
執筆者:辻 光明
代表税理士
社員旅行は経費になる?福利厚生費の条件|2026年版・税理士が解説

社員旅行は、一定の条件を満たす「従業員レクリエーション旅行」であれば、原則として福利厚生費として経費にできます。一方で、条件を外れると「参加者への給与(現物給与)」や「交際費」等に振り替える必要があり、税務調査での指摘も起こりやすい領域です。とくに経営者・総務担当者にとっては、「何を満たせば安全か」「どこから危険か」を事前に線引きすることが実務上の課題になります。
社員旅行が「経費になる」とはどういう意味か
ここでいう「経費になる」は、会計上は旅費交通費等で支出していても、税務上は最終的に「福利厚生費として損金算入できる状態」に整理できる、という意味合いです。
社員旅行の税務論点は主に2つあります。
- 法人税:支出が「福利厚生費」か「交際費等」か(損金算入の扱い、限度額の有無)
- 所得税(源泉):会社負担分が「従業員の給与(現物給与)」として課税されるか
つまり、社員旅行は「会社の経費」ではあるものの、福利厚生費として処理できるか、そして従業員に課税が生じないか、をセットで確認する必要があります。
福利厚生費として認められる条件
国税庁の考え方は、「旅行内容を総合的に勘案して、社会通念上一般に行われているレクリエーション旅行といえるか」で判定する、という整理です。そのうえで、実務の目安として次の要件を満たす場合は「原則として給与課税しなくてよい」とされています。
- 旅行の期間:4泊5日以内(海外の場合は現地滞在が4泊5日以内)
- 参加割合:全体の50%以上(支店・部署単位ならその職場単位で50%以上)
ただし重要なのは、「要件を満たしていても安心しきれない」「要件を満たしていなくても直ちに給与課税とは限らない」という点です。実際に国税庁の質疑応答では、参加割合が50%未満でも、福利厚生規程に基づく全従業員募集・会社主催・目的や負担関係などから、課税しなくて差し支えないとされる例があります。
社員旅行の「条件」を満たさない典型例
次のような旅行は、従業員レクリエーション旅行に該当しないため、給与・交際費などへ適切に振り分ける必要があります(実務上、否認リスクが高いパターンです)。
- 役員だけで行う旅行(従業員慰安ではない)
- 取引先への接待・供応を目的に含む旅行(交際費等の性格)
- 実質的に私的旅行(自由行動がほぼ全部、家族同伴が中心等)
- 金銭との選択が可能な旅行(「行かない人に現金支給」など)
福利厚生費・交際費・給与課税の違い
社員旅行は「誰のための支出か」で税務上の性格が分かれます。国税庁は、得意先等への接待・慰安のための支出は交際費等としつつ、専ら従業員の慰安のための運動会・演芸会・旅行など通常要する費用は交際費等から除かれ、福利厚生費などに該当すると整理しています。
さらに、従業員に対する給与(現物給与)とされると、会社側は損金になりますが、従業員側に課税が生じ、源泉・年末調整にも影響します。したがって、社内説明・従業員負担の設計まで含めて検討することが重要です。
| 区分 | 主な対象 | 税務上のポイント | 否認・課税リスク |
|---|---|---|---|
| 福利厚生費 | 全従業員向けの慰安・親睦 | 社会通念上一般的、私的性格が弱い、社内規程・運用が整備 | 条件外れ・私的性格で否認 |
| 交際費等 | 得意先・仕入先等への接待供応 | 飲食費は制度上の例外あり(基準等に留意) | 限度・区分誤りで否認 |
| 給与(現物給与) | 特定者への経済的利益 | 従業員課税・源泉/年調に影響 | 源泉漏れ・追徴 |
当法人(税理士法人 辻総合会計)では、社員旅行そのものよりも「旅程の実態」と「社内ルールの欠落(規程なし、募集方法が不明、費用負担が恣意的)」が原因で、福利厚生費としての合理性を説明できないケースを多く見ています。証拠と運用が税務の実態という発想が重要です。
経費計上の方法と実務手順
社員旅行を「福利厚生費として安全に処理する」ための実務を、手順で整理します。
Step 1: 旅行の位置づけを明文化する(規程・稟議)
- 福利厚生規程または社内規程で「年○回のレクリエーション旅行」「対象者」「会社負担の範囲」を定義
- 稟議書に目的(親睦、勤労意欲向上等)と実施主体(会社主催)を明記
Step 2: 対象者・募集・参加率の運用を整える
- 原則として全従業員を対象に募集(部署単位開催なら当該部署全員)
