
執筆者:辻 勝
会長税理士
産婦人科開業ガイド2026|費用・収益・成功戦略を税理士が解説

産婦人科開業ガイド2026|費用・収益・成功戦略を税理士が解説
産婦人科の開業を検討されている先生に向けて、2026年の最新情報をもとに開業費用・収益シミュレーション・立地戦略を詳しく解説します。産婦人科は「分娩対応型」と「外来専門型」で初期投資や経営構造が大きく異なり、開業前の判断が将来の経営を左右します。少子化が進む一方で、分娩施設の減少により1施設あたりの分娩件数は増加傾向にあります。本記事では、税理士の視点から資金計画・収益構造・リスク管理まで網羅的にお伝えします。
産婦人科クリニックの市場環境
出生数の減少と分娩施設の集約化
日本の出生数は減少の一途をたどっており、2023年の出生数は約72.7万人と過去最少を更新しました。2024年には約70万人を割り込んだとみられ、2026年以降もこの傾向は続くと予測されています。
一方で、分娩を取り扱う施設数も年々減少しています。厚生労働省の医療施設調査によると、分娩を取り扱う施設は2005年の約3,000施設から、2022年には約2,000施設を下回る水準まで減少しました。これにより、1施設あたりの分娩取扱件数はむしろ増加しており、分娩対応型で開業した場合の需要は一定程度確保できる状況です。
産婦人科の診療ニーズの多様化
近年は、従来の妊婦健診・分娩に加えて、以下のような診療ニーズが拡大しています。
- 不妊治療:2022年4月の保険適用拡大により患者数が大幅に増加
- 女性ヘルスケア:更年期障害、月経トラブル、ピル処方の需要増
- 婦人科がん検診:子宮頸がん・卵巣がんなどの検診意識の高まり
- 産後ケア:産後うつ対策や産後ケア事業の自治体委託
このように、産婦人科クリニックの経営は「お産だけ」ではなく、女性のライフステージ全体をカバーする総合的な診療体制が求められる時代になっています。
分娩対応型 vs 外来専門型の比較
産婦人科の開業を考える際、最初に決めるべきは**「分娩を取り扱うかどうか」**です。この選択によって、必要な設備投資額・人員体制・収益構造が大きく変わります。
分娩対応型クリニックの特徴
分娩対応型は、妊婦健診から分娩・産後ケアまでを一貫して提供する形態です。
- 初期投資額:1.5億〜3億円(建物・医療機器・分娩室・入院設備含む)
- 必要面積:200〜400坪(分娩室・入院病床・新生児室が必須)
- スタッフ体制:常勤医師1〜2名、助産師5〜10名、看護師複数名、事務スタッフ
- 24時間対応:分娩はいつ起こるか予測できないため、夜間・休日の当直体制が不可欠
- 収益の柱:分娩料(1件あたり40万〜60万円)+妊婦健診+入院収入
分娩対応型の最大の強みは、分娩1件あたりの単価が高いことです。正常分娩は自由診療であるため、地域の相場に応じて価格設定が可能です。都市部では分娩費用が60万〜80万円に設定されているクリニックも珍しくありません。
外来専門型クリニックの特徴
外来専門型は、分娩は取り扱わず、妊婦健診・婦人科外来・不妊治療などに特化する形態です。
- 初期投資額:5,000万〜1億円(テナント開業の場合はさらに低い)
- 必要面積:40〜80坪(診察室2〜3室、超音波室、処置室)
- スタッフ体制:常勤医師1名、看護師2〜3名、事務スタッフ2〜3名
- 診療時間:一般的な外来診療時間のみ(夜間対応不要)
- 収益の柱:妊婦健診+婦人科外来+不妊治療+自費診療(ピル処方など)
外来専門型は、初期投資が少なく、ワークライフバランスを確保しやすい点が大きなメリットです。特に不妊治療に力を入れる場合は、保険適用の体外受精・顕微授精の需要増もあり、高い収益性が期待できます。
比較まとめ
| 項目 | 分娩対応型 | 外来専門型 |
|---|---|---|
| 初期投資 | 1.5億〜3億円 | 5,000万〜1億円 |
| 年間売上目安 | 2億〜5億円 | 8,000万〜2億円 |
| 院長の拘束度 | 非常に高い(24時間体制) | 通常の外来診療時間 |
| 損益分岐の難易度 | やや高い(固定費大) | 比較的低い |
| 開業リスク | 高い | 中程度 |
開業費用と資金計画
分娩対応型の費用内訳
分娩対応型クリニックの開業には、一般的に1.5億〜3億円の初期投資が必要です。主な内訳は以下の通りです。
- 土地・建物:8,000万〜1.5億円(新築の場合。土地取得費は地域差大)
- 医療機器:3,000万〜6,000万円
- 超音波診断装置(4D対応):1,000万〜2,000万円
- 分娩監視装置:200万〜500万円
