追加報酬、期限管理、引継ぎ
- 収束には、事実整理→要求の明確化→文書での合意→段階的な解約準備が有効
- 税理士変更時は、税務代理権限証書の範囲確認とデータ移管が要点
- 平時から引継ぎ資料を会社側で保管する運用が、最大の予防策
参照ソース
- 国税庁「税務代理の権限の明示」: https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/zeirishi/annai/001.htm
- 国税庁「税理士等に対する懲戒処分等」: https://www.nta.go.jp/taxes/zeirishi/chokai/chokai.htm
- e-Gov法令検索「税理士法」: https://laws.e-gov.go.jp/document?lawid=326AC1000000237
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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