
執筆者:辻 勝
会長税理士
ペインクリニック開業ガイド2026|費用・収益・集患戦略を税理士が解説

ペインクリニック開業ガイド2026|費用・収益・集患戦略を税理士が解説
ペインクリニック(麻酔科)は、慢性疼痛に悩む患者さんの増加と高齢化社会の進行により、今後も安定した需要が見込まれる診療科です。他科と比べて初期投資が抑えられ、神経ブロック注射を中心とした専門性の高い診療で差別化しやすいという特長があります。一方で、麻酔科の標榜要件や広告規制など、開業前に押さえておくべき注意点も少なくありません。本記事では、ペインクリニック開業を検討している医師の方に向けて、市場環境から費用・収益シミュレーション、集患戦略までをクリニック専門の税理士が詳しく解説します。
ペインクリニックの市場環境
慢性疼痛患者の増加と高齢化
日本における慢性疼痛(3か月以上続く痛み)の有病率は、成人人口の約15〜25%とされており、推計で約2,000万人以上が何らかの慢性的な痛みを抱えていると言われています。高齢化が進む日本では、変形性関節症、脊柱管狭窄症、帯状疱疹後神経痛など、加齢に伴う痛みの患者数は今後さらに増加することが予想されます。
厚生労働省の「令和5年(2023年)国民生活基礎調査」においても、有訴者率の上位には「腰痛」「肩こり」「手足の関節が痛む」が常にランクインしており、痛みに対する医療ニーズの高さがうかがえます。
ペインクリニックの供給状況
一方で、ペインクリニックの施設数は全国的に見ても限られています。日本ペインクリニック学会の専門医数は約1,500名程度で、そのうち開業医として独立しているのはごく一部です。多くの麻酔科医は病院勤務を続けており、地域によってはペインクリニックが全く存在しないエリアも珍しくありません。
この「需要(慢性疼痛患者の増加)」と「供給(ペインクリニック施設の不足)」のギャップこそが、ペインクリニック開業の大きなチャンスと言えます。
整形外科との関係
ペインクリニックが取り扱う疾患は、整形外科と重複する部分があります。しかし、整形外科では手術やリハビリが中心であるのに対し、ペインクリニックは神経ブロック注射や薬物療法による「痛みの緩和」に特化している点が大きな違いです。実際に、整形外科から「手術適応ではないが痛みが続く」患者さんの紹介を受けるケースも多く、整形外科とは競合ではなく補完関係にあると言えます。
開業形態と診療内容
主な開業形態
ペインクリニックの開業形態は、大きく以下の3パターンに分けられます。
| 開業形態 | 特徴 | 初期投資目安 |
|---|---|---|
| 神経ブロック特化型 | 神経ブロック注射を中心に診療。省スペース・少人数で運営可能 | 3,000万〜4,500万円 |
| リハビリ併設型 | 物理療法・運動療法を併設し、通院頻度を高める | 4,500万〜6,500万円 |
| 複合型(内科等併設) | 内科や漢方外来を併設し、幅広い患者層を取り込む | 5,000万〜8,000万円 |
神経ブロック特化型は最も初期投資が少なく、医師1名+看護師1〜2名の少人数体制で始められます。一方、リハビリ併設型は理学療法士の採用や物理療法機器の導入が必要になりますが、患者さんの通院回数が増えるため安定した収益基盤を築きやすいメリットがあります。
主な診療内容と処置
ペインクリニックで行う主な処置は以下の通りです。
- 神経ブロック注射:星状神経節ブロック、硬膜外ブロック、腕神経叢ブロック、肋間神経ブロックなど
- トリガーポイント注射:筋筋膜性疼痛に対する局所注射
- 関節内注射:ヒアルロン酸注射、ステロイド注射
- 高周波熱凝固法(RF):神経に高周波を当てて痛みの伝達を遮断
- 薬物療法:鎮痛薬、抗うつ薬、抗けいれん薬などの処方
- 漢方療法:慢性疼痛に対する漢方薬の処方
近年は、**エコーガイド下ブロック(超音波ガイド下神経ブロック)**の普及により、透視装置(Cアーム)がなくても精度の高いブロック注射が可能になっています。超音波診断装置はCアームと比べて導入コストが大幅に安く、被ばくもないため、開業時の初期投資を抑えるうえでも重要な選択肢です。
開業費用と資金計画
初期費用の内訳
ペインクリニックの開業費用は、他の外科系診療科と比べて比較的低コストに抑えられるのが大きな特長です。手術室が不要で、大型の画像診断装置も必須ではないためです。
| 項目 | 費用目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 内装工事 | 800万〜1,500万円 | 処置室・回復室の設置。テナント開業の場合 |
| 医療機器 | 500万〜2,000万円 | 超音波診断装置、モニター、Cアーム(任意) |
| 保証金・敷金 | 200万〜500万円 | 立地により変動 |
| 運転資金 | 1,000万〜2,000万円 | 開業後6か月分を確保 |
| 開業諸経費 | 200万〜400万円 | 広告費、電子カルテ、備品等 |