- 新生児用機器:500万〜1,000万円
- 手術関連機器:500万〜1,500万円
- 内装・設備工事:2,000万〜4,000万円
- 電子カルテ・IT環境:500万〜1,000万円
- 運転資金(6ヶ月分):3,000万〜5,000万円
外来専門型の費用内訳
外来専門型の場合は、5,000万〜1億円で開業可能です。
- テナント取得費・内装工事:1,500万〜3,000万円
- 医療機器:1,500万〜3,000万円
- 超音波診断装置:800万〜1,500万円
- コルポスコープ:200万〜400万円
- その他検査機器:500万〜1,000万円
- 電子カルテ・IT環境:300万〜500万円
- 運転資金(6ヶ月分):1,500万〜3,000万円
資金調達の方法
産婦人科の開業資金の調達方法として、主に以下が挙げられます。
- 日本政策金融公庫:低金利で最大7,200万円まで融資可能。新規開業者向けの優遇制度あり
- 民間金融機関:メガバンク・地方銀行の医療機関向けローン。担保・保証人が必要なケースが多い
- 医療機器リース:高額機器はリース契約で初期負担を軽減。5〜7年リースが一般的
- 自己資金:総投資額の10〜20%以上は自己資金として準備することが望ましい
税理士の立場からアドバイスすると、運転資金は多めに確保することが重要です。開業後3〜6ヶ月は患者数が安定せず、収入が想定を下回ることが少なくありません。特に分娩対応型は固定費が大きいため、最低6ヶ月分の運転資金を確保しておくことを強くお勧めします。
収益シミュレーション
外来専門型の収益モデル
外来専門型クリニックの年間収益シミュレーション例です。
前提条件:1日患者数40名、月22日稼働
- 妊婦健診:月80件 × 平均8,000円 = 月64万円
- 婦人科外来(保険):月500件 × 平均5,000円 = 月250万円
- 不妊治療(保険):月40件 × 平均30,000円 = 月120万円
- 自費診療(ピル処方・検診等):月150件 × 平均6,000円 = 月90万円
- 月間売上合計:約524万円 → 年間売上:約6,300万円〜1億円
年間経費の目安:
- 人件費:2,500万〜4,000万円
- テナント賃料:600万〜1,200万円
- 医薬品・材料費:500万〜800万円
- その他経費:600万〜1,000万円
院長の手取り目安:年間1,500万〜3,000万円
分娩対応型の収益モデル
分娩対応型クリニックの年間収益シミュレーション例です。
前提条件:年間分娩300件、1日外来患者数50名
- 分娩料:年間300件 × 平均55万円 = 年間1億6,500万円
- 妊婦健診:年間3,600件 × 平均8,000円 = 年間2,880万円
- 入院収入(産褥期):年間300件 × 平均15万円 = 年間4,500万円
- 婦人科外来:年間6,000件 × 平均5,000円 = 年間3,000万円
- 年間売上合計:約2.7億円〜4億円
年間経費の目安:
- 人件費(医師・助産師・看護師等):8,000万〜1.5億円
- 建物関連費:1,500万〜3,000万円
- 医薬品・材料費:2,000万〜3,500万円
- その他経費:1,500万〜2,500万円
院長の手取り目安:年間3,000万〜6,000万円
なお、分娩対応型は**出産育児一時金(2023年4月より50万円に増額)**が大きな収入の柱となります。出産育児一時金の今後の引き上げや制度変更の動向には注意が必要です。
開業立地と集患戦略
立地選定の5つのポイント
産婦人科クリニックの成功は、立地選定に大きく左右されます。以下の5つのポイントを重視してください。
① 出産適齢人口の多いエリア
20〜39歳の女性人口が多い地域を選びましょう。自治体の人口統計データや住民基本台帳のデータを活用し、ターゲット層の人口動態を分析します。新興住宅地やマンション建設が進むエリアは、若い世帯が流入しやすく有望です。
② 競合クリニックの状況
半径5〜10km圏内の産婦人科の数と診療内容を調査します。特に分娩対応型で開業する場合、競合の分娩取扱施設が少ないエリアを選ぶことで、地域の分娩需要を取り込みやすくなります。
③ アクセスの良さ
妊婦さんが通院しやすい立地であることが重要です。駅から徒歩圏内、もしくは広い駐車場を確保できるロードサイド立地が理想的です。妊娠後期や産後の通院を考えると、車でのアクセスのしやすさは特に重要になります。
④ 連携病院との距離
分娩対応型の場合、ハイリスク妊娠への対応が必要になった際に、総合周産期母子医療センターや地域周産期母子医療センターへの搬送時間が30分以内であることが望ましいです。
