
執筆者:辻 光明
代表税理士
自宅兼事務所の経費按分2026年版|根拠づくりを税理士解説

自宅の一部を事務所にする場合、経費は「全部」ではなく、業務に使った分だけを合理的に区分して計上するのが原則です。問題になりやすいのは、按分割合の根拠が弱いまま家賃・光熱費などを計上し、後から説明できないケースではないでしょうか。本記事では、家事按分の基本、費目ごとの按分方法、証拠の作り方、個人と法人の違いまで、実務目線で整理します。
自宅兼事務所の経費按分(家事按分)とは
自宅の費用には「生活」と「事業」が混在します。税務上は、家事上の費用は原則として必要経費になりませんが、生活と事業の両方に関係する支出は「家事関連費」として、業務に直接必要であった部分を区分できる範囲で必要経費にできます。
ポイントは「区分できること」です。感覚で「だいたい3割」ではなく、面積・時間・利用実態などから、第三者に説明できるロジックに落とし込みます。税理士法人 辻総合会計でも、在宅ワーク増加に伴い自宅兼事務所の相談が増えていますが、否認を防ぐ鍵は按分根拠の文書化にあります。
按分できる費用・できない費用の違い
自宅兼事務所でよく按分対象になるのは、住居の維持に伴う費用と通信費です。一方で、個人的な消費や、事業との関係を区分できない支出は対象外になりやすいです。
| 費目 | 按分の可否 | 実務の目安(根拠の作り方) |
|---|---|---|
| 家賃(賃貸) | 可 | 事業使用面積比(例:事務所スペース㎡/全体㎡)を基本に、共用部は補正 |
| 水道光熱費 | 可 | 面積比+使用時間(在宅勤務日数・営業時間)で補正すると説得力が上がる |
| 通信費(ネット) | 可 | 事業利用の有無を説明(業務ツール・クラウド利用等)。可能なら業務用回線分離 |
| 固定資産税(持ち家) | 可 | 事業使用部分に対応する按分。建物割合の算定根拠が必要 |
| 火災保険・修繕費 | 可 | 事業利用部分に限定。修繕の対象箇所が重要(写真・見積書) |
| 建物の減価償却(持ち家) | 可 | 事業用に供した部分のみ。転用時点の考え方も整理する |
| 住宅ローン元本 | 不可 | 資産の取得対価であり経費ではない(利息の扱いは別途検討) |
| 家族の生活費(食費等) | 不可 | 事業との関連を区分できない典型例 |
| 生計同一親族への家賃支払 | 原則不可 | 親族間取引は特に注意(例外的に固定資産税等の負担は論点になり得る) |
「何を按分するか」は、費目ごとに理屈が異なります。家賃は面積が軸になりやすい一方、電気代は「面積×稼働時間」で補正した方が実態に合うことが多いです。
按分割合の決め方(面積・時間・専用性)
按分割合の王道は「面積按分」です。ただし、共用スペース(廊下・リビング等)をどう扱うかで結論が変わります。そこで、次の順で設計するとブレが減ります。
Step 1: 事業スペースを定義する(図面化)
- 机・棚・機器を置いている範囲を「専用」として明確化
- 可能なら簡易図面(手書き可)+写真で固定
Step 2: 基本按分(面積)を置く
- 専用スペース㎡ ÷ 住居全体㎡ を基本割合にする
- リビングの一角など共用なら「専用性」が弱いので補正前提にする
Step 3: 補正(時間・日数)を入れる
- 例:平日だけ使用、夜間のみ使用など、稼働実態で補正
- 在宅勤務日数、業務時間、予約枠などの記録があると強い
Step 4: 月次で固定し、年次で見直す
- 毎月割合が大きく変わると説明が難しいため、原則は年単位で一定
- 引っ越し・レイアウト変更・業務形態変更時は見直し
税務調査対応という観点では、面積按分+時間補正の「二段構え」が最も説明しやすい印象です。特に、リビング兼用で高い割合を取ると否認リスクが上がるため、専用スペース化(間仕切り、棚で区画、業務専用回線など)を検討すると実務が安定します。
証拠(エビデンス)の残し方と帳簿処理のコツ
否認の多くは「計算が間違い」ではなく「根拠が出ない」ことから起きます。最低限、次は揃えてください。
- 按分計算シート(面積・時間・割合・月額・年額)
- 住居の面積が分かる資料(賃貸契約書、図面、固定資産税通知等)
- 事業スペースの写真(机・機器・書類保管の状況)
- 光熱費・通信費の請求書/明細