| 合計 | 3,000万〜6,000万円 |
主要設備の費用
| 設備 | 費用目安 | 必要度 |
|---|---|---|
| 超音波診断装置(エコー) | 200万〜500万円 | ◎ 必須 |
| 生体モニター | 50万〜150万円 | ◎ 必須 |
| 透視装置(Cアーム) | 500万〜1,500万円 | △ 任意(中古なら300万円〜) |
| 高周波熱凝固装置 | 150万〜300万円 | ○ 推奨 |
| 救急カート・除細動器 | 50万〜150万円 | ◎ 必須 |
| 電子カルテ | 50万〜200万円 | ◎ 必須 |
| リハビリ機器(併設時) | 300万〜800万円 | △ 併設時のみ |
Cアームの導入は初期費用を大きく左右しますが、近年はエコーガイド下ブロックの技術が進歩しているため、開業当初はエコーのみで開始し、経営が安定してからCアームを追加導入するという段階的なアプローチを取る先生も増えています。
資金調達の方法
開業資金の調達方法としては、以下が一般的です。
- 日本政策金融公庫:新規開業融資として3,000万〜5,000万円程度の借入が可能。低金利で返済期間も長め
- 民間銀行(医療専門ローン):医師向けの開業ローンを提供する銀行が複数あり、担保不要のケースも
- リース契約:高額機器はリース活用で初期負担を軽減。月々の支払いを経費計上できるメリットも
自己資金は総額の20〜30%(600万〜1,500万円程度)を目安に準備することが望ましいです。
収益シミュレーション
診療報酬の特徴
ペインクリニックの収益の柱は、神経ブロック注射の診療報酬です。主な点数は以下の通りです(令和6年度診療報酬改定時点)。
| 処置名 | 診療報酬点数 | 金額換算(10円/点) |
|---|---|---|
| 星状神経節ブロック | 340点 | 3,400円 |
| 硬膜外ブロック(腰部) | 340点 | 3,400円 |
| 神経根ブロック | 470点(透視下1,500点) | 4,700〜15,000円 |
| トリガーポイント注射 | 80点 | 800円 |
| 肋間神経ブロック | 200点 | 2,000円 |
| 腕神経叢ブロック | 340点 | 3,400円 |
※上記に加えて、使用薬剤料、初・再診料、処方料なども加算されます。
注目すべきは、神経ブロック注射は1回あたりの処置時間が短い(10〜20分程度)にもかかわらず、比較的高い診療報酬が設定されている点です。1時間あたりの収益効率が高く、少人数体制でも十分な売上を確保できます。
収益モデル比較
以下に、神経ブロック特化型とリハビリ併設型の2つのモデルで収益シミュレーションを示します。
【モデルA:神経ブロック特化型】
| 項目 | 月額 | 年額 |
|---|---|---|
| 1日平均患者数 | 25名 | ― |
| 患者単価(平均) | 4,500円 | ― |
| 月間売上(22日稼働) | 約248万円 | 約2,970万円 |
| 人件費(看護師1〜2名) | 約50万円 | 約600万円 |
| 家賃 | 約40万円 | 約480万円 |
| その他経費 | 約40万円 | 約480万円 |
| 院長手取り(税引前) | 約118万円 | 約1,410万円 |
【モデルB:リハビリ併設型】
| 項目 | 月額 | 年額 |
|---|---|---|
| 1日平均患者数 | 40名(うちリハビリ15名) | ― |
| 患者単価(平均) | 3,800円 | ― |
| 月間売上(22日稼働) | 約334万円 | 約4,010万円 |
| 人件費(看護師2名+PT1名) | 約100万円 | 約1,200万円 |
| 家賃 | 約55万円 | 約660万円 |
| その他経費 | 約55万円 | 約660万円 |
| 院長手取り(税引前) | 約124万円 | 約1,490万円 |
リハビリ併設型はスタッフ数が増えるため固定費が高くなりますが、リハビリ患者の通院頻度(週1〜3回)により安定した患者数が見込め、売上の変動リスクを抑えられるメリットがあります。開業3年目以降で患者数が定着すれば、年収2,000万円以上も十分に射程圏内です。
開業立地と集患戦略
立地選定のポイント
ペインクリニックの立地選定では、以下の点が重要になります。
1. 競合の少なさ ペインクリニックは全国的に施設数が少ないため、半径5km圏内に競合がなければ十分な集患が期待できます。地方都市や郊外のニュータウンなど、高齢者が多く住むエリアでペインクリニックが不在のエリアは有力な候補です。
2. 整形外科・内科との近接性 前述のとおり、整形外科や内科からの紹介患者を見込めるため、これらの診療所が近隣にあるエリアは相乗効果が期待できます。医療モール内への出店も有効な選択肢です。
