
執筆者:辻 勝
会長税理士
産婦人科開業ガイド2026|分娩対応・設備投資・収益モデルを税理士が解説

産婦人科開業ガイド2026|分娩対応・設備投資・収益モデルを税理士が解説
産婦人科クリニックの開業を検討されている先生に向けて、分娩対応の有無による経営戦略の違い、設備投資、収益モデルを詳しく解説します。少子化が進む中でも、産婦人科には安定した需要があります。開業資金の調達から黒字化までのロードマップを、クリニック専門の税理士がお伝えします。
産婦人科の市場環境|少子化時代の開業戦略
少子化の中でも産婦人科需要は存在する
日本の出生数は減少を続けており、2023年には約76万人と過去最少を更新しました。しかし、産婦人科の需要は分娩だけではありません。以下の領域で安定した需要が見込めます。
産婦人科の需要領域
- 婦人科一般:月経不順、更年期障害、子宮筋腫、子宮内膜症
- がん検診:子宮頸がん・子宮体がん・卵巣がんの早期発見
- 不妊治療:2022年の保険適用拡大で需要が急増
- 思春期・更年期外来:ホルモン補充療法、ピル処方
- 妊婦健診:分娩を取り扱わなくても健診のみ対応可能
産婦人科施設の減少と開業チャンス
厚生労働省の「医療施設動態調査」によると、分娩を取り扱う医療施設は1990年代から半減しています。特に地方では「お産難民」という言葉が生まれるほど、分娩施設の不足が深刻です。
| 年 | 分娩取扱施設数(病院+診療所) |
|---|---|
| 1996年 | 約3,900施設 |
| 2010年 | 約2,600施設 |
| 2023年 | 約1,900施設 |
この状況は、開業を検討する先生にとってはチャンスでもあります。競合が少ない地域で分娩対応クリニックを開業すれば、安定した患者確保が可能です。
開業形態の選択肢
産婦人科の開業には、大きく分けて3つの形態があります。
| 形態 | 特徴 | 想定年商 |
|---|---|---|
| 外来のみ(婦人科) | 初期投資が少ない、分娩リスクなし | 8,000万〜1億5,000万円 |
| 妊婦健診+外来 | 分娩は連携病院へ紹介 | 1億〜1億8,000万円 |
| 分娩対応クリニック | 高収益だが設備投資・人材確保が必要 | 2億〜4億円 |
分娩対応 vs 外来のみ|経営判断のポイント
外来のみ(婦人科クリニック)のメリット・デメリット
メリット
- 初期投資を5,000万〜8,000万円に抑えられる
- 24時間対応の必要がなく、ワークライフバランスを保てる
- 分娩に伴う医療訴訟リスクが低い
- 1人医師でも運営可能
デメリット
- 収益の上限が限定的
- 不妊治療を行わない場合、差別化が難しい
- 患者の「出産まで診てほしい」ニーズに応えられない
分娩対応クリニックのメリット・デメリット
メリット
- 分娩1件あたり50万〜70万円の高収益
- 分娩から産後ケアまで一貫したサービス提供
- 地域での存在感、ブランド確立
- 継続的な患者関係(次子の出産、婦人科通院)
デメリット
- 初期投資が1億5,000万〜3億円と高額
- 24時間365日のオンコール体制が必要
- 助産師・看護師の確保が困難
- 医療訴訟リスクが高い
税理士から見た経営判断
税理士の実務ポイント:分娩対応の可否は、単なる収益だけでなく「先生のライフスタイル」と「地域の需要」で判断すべきです。50代以降の開業であれば、外来のみでストレスなく経営する選択も合理的です。一方、40代前半で体力があり、地域に分娩施設が不足しているなら、分娩対応は大きなビジネスチャンスとなります。
開業費用の詳細|形態別の初期投資
外来のみ(婦人科クリニック)の開業費用
| 項目 | 費用目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 内装工事 | 1,000万〜1,500万円 | 診察室2〜3室、内診台設置 |
| 医療機器 | 1,500万〜2,500万円 | 超音波、コルポスコープ等 |
| 保証金・敷金 | 300万〜600万円 | 30〜50坪のテナント |
| 運転資金 | 1,500万〜2,000万円 | 6ヶ月分を確保 |
| 開業諸経費 | 300万〜500万円 | 広告、備品、医師会費 |
| 合計 | 4,600万〜7,100万円 | — |
分娩対応クリニックの開業費用
分娩対応の場合、設備投資が大幅に増加します。
| 項目 | 費用目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 土地・建物 | 5,000万〜1億円 | 戸建て開業が主流、150〜300坪 |
