
執筆者:辻 光明
代表税理士
YouTuberの確定申告と経費の判断軸|税理士が解説

結論:確定申告の成否は「所得区分」と「経費の根拠」で決まる
YouTuber・インフルエンサーの確定申告で最もつまずきやすいのは、事業所得なのか(または雑所得なのか)という「所得区分」と、経費計上の「根拠(業務関連性・按分・証憑)」の作り方です。特に自宅撮影や私物ガジェットの利用が多いほど、家事按分と領収書・保存が税務上の論点になりやすくなります。
税理士法人 辻総合会計でも、広告収入・企業案件・物販・オンラインサロン等が混在するクリエイター案件では、最初に「収益の棚卸し」と「証憑設計」を行い、申告の再現性を高める支援が中心になります。
YouTuber・インフルエンサーの収入と申告が必要になる目安
YouTuber・インフルエンサーの収入は、概ね次のように分類できます(実際は複数が同時に発生します)。
- プラットフォーム広告収入(動画広告、リール等の収益分配)
- 企業案件(投稿・出演・制作費、タイアップ)
- アフィリエイト(成果報酬)
- 投げ銭・サブスク(メンバーシップ、ギフティング)
- 物販・デジタル商品(グッズ、教材、テンプレ等)
- 出演料・講演料
申告が必要になるかは「所得(利益)」が基準です。会社員の副業として行う場合、一般的には「副業の所得が一定額を超えると申告が必要」という理解で進められますが、収入形態・控除・他の所得状況で変動します。迷う場合は、まず「年間収入」と「経費」を月次で集計し、利益がどの程度出ているかを把握してください。
事業所得と雑所得の違い:どちらで申告すべきか
YouTuber等の収入は、状況により事業所得または雑所得(業務に係る雑所得を含む)になり得ます。実務上は「継続性」「営利性」「反復性」「規模」「記帳体制」などを踏まえて判断します。
- 事業所得:事業として営む所得。帳簿・管理が整い、反復継続して収益を得ている状態を想定
- 雑所得:他の所得に当てはまらない所得。副業的・規模が小さい場合に該当しやすい
判断に迷う人向けに、実務での整理表を置きます(最終判断は個別事情です)。
| 項目 | 事業所得になりやすい | 雑所得になりやすい |
|---|---|---|
| 活動の規模 | 収益が安定し、継続的に拡大 | 単発・小規模、収益が不安定 |
| 体制 | 記帳・請求・契約が整備 | 記録が散発、証憑が弱い |
| 時間投下 | 週次で制作・運用が固定化 | 余暇的、投稿頻度が低い |
| 収益源 | 広告+案件+物販など複合 | 広告のみ等、限定的 |
| リスク | 先行投資(機材等)を行う | 先行投資が少ない |
ポイントは、「どちらが得か」から入るのではなく、実態に沿って説明可能な区分を選び、経費の根拠と帳簿を整えることです。所得区分を誤ると、青色申告の適用可否や、損失の扱い等に波及します。
経費になるもの・ならないもの:判断軸と具体例
経費(必要経費)は、基本的に「収入を得るために直接必要だった支出」が対象で、私生活の支出は含められません。私用と混在する支出は、業務分を合理的に区分して計上します(家事按分)。必要経費の原則や家事関連費の考え方は国税庁の整理に沿って設計するのが安全です。
経費になりやすい例(YouTuber/インフルエンサー実務)
- 機材:カメラ、マイク、照明、三脚、キャプチャボード等(取得価額によって減価償却の可能性)
- ソフト・クラウド:編集ソフト、BGM/素材サブスク、ストレージ、生成AIツール等
- 外注費:編集、サムネ、台本、撮影補助、翻訳、ナレーション
- 通信費:回線、モバイル、サーバー等(私用混在は按分)
- 交通費:撮影・取材・打合せの移動(目的・日時・相手先が説明できる形で記録)
- 接待交際費:案件の打合せ等(私的飲食との差が出やすいので慎重に)
- 事務用品:消耗品、梱包材、名刺等
経費になりにくい例(否認されやすい)
- 私用が中心の衣服(撮影用を主張しても説明が難しいケースが多い)
- 家族旅行・私的レジャー(撮影を付け足しただけでは弱い)
- 個人的嗜好品(趣味の収集、プライベート利用が濃いもの)
- 所得税・住民税(税金そのものは原則として経費になりません)
ガジェット・機材は一括経費ではない:減価償却と少額資産の扱い
YouTuberは高額機材が多く、ここが最も誤りやすい論点です。取得価額に応じて、当年経費にできるか、減価償却で複数年配分するかが変わります。
- 使用可能期間が1年未満、または取得価額が10万円未満:原則、使用開始した年の経費
- 取得価額が10万円以上20万円未満:要件を満たせば3年間で均等償却(いわゆる一括償却資産)
- 青色申告など一定要件:取得価額10万円以上30万円未満について、一定範囲で当年経費算入できる特例(上限等あり)
