
執筆者:辻 光明
代表税理士
試用期間の設定方法と解雇注意点|専門家が実務解説・トラブル予防

試用期間とは?設定の結論(誰にとって何が問題か)
試用期間とは、採用後に職務適性や就業姿勢を見極めるための「確認期間」です。ただし、試用期間中でも労働契約は成立しており、「合わないからすぐ解雇」が許されるわけではありません。特に中小企業・クリニック等では、採用の失敗を早期に是正したい一方で、手続や記録が不足して紛争化しやすいのが実務上の課題です。本記事では、試用期間の設計(条文・運用)と、解雇・本採用拒否に踏み込む場合の注意点を、現場の運用に落とし込んで整理します。
試用期間の設定方法(就業規則・雇用契約の作り方)
期間は何か月が妥当?「短すぎ・長すぎ」を避ける
試用期間は法律で一律の上限が決まっているわけではありませんが、一般的には「3か月」を基準に、職種や教育期間に応じて「6か月まで」を検討する運用が多い印象です。重要なのは、期間そのものより、期間内に「何を見て」「どう判断するか」を説明できる設計にすることです。
一方、合理性を欠く長期の試用期間は無効と評価される可能性があるため、「最長○か月」「延長は例外的に○回まで」など、見極めに必要な範囲へ収める設計が安全です。
規定はどこに書く?(就業規則と雇用契約の役割分担)
- 雇用契約書(労働条件通知書)
- 試用期間の有無、期間、延長の可能性
- 試用期間中の賃金・手当・勤務地など(本採用と異なる場合は必ず明示)
- 就業規則
- 試用期間の趣旨(適性判断)
- 本採用・不採用(本採用拒否)・解雇の判断基準
- 指導・評価・改善機会の付与、面談、配置転換等の手順
評価基準を曖昧にしない(人事考課より「最低限の合格ライン」)
試用期間で問題になるのは、能力の優劣というより「最低限の就業ができるか」です。以下のように、客観化しやすい項目を中心に設計します。
- 勤怠:遅刻・欠勤・無断欠勤、報連相の有無
- 規律:就業規則・情報管理・ハラスメントリスク
- 業務遂行:基本手順の理解、指示の再現性、ミスの頻度と改善
- 協調性:チーム業務での協働、患者対応・顧客対応(業種による)
評価項目は「行動」と「事実」で書くことが重要です。「やる気がない」ではなく「指示した手順書の確認を3回求めたが未実施」など、記録可能な表現にします。
試用期間の延長・短縮・本採用の考え方
延長できる条件(延長条項+合理的理由+説明)
延長を想定する場合は、就業規則・雇用契約に「延長する場合がある」旨と条件(例:欠勤が多く評価期間が不足、配置転換後の再評価が必要等)を置き、延長時には以下を必ず実施します。
Step 1: 延長理由を事実で整理する
欠勤日数、指導履歴、配置転換の経緯など、「なぜ評価が終わらないか」を文書化します。
Step 2: 改善計画(期限・到達点)を示す
いつまでに、何ができれば本採用かを明確化します(例:患者対応のクレームゼロを目標ではなく、受付手順の遵守率、指示復唱の徹底などプロセス目標へ)。
Step 3: 本人へ説明し、面談記録を残す
説明の事実(日時・同席者・本人コメント)を残します。
Step 4: 最終評価は“延長前と同じ基準”で行う
基準の後出しは紛争化しやすいので避けます。
本採用の自動移行を前提にする
運用上は「一定期間が経過すれば本採用(例外的に不採用)」とし、例外判断のハードルを上げる方が管理しやすい設計です。試用期間満了時点で毎回“合否審査”を行う運用は、手続漏れ・説明不足が起きやすくなります。
試用期間中の解雇・本採用拒否はどこが違う?(比較表)
試用期間の終了局面は、実務では「本採用拒否(満了時)」と「試用期間中の解雇(途中)」が混同されやすいポイントです。どちらも会社都合で雇用を終了させる点で共通し、合理的理由と社会通念上の相当性、手続の適正が強く問われます。
| 区分 | 典型場面 | 実務上の要点 | 会社側の失敗例 |
|---|---|---|---|
| 試用期間中の解雇 | 入社後早期に重大な規律違反、勤怠不良等 | 原則は解雇手続。14日超なら解雇予告等も要検討 | 口頭通告のみ、証拠・記録なし |
| 本採用拒否(試用期間満了) | 指導しても改善せず、適性なしと判断 | “改善機会”と“評価基準”の説明が鍵 | 基準が曖昧、指導実績ゼロ |
| 退職勧奨 | 会社は辞めてほしいが強制は避けたい | 自由意思の確保、威迫的言動は厳禁 | 長時間拘束、同意書の強要 |
中小企業の税務・経営相談
創業から成長期まで、企業のフェーズに合わせた税務・経営サポートを提供しています。
平日 9:15〜18:15(土日祝休業)
解雇時の注意点(14日ルール、予告、理由書、記録)
まず押さえる大原則:解雇は自由ではない
