
執筆者:辻 光明
代表税理士
決算直前にできる節税対策10選|税理士が解説

決算直前の節税は、「今年の利益を必要な支出に適正に振り替え、税負担を平準化すること」です。問題になりやすいのは、焦って支出を増やした結果、資金繰りが悪化したり、証憑不足で税務調査で否認されたりする点です。そこで本記事では、決算間際でも実行しやすい対策を10個に絞り、優先順位と注意点まで整理します。
決算直前の節税とは
決算直前に検討する節税は、基本的に「当期に損金(経費)として認められる支出・処理」を積み上げる作業です。重要なのは、節税=キャッシュを減らすとは限らない点です。未払計上が認められる類型もありますが、要件が厳格なため、証拠と手続の設計が不可欠になります。
当法人(税理士法人 辻総合会計)では、クリニック・中小企業を中心に決算前の駆け込み相談が毎年増えます。結論としては「やるべき順番」と「やってはいけない線引き」を決めると、短期間でも失敗が減ります。
決算直前にできる節税対策10選
1. 少額減価償却資産の特例(30万円未満)の活用
中小企業者等は、一定要件のもと、取得価額30万円未満の減価償却資産を、事業の用に供した年度に損金算入できる特例があります(年300万円まで等の上限あり)。対象期間(適用期限)もあるため、購入日だけでなく「事業の用に供した日」を意識してください。
ポイントは、「決算日までに利用開始」できるかどうかです。届いたが未使用、設置未了は否認リスクになります。
2. 10万円未満の消耗品・備品を「消耗品費」で適正処理
金額が小さい備品やPC周辺機器、事務用品などは、社内の経理ルールに沿って消耗品費処理が可能な場合があります。ここで重要なのは「必要性」と「事業使用の実態」です。過度な駆け込み購入は、内部統制面でも説明が難しくなります。
3. 短期前払費用(1年以内)の前倒し
保守料、サブスク、家賃の一定部分など、継続的役務に関する前払費用でも、支払日から1年以内に提供を受ける役務で、かつ継続して当期損金処理している場合は、支払時点での損金算入が認められる取扱いがあります。
実務上は、契約書・請求書・支払証憑に加え、「毎期同様の処理をしている」ことが重要です。
4. 決算賞与(使用人賞与)の未払計上
決算賞与は、要件を満たせば「翌期支払でも当期損金」とできる代表的な手段です。国税庁の整理では、(1)各人別に支給額を通知、(2)事業年度終了日の翌日から1か月以内に支払、(3)当期に損金経理、といった要件を満たす類型があります。
ポイントは「通知の証拠(メール・書面)」「支払期限管理」「当期損金経理(未払計上)」です。
5. 修繕費の前倒し(資本的支出との線引き)
設備の修理、内装の補修などは、決算前に実施しやすい項目です。ただし、支出内容によっては資産計上(資本的支出)となり、当期に全額費用化できない場合があります。見積書段階で内容を分解し、写真・作業報告・契約書で「原状回復・維持管理」であることを説明できるようにします。
6. 不要在庫の処分・廃棄、棚卸の適正化
滞留在庫や使用予定のない材料・備品は、実態に合わせて処分し、棚卸数量と評価を適正化します。廃棄証明(廃棄依頼書、写真、産廃マニフェスト等)を残すと説明力が上がります。帳簿上だけ減らす行為はリスクが高いので避けてください。
7. 回収不能債権の整理(貸倒処理の検討)
長期滞留の売掛金・未収入金について、回収見込みを再評価し、法的手続や相手先状況を踏まえた整理を行います。貸倒処理は要件が厳しいため、弁護士・回収会社の記録、督促履歴、相手の破産等の客観資料を揃えることが前提です。
8. 福利厚生費の「対象範囲」と「社内規程」の整備
健康診断、予防接種、社内研修、慶弔見舞金など、福利厚生は「全従業員を対象」「社会通念上相当」「規程に基づく」などの整理が重要です。決算前に制度を整える場合は、就業規則や社内規程、運用ルール(対象者・上限・申請方法)を同時に整備します。
9. 研修費・資格取得支援・外部セミナーの実施
決算前に実施しやすく、かつ将来の生産性向上にもつながる支出です。参加記録、研修資料、議事録を残し「事業関連性」を説明できる形にしておきます。オンライン研修の場合も、受講完了日が決算日をまたぐと費用計上時期が論点になります。
10. 広告宣伝・採用費の前倒し(成果物と実施日を明確に)