| 内装・設備工事 | 3,000万〜5,000万円 | 分娩室、手術室、病室 |
| 医療機器 | 4,000万〜7,000万円 | 分娩監視装置、手術器具等 |
| 保証金・敷金 | 500万〜1,000万円 | 戸建ての場合は土地取得費に含む |
| 運転資金 | 3,000万〜5,000万円 | 8〜12ヶ月分を推奨 |
| 開業諸経費 | 500万〜800万円 | 広告、備品、各種届出 |
| 合計 | 1億6,000万〜2億9,800万円 | — |
分娩対応で追加される主な設備費用
| 設備 | 費用目安 | 必要性 |
|---|---|---|
| 分娩室(LDR含む) | 1,500万〜3,000万円 | 必須 |
| 手術室 | 1,000万〜2,000万円 | 帝王切開対応に必須 |
| 新生児室・NICU準備室 | 500万〜1,000万円 | 必須 |
| 入院病室(8〜15床) | 1,000万〜2,000万円 | 必須 |
| 厨房設備 | 300万〜600万円 | 入院患者への食事提供 |
必要な医療機器|形態別リスト
外来のみで必要な基本機器
| 機器名 | 価格帯 | 用途 |
|---|---|---|
| 経膣超音波装置 | 300万〜600万円 | 子宮・卵巣の観察、妊娠確認 |
| 経腹超音波装置 | 200万〜400万円 | 妊婦健診、腹部検査 |
| コルポスコープ | 80万〜200万円 | 子宮頸部の拡大観察 |
| 内診台(電動) | 80万〜150万円 | 内診・処置に必須 |
| 心電計 | 30万〜80万円 | 術前検査等 |
| 血液検査機器 | 100万〜300万円 | 院内検査対応の場合 |
| 電子カルテ | 200万〜500万円 | 産婦人科対応システム |
分娩対応で追加される機器
| 機器名 | 価格帯 | 用途 |
|---|---|---|
| 分娩監視装置(CTG) | 150万〜300万円 | 胎児心拍・陣痛モニタリング |
| 分娩台 | 100万〜250万円 | 分娩室に設置 |
| 新生児蘇生器具一式 | 200万〜400万円 | 新生児の緊急対応 |
| 保育器(インキュベーター) | 150万〜300万円 | 新生児管理 |
| 麻酔器 | 300万〜600万円 | 帝王切開・無痛分娩対応 |
| 手術用無影灯 | 150万〜400万円 | 手術室設備 |
| 電気メス | 100万〜200万円 | 手術対応 |
| 吸引分娩装置 | 50万〜100万円 | 分娩介助 |
税理士の実務ポイント:分娩監視装置や超音波装置は5〜7年でのリース契約が一般的です。初期投資を抑えつつ、常に最新機種を使用できるメリットがあります。リース料は全額損金算入可能です。
診療単価と分娩費用|収益の柱を理解する
外来診療の単価
産婦人科の外来診療は、検査や処置が多いため比較的高単価です。
| 診療内容 | 診療報酬(目安) |
|---|---|
| 初診(検査込み) | 4,000〜8,000円 |
| 再診 | 1,500〜3,000円 |
| 妊婦健診(公費負担分除く) | 5,000〜10,000円 |
| 子宮がん検診 | 3,000〜5,000円 |
| 超音波検査 | 5,300円(530点) |
| コルポスコピー | 2,100円(210点) |
| 子宮頸管ポリープ切除 | 9,900円(990点) |
分娩費用の相場
分娩費用は地域や施設のサービス内容により大きく異なります。
| 項目 | 費用相場 | 備考 |
|---|---|---|
| 正常分娩(入院5日) | 45万〜60万円 | 都市部は高め |
| 帝王切開(入院7〜10日) | 60万〜80万円 | 保険適用あり |
| 無痛分娩加算 | 10万〜20万円 | 自費 |
| 個室料金(1日) | 1万〜3万円 | 自費 |
| 出産育児一時金 | 50万円 | 2023年4月〜増額 |
分娩1件あたりの収益
正常分娩の場合、出産育児一時金50万円に加え、自費負担分や個室料金を合わせると、1件あたり55万〜75万円の収益となります。
自費診療の収益機会
産婦人科は自費診療の余地が大きい診療科でもあります。
| 自費診療 | 料金相場 | 備考 |
|---|---|---|
| ピル処方(1ヶ月分) | 2,500〜3,500円 | 継続処方で安定収益 |
| 緊急避妊ピル | 8,000〜15,000円 | — |
| ブライダルチェック | 15,000〜30,000円 | セット検査 |