- 募集案内、申込フォーム、参加者名簿、参加率の集計を保管
- 参加率が低い場合は「会社都合で参加できない者がいないか」「特定者に偏っていないか」を点検
Step 3: 費用負担と領収書を整理する(内訳が肝)
- 旅行会社請求書、内訳書(交通・宿泊・食事・アクティビティ等)を保存
- 従業員負担がある場合は、徴収方法(給与天引き等)と入金記録を保存
- 観光色が強いオプションや家族同伴費用は、会社負担に含めない設計が安全
Step 4: 仕訳と勘定科目の設計(必要なら按分)
- 基本:福利厚生費(レクリエーション旅行)
- 例外:取引先同伴の飲食・接待要素は交際費等へ
- 私的部分(家族分、自由選択のオプション等)は本人負担、または本人分を給与課税として整理
実務では「全部を福利厚生費に入れる」より、グレーな部分を切り分けるほうが、調査対応の説明力が上がります。
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税務調査で否認されやすい注意点とリスク
社員旅行で否認が出る場面は、概ね次の3類型です。
1. 実態が「役員の私的旅行」になっている
役員のみ、役員中心、日程や行先が役員都合、自由行動中心などは、福利厚生の説明が困難です。役員同伴自体が直ちに否認ではありませんが、「従業員慰安が主である」ことを証拠で示せる状態が必要です。
2. 取引先が同行しており交際費要素が混在している
取引先への接待・慰安が目的に含まれると、交際費等への区分が必要になります。旅行全体が交際費に寄ると、福利厚生費としての主張が弱くなります。
3. 不参加者への金銭支給・選択制で「給与化」する
旅行不参加者へ現金を渡す、旅行と現金を選べる、などは給与課税側に整理されやすい論点です。制度設計の段階で避けるべきです。
よくある質問
Q: 1人当たりの上限金額はありますか?
A:
社員旅行について一律の上限金額が法令で定められているわけではなく、旅行の内容を総合判断します。国税庁は「少額の現物給与は強いて課税しない」という趣旨との整合性も含めて判断するとしており、費用の妥当性(社会通念)と記録整備が重要です。Q: 参加率が50%未満だと必ず給与課税になりますか?
A:
必ずしもそうとは限りません。国税庁の質疑応答では、福利厚生規程に基づき全従業員募集で会社主催、目的や負担関係などから社会通念上のレクリエーション旅行と認められる場合、参加率が50%未満でも課税しなくて差し支えないとされる例があります。ただし、個別事情により結論が変わるため、記録整備が重要です。Q: 役員も参加する社員旅行は福利厚生費になりますか?
A:
役員が参加しても直ちに否認とは限りませんが、「従業員慰安」が主であることが必要です。役員のみの旅行、実質的に役員の私的旅行と評価される場合は、福利厚生費ではなく給与や交際費等としての整理が必要です。Q: 研修旅行は社員旅行と同じですか?
A:
研修旅行は「業務に直接必要か」が判断軸です。観光が主で直接必要性が弱い場合、会社負担分が給与課税となることがあります。研修要素とレクリエーション要素が混在する場合は、必要に応じて按分・区分が必要です。まとめ
- 社員旅行は、社会通念上一般的なレクリエーション旅行であれば福利厚生費として処理できる
- 目安として「4泊5日以内」「参加率50%以上」が示されているが、最終判断は実態の総合判断
- 取引先同伴や役員だけの旅行、選択制(現金支給)は交際費・給与課税に寄りやすい
- 規程、募集記録、名簿、行程表、費用内訳など“説明資料”の整備が否認リスクを下げる
- グレー部分は切り分け(本人負担・交際費区分・給与課税整理)で安全性が上がる
参照ソース
- 国税庁「No.2603 従業員レクリエーション旅行や研修旅行」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2603.htm
- 国税庁「No.5261 交際費等と福利厚生費との区分」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5261.htm
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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