Web広告、採用媒体、制作物などは、決算前に実施・納品が完了していれば当期費用となりやすい一方、前払や未提供部分が混在しやすい領域です。成果物(バナー、原稿、掲載レポート)、掲載期間、請求の内訳を整理し、短期前払費用の対象になるかも含めて検討します。
どれを優先すべきか:効果とリスクの比較
決算直前は「時間不足」が最大の制約です。下表のように、即効性と否認リスクで棚卸しすると、打ち手の順序が決まります。
| 施策 | キャッシュ影響 | 実行難易度 | 否認リスク | 決算直前の相性 |
|---|---|---|---|---|
| 少額減価償却資産(30万円未満) | 高い(支払あり) | 低〜中 | 中 | 良い(供用が鍵) |
| 短期前払費用 | 中(支払あり) | 中 | 中〜高 | 良い(継続要件) |
| 決算賞与(未払計上) | 低〜中(支払は翌期) | 中〜高 | 高 | 条件付きで強い |
| 修繕費 | 中(支払あり) | 中 | 中 | 良い(線引き注意) |
| 在庫処分・棚卸適正化 | 低〜中 | 中 | 中 | 良い(証拠が鍵) |
実行手順(決算2〜4週間前からの進め方)
Step 1: 当期利益の着地見込みを確定する
月次の精度を上げ、前年差異の要因(売上、粗利、人件費、特損)を分解します。
Step 2: 10施策を「実行可能・要件あり・来期向き」に仕分ける
決算日までに完了できるものだけを当期枠に入れます。特に証拠が残るかで判定します。
Step 3: 証憑セットを先に作る(契約書・稟議・通知・写真)
決算賞与は通知、短期前払費用は契約条件、資産は供用記録が要です。
Step 4: 会計処理と税務論点を同時にチェックする
未払計上の可否、資産計上の要否、消費税区分を同時に確認し、仕訳の手戻りを防ぎます。
中小企業の税務・経営相談
創業から成長期まで、企業のフェーズに合わせた税務・経営サポートを提供しています。
平日 9:15〜18:15(土日祝休業)
注意点・否認されやすいポイント
- 形式だけ整えて実態が伴わない(未使用資産、未提供サービス、在籍条件付きの賞与通知など)は否認リスクが高いです。
- 期ズレ(当期費用にしたいのに、納品・提供・供用が翌期)が最頻出の論点です。
- 決算賞与は「通知」「1か月以内支払」「損金経理」のどれか1つ欠けるだけで当期損金にならない可能性があります。
よくある質問
Q: 決算直前にPCを買えば、必ず当期の経費になりますか?
A:
取得価額や処理ルールによります。中小企業者等の特例(30万円未満の少額減価償却資産)は「事業の用に供した」ことが重要です。購入しただけで未使用の場合は注意が必要です。Q: 短期前払費用は、今期だけまとめ払いしても大丈夫ですか?
A:
原則は前払費用ですが、一定の要件(支払から1年以内の役務、継続処理など)を満たす場合に限り、支払時損金が認められます。今期だけ処理を変えるとリスクが上がります。Q: 決算賞与を翌期に払っても当期の損金にできますか?
A:
一定の類型では可能ですが、各人別の支給額通知、翌日から1か月以内の支払、当期損金経理などの要件を満たす必要があります。運用設計と証拠保全が前提です。まとめ
- 決算直前の節税は「当期損金として認められる支出・処理」を要件どおり積む作業
- 優先度が高いのは、少額減価償却資産、短期前払費用、決算賞与(要件厳格)
- 成否は「供用・提供・通知・支払期限」など期ズレ論点の管理で決まる
- 駆け込み購入より、証憑と手続を整えた上で実行することが重要
- 個別事情で最適解が変わるため、着地見込みとセットで税理士に確認する
参照ソース
- 国税庁「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5408.htm
- 国税庁「短期前払費用として損金算入ができる場合」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5380.htm
- 国税庁「使用人賞与の損金算入時期」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5350.htm
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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