| 4Dエコー | 5,000〜10,000円 | 妊婦向けサービス |
| 産後ケア入院(1泊) | 20,000〜50,000円 | 自治体補助あり |
収益シミュレーション|外来のみ vs 分娩対応
外来のみ(婦人科クリニック)の収益モデル
前提条件
- 1日患者数:40〜50人
- 診療日数:月22日
- 平均診療単価:5,000円
| 項目 | 月額 | 年額 |
|---|---|---|
| 医業収益 | 440万〜550万円 | 5,280万〜6,600万円 |
| 自費収益(ピル・検診等) | 80万〜150万円 | 960万〜1,800万円 |
| 総収益 | 520万〜700万円 | 6,240万〜8,400万円 |
| 項目 | 月額 | 年額 |
|---|---|---|
| 人件費(スタッフ4〜5名) | 150万〜200万円 | 1,800万〜2,400万円 |
| 家賃 | 50万〜80万円 | 600万〜960万円 |
| 医薬品・材料費 | 50万〜80万円 | 600万〜960万円 |
| リース料・減価償却 | 30万〜50万円 | 360万〜600万円 |
| その他経費 | 40万〜60万円 | 480万〜720万円 |
| 経費合計 | 320万〜470万円 | 3,840万〜5,640万円 |
| 院長報酬(税引前) | 200万〜230万円 | 2,400万〜2,760万円 |
分娩対応クリニックの収益モデル
前提条件
- 分娩件数:月15〜25件(年180〜300件)
- 外来患者数:1日30〜40人
- 分娩単価:60万円
| 項目 | 月額 | 年額 |
|---|---|---|
| 分娩収益 | 900万〜1,500万円 | 1億800万〜1億8,000万円 |
| 外来収益 | 300万〜400万円 | 3,600万〜4,800万円 |
| 自費収益 | 100万〜200万円 | 1,200万〜2,400万円 |
| 総収益 | 1,300万〜2,100万円 | 1億5,600万〜2億5,200万円 |
| 項目 | 月額 | 年額 |
|---|---|---|
| 人件費(スタッフ15〜25名) | 500万〜900万円 | 6,000万〜1億800万円 |
| 建物維持費・家賃相当 | 80万〜150万円 | 960万〜1,800万円 |
| 医薬品・材料費 | 100万〜200万円 | 1,200万〜2,400万円 |
| 食材費 | 30万〜60万円 | 360万〜720万円 |
| リース料・減価償却 | 80万〜150万円 | 960万〜1,800万円 |
| その他経費 | 80万〜120万円 | 960万〜1,440万円 |
| 経費合計 | 870万〜1,580万円 | 1億440万〜1億8,960万円 |
| 院長報酬(税引前) | 430万〜520万円 | 5,160万〜6,240万円 |
税理士の実務ポイント:分娩対応クリニックは収益も大きいですが、人件費比率が40〜50%と高くなります。助産師の年収は500万〜600万円が相場であり、夜勤手当を含めると更に増加します。採用・定着のための人件費戦略が経営の鍵を握ります。
医療機関専門の税理士にご相談ください
40年以上の実績。クリニック・医療法人の経営を税務・会計の両面からサポートします。
平日 9:15〜18:15(土日祝休業)
開業スケジュールと届出|分娩対応は1.5〜2年計画
外来のみの開業スケジュール(約10〜12ヶ月)
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 12ヶ月前 | 開業コンセプト決定、事業計画作成 |
| 10ヶ月前 | 物件探し開始、金融機関との融資相談 |
| 8ヶ月前 | 物件契約、設計・内装工事発注 |
| 6ヶ月前 | 医療機器選定・発注、スタッフ採用開始 |
| 4ヶ月前 | 内装工事、各種届出準備 |
| 2ヶ月前 | 機器搬入、スタッフ研修、内覧会 |
| 開業 | 診療所開設届提出、保険医療機関指定申請 |
分娩対応の開業スケジュール(約18〜24ヶ月)
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 24ヶ月前 | 開業コンセプト決定、事業計画作成 |
| 22ヶ月前 | 土地探し・取得交渉、金融機関との融資相談 |
| 18ヶ月前 | 土地取得、建築設計開始 |
| 15ヶ月前 | 建築確認申請、助産師・看護師の採用活動開始 |
| 12ヶ月前 | 建築工事着工 |
| 8ヶ月前 | 医療機器選定・発注、保健所との事前協議 |
