
執筆者:辻 光明
代表税理士
賞与の社会保険料・所得税の計算方法【2026年版】|税理士が解説

賞与の社会保険料・所得税の計算方法とは
賞与の控除計算は、「社会保険料は標準賞与額×保険料率」「所得税は(原則)算出率の表×(社保控除後の賞与)」という二段構えです。ところが、賞与には上限(健康保険の年度累計上限、厚生年金の月上限)や、所得税の例外計算(前月給与の10倍超、前月給与なし)があり、担当者がミスしやすい論点が集中します。特に、支給回数や前月給与の状況で計算ルールが変わるため、経理・総務の現場では「同じボーナス計算のはずなのに税額が合わない」トラブルが起こりがちです。
当法人(税理士法人 辻総合会計)では、30年以上にわたり中小企業・クリニック等の給与計算レビューに多数関与してきました。よくある相談を踏まえ、ここでは計算の「型」とチェックポイントを実務向けにまとめます。
賞与の社会保険料の計算方法(健康保険・厚生年金)
標準賞与額の決め方(1,000円未満切捨て)
賞与にかかる社会保険料は、実際の賞与(税引前総支給額)から1,000円未満を切り捨てた金額を標準賞与額として、これに保険料率を乗じて計算します。保険料は事業主と被保険者で折半が原則です。
(例)賞与 503,980円 → 標準賞与額 503,000円。
標準賞与額の上限(健康保険:年度累計、厚生年金:月上限)
上限の考え方が最重要です。
- 健康保険:年度(4/1〜翌3/31)の標準賞与額累計に上限(累計573万円)が設定
- 厚生年金:1か月あたり標準賞与額の上限(150万円)
- 同じ月に2回以上賞与を支給する場合は合算して上限を判定
この上限を超える部分には該当保険の保険料がかからないため、計算結果が大きく変わります。
介護保険料の扱い(対象年齢)
健康保険料の計算では、40歳以上65歳未満の被保険者は介護保険料が上乗せされるのが一般的です(加入する保険者のルール・料率に従います)。給与計算ソフト側で年齢判定ができているか、賞与月だけ料率がズレていないかを確認します。
社会保険として押さえるべき「雇用保険料」(賞与にもかかる)
賞与から控除される「社会保険料」は、実務上は健康保険・厚生年金に加えて雇用保険料(労働者負担分)も含めて管理します。雇用保険料率は年度で見直されるため、賞与計算の前に最新率を確定させることが重要です。
- 令和7(2025)年度(2025/4/1〜2026/3/31)の雇用保険料率(一般の事業)は、労働者負担 5.5/1,000、事業主負担 9/1,000(合計 14.5/1,000)
なお、労災保険料や子ども・子育て拠出金は原則として事業主負担であり、賞与からの控除項目には入りません(会社側コストとして別途管理します)。
賞与の所得税(源泉徴収)の計算方法
原則:前月給与を基準に「算出率の表」を当てはめる
賞与の源泉所得税(復興特別所得税を含む)は、原則として国税庁の「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表(算出率の表)」を使います。ポイントは次のとおりです。
- 基準になるのは前月の給与(社会保険料等控除後)
- 甲欄/乙欄は「扶養控除等申告書」を提出しているかで決まる
- 税率を求めたら、(賞与−社会保険料等)×税率(1円未満切捨て)が基本
計算の入口で「前月給与(社保控除後)」を誤ると、税額が連鎖的にズレます。賞与計算月だけ通勤手当の遡及や欠勤控除があり、前月給与が普段と違うケースも多いので注意が必要です。
例外:前月給与の10倍を超える賞与(いわゆる10倍ルール)
賞与(社会保険料等控除後)が、前月給与(社会保険料等控除後)の10倍を超える場合は、算出率の表ではなく月額表を使う別計算になります。実務では、役員賞与・決算賞与・大きなインセンティブで発生しがちです。
このときは、賞与を6(または12)で割って月額換算し、前月給与と合算して月額表で税額を求め、前月分税額との差額を6(または12)倍する方式です(計算期間が6か月超なら12を使用)。
例外:前月に給与の支払がない場合
入社直後の初回賞与、育休復帰直後などで前月給与がない場合も、月額表を使った計算になります。賞与を6(または12)で割って月額換算し、月額表の税額×6(または12)で源泉税額を算定します。
計算手順(給与計算担当者の実務フロー)
Step 1: 賞与の支給額(総支給)を確定する
支給日、支給回数(年3回以下か)、同月内の複数回支給の有無を整理します。複数回がある場合は、社会保険の上限判定で合算が必要です。
Step 2: 社会保険(健康保険・厚生年金)の標準賞与額を作る
賞与総額から1,000円未満を切り捨て、健康保険の年度累計上限、厚生年金の月上限を適用します(上限超過分は保険料対象外)。
Step 3: 雇用保険料を計算する
適用事業の種類(一般、建設等)を確認し、当年度の労働者負担率を賞与に乗じます(端数処理は社内ルール・ソフト設定と整合させます)。
Step 4: 賞与の源泉所得税を計算する