「機材を買った年に全部落としたい」というニーズは多いのですが、制度に沿って処理しないと後で修正が必要になります。購入時点で「取得価額」「使用開始日」「私用混在の有無」をセットで管理してください。
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確定申告の手順:集計から提出まで(YouTuber向けの最短ルート)
申告を“イベント”ではなく“運用”にすると、経費の根拠が強くなります。最短ルートは次の流れです。
Step 1: 収益の棚卸し(プラットフォーム別に集約)
広告収入、案件、アフィリエイト、投げ銭、物販を「入金ベース」ではなく「発生ベースで一覧化」します。源泉徴収がある場合は、支払調書や明細を確保します。
Step 2: 経費を科目ごとに集計し、家事按分ルールを固定
通信費、家賃、光熱費、機材、外注費などを科目別にまとめます。家事按分は「面積」「時間」「利用回数」など、説明可能な指標で固定し、毎年同じロジックで計上します。
Step 3: 減価償却台帳を作る(10万円以上は要注意)
10万円以上の機材は、原則として減価償却の対象になり得ます。購入日・使用開始日・取得価額・用途割合(私用混在)を台帳化します。
Step 4: 青色/白色を決め、帳簿と証憑を整備
青色申告はメリットが大きい一方、帳簿要件があります。白色でも記帳・保存は必須です。月次で「通帳・カード明細・領収書」を紐付け、税務署に説明できる状態を作ります。
Step 5: e-Tax等で申告書を作成し提出
国税庁の「確定申告書等作成コーナー」等を用いると、作成〜送信まで一連で完結できます。提出後も、帳簿・証憑の保存が重要です。
インボイス・消費税・源泉徴収:案件が増えるほど重要になる周辺論点
規模が大きくなるほど、所得税だけでなく消費税・インボイス・源泉徴収の論点が前面に出ます。
- 企業案件で「適格請求書(インボイス)」を求められることがある
- 免税事業者か課税事業者かで、請求・入金・経理処理が変わる
- 源泉徴収されている報酬は、確定申告で精算(還付または追納)になることがある
案件が増えてきた段階で、契約書(業務委託の範囲、著作権、経費負担)と請求書運用を見直すと、税務だけでなくキャッシュフローも安定します。
よくある質問
Q: 自宅の家賃や光熱費はどこまで経費にできますか?
A:
私用と業務が混在するため、業務で必要な部分を合理的に区分できる範囲に限られます。撮影部屋の面積割合、業務利用時間など、第三者に説明できる基準を決め、毎年同じ基準で家事按分して計上するのが実務上安全です。Q: カメラやPCは買った年に全額経費にできますか?
A:
取得価額や要件により異なります。原則として10万円以上は減価償却で複数年配分になりますが、10万円未満の資産や一定要件下の特例等で当年経費にできる場合もあります。購入時点で取得価額・使用開始日・私用混在の有無を記録し、処理を統一してください。Q: 企業案件の報酬が源泉徴収されているのに、追加で税金が発生することはありますか?
A:
あります。源泉徴収は「前払い」の性格で、年間の所得(利益)や他の所得、控除状況を合算して最終税額が決まります。源泉徴収が多ければ還付、足りなければ追納になります。まとめ
- YouTuber・インフルエンサーの確定申告は「所得区分」と「経費の根拠」が核心
- 経費は業務関連性が説明できることが前提で、私用混在は家事按分が必要
- 機材は取得価額により減価償却となり、処理誤りが起きやすい
- 月次で収益・経費・証憑を紐付けると、申告の再現性と税務耐性が上がる
- 案件増加局面ではインボイス・消費税・源泉徴収まで含めて運用設計する
免責事項 本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別具体的な状況に対する税務判断を保証するものではありません。所得区分や経費性は事実関係により結論が変わります。最終的な判断は、資料を整理した上で税理士等の専門家にご相談ください。
参照ソース
- 国税庁「No.2210 必要経費の知識」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2210.htm
- 国税庁「No.2100 減価償却のあらまし」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2100.htm
- 国税庁「主な国税の納期限(法定納期限)及び振替日」: https://www.nta.go.jp/taxes/nozei/nofu/24200042/noufu_kigen.htm
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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