| 4ヶ月前 | 建築工事完了、機器搬入、各種届出 |
| 2ヶ月前 | スタッフ研修、シミュレーション訓練 |
| 開業 | 助産所開設届、病床設置許可申請(有床の場合) |
主な届出・許可
| 届出先 | 届出・許可 | 備考 |
|---|---|---|
| 保健所 | 診療所開設届 | 開設後10日以内 |
| 厚生局 | 保険医療機関指定申請 | 毎月1日付で指定 |
| 保健所 | 有床診療所の届出 | 19床以下の場合 |
| 都道府県 | 助産所開設届出 | 分娩対応の場合 |
| 消防署 | 防火管理者届出 | 有床の場合必須 |
助産師確保の重要性
分娩対応クリニックにおいて、助産師の確保は最大の課題です。
助産師確保のポイント
- 開業18ヶ月前から採用活動を開始
- 日本助産師会や看護協会への求人掲載
- 近隣の看護学校・助産学校との関係構築
- 給与水準は地域相場より10〜20%高めに設定
- 夜勤体制を考慮し、最低4〜6名の常勤助産師が必要
- 院内助産システムや助産師外来の導入で働きがいをアピール
税理士からの経営アドバイス
1. 開業形態は「ライフプラン」と「地域需要」で決める
分娩対応は高収益ですが、24時間体制の負担は大きいです。50代以降の開業であれば、外来のみで無理なく経営する選択も十分に合理的です。まずは地域の分娩施設の状況を調査し、自身の体力・家族の理解と照らし合わせて判断してください。
2. 分娩対応なら「年間200件」を損益分岐点に
分娩対応クリニックの損益分岐点は、一般的に年間150〜200件の分娩です。これを下回ると固定費(特に人件費)を賄えず赤字になります。開業前にエリアの出生数、競合施設数を詳細に分析し、200件以上の分娩が見込めるか慎重に検討してください。
3. 人件費比率は45%以内を目標に
分娩対応クリニックは人件費が経営を圧迫しやすい構造です。総収益に対する人件費比率45%以内を目標に、適正な人員配置と給与設計を行いましょう。助産師の採用難を理由に過剰な給与を提示すると、経営を圧迫します。
4. 無痛分娩・4Dエコーで差別化と収益向上
近年、無痛分娩の需要が急増しています。麻酔科医との連携または自院での対応体制を整えることで、差別化と収益向上の両方が実現できます。無痛分娩加算は10〜20万円の自費収入となり、年間100件対応すれば1,000万〜2,000万円の増収です。
5. 産後ケア事業で地域に貢献しながら収益確保
2021年の母子保健法改正により、産後ケア事業が市区町村の努力義務となりました。自治体との連携で産後ケア入院を受け入れれば、空床対策と地域貢献を両立できます。1泊2万〜5万円の収益が見込め、分娩件数の減少をカバーする収益源となります。
6. 医療法人化のタイミング
産婦人科クリニックは収益が大きいため、年間所得が2,500万円を超えたら医療法人化を検討しましょう。法人化により、所得分散、退職金積立、社会保険料の最適化が可能です。分娩対応クリニックは開業2〜3年目で法人化の目安に達することが多いです。
まとめ
産婦人科の開業は、分娩対応の有無により経営の規模とリスクが大きく異なります。
| 項目 | 外来のみ | 分娩対応 |
|---|---|---|
| 初期投資 | 5,000万〜8,000万円 | 1億5,000万〜3億円 |
| 年間収益 | 6,000万〜8,000万円 | 1億5,000万〜2億5,000万円 |
| 院長年収(税引前) | 2,000万〜3,000万円 | 5,000万〜6,000万円 |
| 勤務体制 | 日勤のみ | 24時間365日 |
| リスク | 低い | 高い(医療訴訟等) |
少子化の中でも、婦人科一般・不妊治療・産後ケアなど需要は多様化しています。地域のニーズを正確に把握し、自身のライフスタイルに合った開業形態を選択することが成功の鍵です。
産婦人科クリニックの開業をお考えの先生は、事業計画の段階から税理士にご相談ください。資金調達、収支シミュレーション、節税対策まで、開業から黒字化までトータルでサポートいたします。
参考リンク
関連記事(院長向け)
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
ご注意事項
本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。
税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。
記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。