解雇は「客観的に合理的な理由」を欠き、「社会通念上相当」と認められない場合は無効となり得ます。試用期間中でもこの枠組みは変わりません。したがって、実務は「理由の中身」と「手続」の二段構えで整えます。
14日ルール:試用期間でも“いつでも即日解雇”ではない
試用期間中であっても、入社後14日を超えて引き続き使用している場合、解雇する際には解雇予告手続(原則30日前予告または手当)が必要となる点に注意が必要です。
この「14日」のラインは、初動の判断を遅らせると手続負担が増える、という意味でも重要です。
解雇予告(30日前)または解雇予告手当
解雇の際には、少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払う必要があります。予告日数が不足する場合は不足分の手当が必要です。たとえば10日前予告なら不足20日分を支払います。
また、労働者から解雇理由証明書の請求があれば、会社は速やかに交付する必要があります。
実務で必須の「記録」セット(後から作らない)
紛争の多くは、「本当に問題があったか」より「会社はどう対応したか」で負けます。最低限、次の記録を揃えます。
- 勤怠実績(客観資料)
- 指導メモ(いつ、誰が、何を、どう指導したか)
- 改善要請(期限・到達点)
- 面談記録(本人の発言も含む)
- 配置転換・業務変更の検討記録(可能性を検討した事実)
- 注意書・懲戒手続に至らない場合でも、段階的対応の履歴
匿名ケース(よくある相談)
入社1か月の受付スタッフで、遅刻が週2回、無断欠勤が1回。口頭注意のみで改善せず、院長が感情的に「明日から来なくていい」と通告。結果として、解雇理由の特定ができず、勤怠の証憑も整っていなかったため、解雇無効や賃金請求のリスクが高まりました。
同じ事案でも、勤怠の事実整理→書面注意→改善期限→面談記録→それでも改善なし、という流れがあれば、説明可能性は大きく変わります。
よくある質問
Q: 試用期間中なら、能力不足を理由にすぐ解雇できますか?
A:
できるとは限りません。試用期間中でも労働契約は成立しており、解雇は合理的理由と社会通念上の相当性が求められます。能力不足の場合は、指導・配置転換などの検討と、その記録が重要です。Q: 入社から14日以内なら、解雇予告(30日前)なしで解雇できますか?
A:
14日以内の「試用」等に該当する場合、解雇予告手続が不要となるケースがありますが、14日を超えて引き続き使用した場合は解雇予告手続が必要になる点に注意が必要です。実務では、該当性判断を含めて慎重に運用してください。Q: 本採用拒否は「解雇」と違いますか?
A:
呼び方が違っても、会社都合で雇用を終了させる点は同じで、合理的理由や手続の適正が問われます。満了時の本採用拒否であっても、評価基準・指導履歴・改善機会の提示が重要です。Q: 解雇理由証明書を請求されたら、何を書けばよいですか?
A:
事実に基づいて、具体的な理由(いつ、何が、どの規程に抵触し、どんな指導をしたか)を簡潔に記載します。主観的評価だけの記載は避け、勤怠や面談記録と整合させるのが実務的です。まとめ
- 試用期間でも労働契約は成立しており、解雇・本採用拒否は自由ではない
- 期間設計は3か月基準、延長するなら条件・手順・記録をセットで整える
- 評価基準は「行動・事実」で客観化し、指導と改善機会の提示を組み込む
- 14日を超えて継続使用した場合、解雇予告手続が必要となる点に注意する
- 紛争予防の鍵は、勤怠・指導・面談・改善計画などの記録を“その都度”残すこと
参照ソース
- 厚生労働省「労働契約の終了に関するルール」: https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouseisaku/chushoukigyou/keiyakushuryo_rule.html
- 沖縄労働局「労働相談事例 採用Q3」: https://jsite.mhlw.go.jp/okinawa-roudoukyoku/yokuaru_goshitsumon/jigyounushi/careers_question_3.html
- 厚生労働省「確かめよう労働条件(裁判例:試用期間)」: https://www.check-roudou.mhlw.go.jp/hanrei/shogu/shiyou.html
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
ご注意事項
本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。
税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。
記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。