⑤ 行政の支援制度
自治体によっては、産科医療機関の誘致に補助金を出しているケースがあります。特に分娩施設の少ない地域では、開業支援金や設備補助金が用意されている場合がありますので、事前に確認しましょう。
集患戦略
産婦人科は口コミの影響が非常に大きい診療科です。効果的な集患戦略として、以下を実施しましょう。
- ホームページ・SEO対策:「地域名+産婦人科」での検索上位表示を狙う
- Googleビジネスプロフィール:口コミ管理と写真掲載で信頼感を醸成
- SNS運用:Instagramを活用し、院内の雰囲気やスタッフ紹介を発信
- 産前・産後教室の開催:マタニティヨガ、母親学級などで見込み患者との接点を作る
- 地域連携:近隣の内科・小児科との紹介ネットワーク構築
医療機関専門の税理士にご相談ください
40年以上の実績。クリニック・医療法人の経営を税務・会計の両面からサポートします。
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開業時の注意点・よくある失敗
失敗パターン①:分娩件数の過大見積もり
分娩対応型で最も多い失敗は、分娩件数を楽観的に見積もりすぎるケースです。開業1年目から年間300件の分娩を見込んで事業計画を立てたものの、実際には150件程度にとどまり、資金繰りが悪化するパターンが散見されます。
対策:開業1年目は年間分娩100〜150件程度で事業計画を立て、段階的に増加させる保守的な計画を推奨します。
失敗パターン②:人材確保の失敗
産婦人科は慢性的な人材不足です。特に助産師の確保は難航しやすく、開業直前になってスタッフが集まらないケースがあります。
対策:開業の1年前から採用活動を開始し、助産師学校や看護学校との関係構築、紹介会社の活用を進めましょう。
失敗パターン③:不妊治療の設備投資判断ミス
不妊治療の保険適用拡大を受けて高額な設備投資を行ったものの、専門人材の確保ができず稼働率が低いまま固定費だけが膨らむケースがあります。
対策:不妊治療に参入する場合は、まず人工授精までの一般不妊治療から始め、体外受精・顕微授精は需要と人材体制を見極めてから段階的に拡充することをお勧めします。
2026年(令和8年)診療報酬改定の影響
2026年度は診療報酬改定の年にあたります。中央社会保険医療協議会(中医協)では、2026年1月時点で個別改定項目の議論が進んでおり、以下の点が産婦人科に影響を与える可能性があります。
- 周産期医療の評価見直し:ハイリスク妊娠管理加算や地域周産期医療体制の評価が議論されています
- 賃上げ対応:医療従事者の処遇改善に向けた報酬引き上げが検討されており、人件費の上昇と診療報酬の引き上げの両面に注目が必要です
- 医療DXの推進:電子処方箋やオンライン資格確認の普及促進に伴う加算の見直しも予定されています
開業時期を2026年後半以降に予定されている場合は、改定内容が確定する2026年3〜4月の答申を待ってから最終的な事業計画を確定させることをお勧めします。
まとめ
産婦人科の開業は、分娩対応型か外来専門型かによって投資規模や経営リスクが大きく異なります。ポイントを整理すると以下の通りです。
- 分娩対応型は初期投資1.5億〜3億円と大きいが、年間売上2億〜4億円が見込め、高い収益性が期待できる
- 外来専門型は初期投資5,000万〜1億円と比較的少額で、ワークライフバランスを確保しやすい
- 立地選定では出産適齢人口・競合状況・連携病院へのアクセスを重視する
- 事業計画は保守的に立て、特に分娩件数は1年目を控えめに設定する
- 2026年度診療報酬改定の内容を踏まえて、開業時期と事業計画を調整する
産婦人科の開業は大きな投資を伴いますが、適切な計画と戦略があれば、地域の女性医療に貢献しながら安定した経営を実現できます。開業をご検討中の先生は、ぜひ早い段階から税理士や開業コンサルタントにご相談ください。
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参考リンク
- 厚生労働省|医療施設調査:全国の医療施設数や病床数の推移を確認できます
- 公益社団法人 日本産科婦人科学会:産婦人科に関する最新のガイドラインや学会情報を掲載しています
- 厚生労働省|中央社会保険医療協議会(総会):2026年度診療報酬改定の議論経過・資料が公開されています
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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