3. アクセスの良さ ペインクリニックの患者さんは高齢者が多く、通院の利便性が重要です。駅から徒歩圏内、またはバス路線沿いで駐車場が確保できるエリアが理想的です。
4. 人口構成 65歳以上の高齢者比率が高い地域ほど、慢性疼痛の患者数が多くなる傾向があります。各自治体の人口統計や将来推計を確認しましょう。
集患戦略
ペインクリニックの集患では、以下の施策が効果的です。
医療連携(B to B)
- 近隣の整形外科・内科・脳神経外科への開業挨拶と紹介カードの配布
- 地域の医師会への加入と勉強会・症例検討会への積極参加
- 逆紹介の徹底(手術適応の患者は整形外科へ紹介)
Web集患(B to C)
- 「地域名+ペインクリニック」「地域名+神経ブロック」でのSEO対策
- Googleビジネスプロフィールの最適化(口コミ管理含む)
- 「腰痛」「帯状疱疹後神経痛」「頭痛」など、症状別のコンテンツマーケティング
その他
- 地域の健康講座・市民公開講座での講演(「慢性の痛みとの付き合い方」など)
- 院内パンフレットの作成と近隣薬局への設置依頼
ペインクリニックは専門性が高い分、一度信頼を得た患者さんは長期的に通院を続けてくれる傾向があります。開業初期は医療連携による紹介患者の獲得に注力し、口コミとWebでの認知拡大を並行して進めることが成功のカギです。
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麻酔科標榜と注意点
麻酔科標榜医の要件
ペインクリニックを開業する際に最も注意すべき点の一つが、麻酔科の標榜要件です。
医療法では、「麻酔科」は他の診療科と異なり、厚生労働大臣の許可を得た医師でなければ標榜することができません。具体的には、以下の要件を満たす必要があります。
- 麻酔の実施に関し、2年以上の修練を行った者であること
- 修練は厚生労働大臣が指定する病院で行うこと
- 申請は各地方厚生局を通じて行う
許可を受けた医師には麻酔科標榜医の資格が付与され、診療科名として「麻酔科」を標榜できるようになります。
診療科名の表記
ペインクリニックを開業する際の診療科名としては、以下のパターンがあります。
- 「麻酔科」:麻酔科標榜医の許可が必要
- 「ペインクリニック内科」「ペインクリニック外科」:医療法上の一般的な診療科名として標榜可能
- 「痛みの専門外来」等のサブタイトル:広告ガイドラインの範囲内で使用可能
麻酔科標榜医の許可を持っている場合は「麻酔科」を標榜することで専門性をアピールでき、集患上も有利です。許可を持っていない場合でも、「ペインクリニック内科」等の名称で開業することは可能です。
広告規制の注意点
医療広告ガイドラインでは、以下の点に注意が必要です。
- **「痛みが必ず治る」「100%改善」**などの誇大表現は禁止
- 体験談の掲載は原則として禁止(患者の主観に基づく治療効果の記載)
- 術前術後の写真を掲載する場合は、治療内容・費用・リスク・副作用の明記が必要
- 専門医資格は広告可能事項として認められている(日本ペインクリニック学会専門医など)
特にWeb広告やSNSでの発信については、近年厚生労働省の監視が強化されています。「ネットパトロール事業」により、不適切な広告に対しては是正指導が行われるため、開業時のホームページ制作やリスティング広告の運用にあたっては、医療広告ガイドラインを十分に確認しましょう。
まとめ
ペインクリニックの開業は、以下の点から将来性の高い選択肢と言えます。
- 市場環境:慢性疼痛患者の増加と高齢化により、今後も需要は拡大基調
- 初期投資:3,000万〜6,000万円と、他の外科系診療科と比べて低コストで開業可能
- 収益性:神経ブロック注射の時間あたり収益効率が高く、少人数で安定経営が可能
- 競合環境:ペインクリニック専門施設は全国的に少なく、差別化しやすい
- 集患:整形外科等との医療連携で紹介患者を安定的に確保できる
一方で、麻酔科標榜の要件確認、適切な立地選定、そして資金計画の策定は開業成功のために欠かせないステップです。
税務面では、開業初年度の設備投資における減価償却の計画や、医療法人化のタイミング、さらには消費税の課税事業者選択など、開業前から専門家に相談しておくことで、手残りを最大化する経営設計が可能になります。ペインクリニックの開業を検討されている方は、ぜひ早い段階でクリニック経営に詳しい税理士にご相談ください。
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参考リンク
- 日本ペインクリニック学会:専門医制度、研修施設の情報
- 厚生労働省|令和6年度診療報酬改定について:最新の診療報酬点数表
- 厚生労働省|医療広告ガイドライン:広告規制の詳細
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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