(賞与−社会保険料等)をベースに、前月給与(社保控除後)と扶養人数から算出率の表で税率を確定します。10倍超や前月給与なしの場合は月額表計算へ切替えます。
Step 5: 検算と証跡の保存
上限判定(573万円、150万円)と税額表の年分、甲乙の適用をチェックリスト化し、計算根拠(前月給与の控除後金額、扶養人数、使用した表)を保存します。
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よくある間違いと注意点(現場の論点)
- 「社会保険料等控除後」の意味を取り違え、前月給与を総支給で見てしまう
- 年4回以上支給の「賞与」を、賞与のまま処理してしまい標準報酬とズレる
- 健康保険の年度累計上限(4/1〜翌3/31)を暦年で誤って管理する
- 算出率の表・月額表の「年分」を取り違え、前年表を流用する
- 賞与が高額で10倍ルールが発動しているのに通常計算のまま進めてしまう
比較表:賞与から控除・負担する主な項目
| 項目 | 計算のベース | 上限・ポイント | 負担者 |
|---|---|---|---|
| 健康保険 | 標準賞与額(1,000円未満切捨て) | 年度累計上限(4/1〜翌3/31で上限適用) | 会社・本人で折半(原則) |
| 介護保険 | 健康保険と同様(対象者のみ) | 40〜64歳が対象(一般的) | 会社・本人で折半(原則) |
| 厚生年金 | 標準賞与額(1,000円未満切捨て) | 1か月上限150万円(同月複数回は合算) | 会社・本人で折半(原則) |
| 雇用保険 | 賞与支給額(総支給)を基礎にする運用が一般的 | 料率は年度改定、事業種類で異なる | 労働者負担分を控除+事業主負担あり |
| 所得税(源泉) | (賞与−社会保険料等) | 原則:算出率の表/例外:10倍超・前月給与なし | 本人負担(会社が源泉徴収) |
ケーススタディ(匿名)
例えば、医療系法人A(従業員30名規模)で「12月に決算賞与を上乗せしたところ、源泉税が想定より大きい」と相談を受けたケースがあります。確認すると、前月給与が育休復帰者の時短で小さく、賞与(社保控除後)が前月給与の10倍を超えていました。通常の算出率の表ではなく月額表計算に切り替えるべき局面であり、これが税額差の原因でした。賞与は“例外判定”があるため、支給額が大きい月ほど計算ロジックの確認が重要です。
よくある質問
Q: 賞与が同じ月に2回あります。社会保険料は別々に計算しますか?
A:
同じ月に2回以上支給される場合、標準賞与額は合算して上限(厚生年金は月150万円)を判定します。健康保険も年度累計上限の管理が必要です。合算判定をせずに個別計算すると、上限超過分に誤って保険料をかけるミスが起こります。Q: 前月に給与がない(入社直後など)場合、賞与の源泉所得税はどうしますか?
A:
算出率の表の「前月給与」を使えないため、賞与を6(または12)で割って月額換算し、月額表で税額を求めて6(または12)倍する方法になります。賞与の計算期間が6か月超の場合は12を用います。Q: 賞与の社会保険料率(健康保険・介護保険)は全国一律ですか?
A:
一律ではありません。加入している医療保険者(協会けんぽ、健保組合等)や(協会けんぽの場合は)都道府県によって保険料率が異なり、年度途中で改定されることもあります。厚生年金の保険料率は全国一律で固定(現行18.3%)ですが、健康保険・介護保険は必ず最新の保険者公表資料で確認してください。まとめ
- 賞与の社会保険料は、標準賞与額(1,000円未満切捨て)×保険料率が基本
- 上限は「健康保険:年度累計」「厚生年金:月上限150万円」で考え方が異なる
- 雇用保険料率は年度改定。賞与計算前に最新率の確定が必須
- 賞与の源泉所得税は、原則「算出率の表」だが、10倍超・前月給与なしは例外計算
- 税額表は年分に注意。前年表の流用は典型的な誤り
参照ソース
- 国税庁「No.2523 賞与に対する源泉徴収」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2523.htm
- 日本年金機構「賞与にかかる保険料はどのように計算するのですか。」: https://www.nenkin.go.jp/faq/kounen/hokenryo/shoyokeisan.html
- 日本年金機構「厚生年金保険の保険料」: https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo/hoshu/20150515-01.html
- 厚生労働省「令和7(2025)年度 雇用保険料率のご案内(PDF)」: https://www.mhlw.go.jp/content/001401966.pdf
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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