- 業務実態の記録(勤務日、予約表、作業ログ、クラウド利用履歴など)
仕訳の実務では、いったん全額を「事業主貸(または役員借入金等)」で処理し、期末に按分分だけを経費振替する運用だと整合が取りやすいです。月次で按分計上する場合でも、計算根拠(割合)を固定し、明細を紐付けておきましょう。
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個人事業主と法人の違い(自宅を会社の事務所にする場合)
個人事業主は「家事按分」で整理できますが、法人は論点が増えます。代表者個人の自宅を法人の事務所にする場合、代表者と法人の間で賃貸借(または使用貸借)関係をどう設計するかが核心です。
- 法人が賃料を支払う設計:賃料の妥当性(近隣相場・使用範囲)が重要。高すぎると否認・役員給与認定等のリスクが上がります。
- 法人が光熱費等を負担する設計:法人負担分が「役員への経済的利益」にならないよう、事業使用部分の合理的区分が必要です。
- 持ち家の減価償却・固定資産税:個人側の所得区分や法人側の処理など、契約と実態の整合が要点になります。
税理士法人 辻総合会計では、法人化後に「個人の家事按分の感覚のまま」処理してしまい、社内規程や契約が未整備で手戻りする相談もあります。法人は契約と社内ルールが実務の土台になります。
税務調査で否認されやすい注意点・リスク
最後に、否認リスクが高い典型パターンを整理します。
- 事業スペースが不明確(リビング兼用で高割合、写真・図面なし)
- 按分割合が毎月変動し、合理的説明ができない
- 家賃・光熱費の領収書等はあるが、按分計算の資料がない
- 親族間取引(生計同一親族への家賃等)を安易に経費化している
- 法人で契約がなく、法人負担が役員の私的支出と混在している
「記録がない経費は、説明できない経費」です。按分は“正解が1つ”ではないからこそ、根拠の保存が最優先になります。
よくある質問
Q: 事務所スペースがリビングの一角でも按分できますか?
A:
可能ですが、専用性が弱い分、按分割合は保守的になりやすいです。面積だけでなく使用時間・業務内容を記録し、区分根拠を資料化することが重要です。Q: 按分割合は何%までなら安全ですか?
A:
一律の安全ラインはありません。税務上は「業務に直接必要な部分を明確に区分できるか」が基準です。高割合にするほど説明責任は重くなるため、専用スペース化と記録整備で補強してください。Q: 持ち家の場合、何が経費になりますか?
A:
事業に使う部分に対応する固定資産税、火災保険、修繕費、建物の減価償却費などが論点になります。非業務用から業務用に転用した場合の考え方も含め、取得時期・転用時点を整理して計算します。Q: 法人で代表者自宅を事務所にする場合、家賃はどう決めますか?
A:
近隣相場や使用範囲に照らして妥当な金額に設定し、契約書で明確化することが基本です。法人負担が過大だと否認や別の論点(役員給与・寄附等)に波及するため、設計段階で専門家に確認してください。まとめ
- 自宅兼事務所の経費は、業務使用部分だけを合理的に区分して計上する
- 家賃は面積按分が基本、光熱費は面積+時間補正が有効
- 按分の正否は「割合」より「区分根拠(資料・記録)」で決まる
- 個人は家事按分、法人は契約・規程整備まで含めた設計が必要
- 税務調査で否認されやすいのは、専用性の弱さと証拠不足
参照ソース
- 国税庁「No.2210 必要経費の知識」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2210.htm
- 国税庁「〔家事関連費(第1号関係)〕(所得税基本通達)」: https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/07/01.htm
- 国税庁「No.2109 新築家屋等を非業務用から業務用に転用した場合の減価償却」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2109.htm
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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